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151 世間は狭いです!

 ブレシャサンドの屋台の他にも色々な屋台を回って、色々なものを食べました。

 その中でも一番のお気に入りは最後にやって来た“猫喫茶ケット=シー出張店”と看板に書かれていた屋台です。

 働いていたのは海猫と呼ばれる海の中で暮らす猫ちゃん達と、とても綺麗なお姉さんでした。


 海猫と呼ばれる猫ちゃんの尻尾の先はイルカさんに似ていて、毛色がちょっと濃い水色の猫ちゃんです。

 海猫ちゃんを大きくすると、猫の姿のロポちゃんにとてもよく似ると思います。

 それと、全ての屋台でもそうなんですが、お姉さんと海猫ちゃんはメレカさんとお知り合いの様です。

 メレカさんの顔の広さに驚きです!

 とにかくです!

 そんな可愛らしい海猫ちゃんと、とても綺麗なお姉さんが屋台で提供している品はパンケーキでした。

 いえ、正確にはパンケーキではありません!

 パンケーキサンドです!!


 驚きです!

 パンケーキをパンケーキで挟んだパンケーキなんです!


 パンケーキを挟んでいるパンケーキは、しっかりした生地で弾力ともっちり感がありました。

 食べ応え抜群なそのパンケーキは、それだけでもハチミツなどを付けて色々な味で食べちゃいたいくらいの満足感のある美味しさです。

 そして、挟まれたパンケーキです!

 これには、あらゆる愛那ちゃん料理を食べてきた超ウルトラハイパーミラクルスーパーな私の舌も舌鼓したつづみです。

 まさに別格、まさかの愛那まなちゃんの作るパンケーキをも凌駕りょうがする美味しさです!

 ふわっふわで甘さ控えめ、かと言って甘々なのが好みの人でも満足できるような、脳に直接語りかけてくる様な甘味の驚くべき満足感。

 下の上で溶けてしまいそうな、でも溶けない……と思いきや、あまりのふわふわに気がついた時には無くなってる幸福感。

 本当にパンケーキなのかと思える程の至高のそれは、メインだと言うのに挟んでいるパンケーキすらも引き立てて、それでもまだ凌駕する程に美味しい。

 こんな凄いパンケーキ、今まで食べた事ありません!

 思わずシェフを呼びたくなります!

 あ、目の前にいました!


ほいひいへふ(おいしいです)!」


「瀾姫、食べながら喋ったら行儀悪い。これで18回目」


「へふ……」


 ラヴィーナちゃんは愛那ちゃんに似て厳しいです。

 将来は立派な可愛くて逆らえない鬼嫁になっちゃいます。

 うぅ……そんな事になったら悲しいですパンケーキ美味しいです。

 そんなの一部のM気質なド変態さんしか喜びません。

 私はそんなのご褒美だなんて思えないんです!

 パンケーキ美味しいです。

 美味しいパンケーキをもぐもぐごっくんすると、屋台のお姉さんに話しかけられました。


「気に入ってもらえて嬉しいわ。このパンケーキは猫喫茶ケット=シーの新メニューなのよ」


「そうなんですね。とっても美味しかったです!」


「ありがとう」


 大満足です!

 色んな屋台を回ったおかげで、お腹も膨れました。

 食べたので眠くなってきたくらいです。


 それにしても猫喫茶ケット=シー……侮れません。

 これは愛那ちゃんを連れて潜入捜査を早々にする必要があります。

 愛那ちゃんラヴなお姉ちゃんとしては、愛那ちゃんの為に心を鬼にして真実と向き合わなければなりません。

 だから、逃げては駄目なんです!

 必ずこのパンケーキの秘密を握って、愛那ちゃんの勝利をもたらさなければならないんです!


「あ、そう言えばメレカさん。さっきリリィちゃん見たわよ」


「あら? そうなの? この国に来てたのね」


「メレカさんとお姉さんはリリちゃんとお知り合いだったんですか?」


 驚きました。

 世間は狭いです!

 驚いて質問すると、メレカさんもお姉さんも私を見て、それぞれ「知っているのですか?」「知っているの?」と声を重ねました。

 私はそれに頷きます。


「はい。リリィ=アイビーちゃんです」


「今リリィは孤児院で子供の護衛してる」


 ラヴィーナちゃんが補足します。

 すると、お2人は納得したような顔をして、綺麗で優し気な微笑みを見せました。

 そこでリビィちゃんがパンケーキを食べている口を手で隠して、メレカさんに尋ねます。


「お姉ちゃんの友達だっけ?」もぐもぐ。


「ええ。でも、最近は会っていないわね」


「ふーん……」もぐもぐ。


「それなら会いに行ってみれば? リリィちゃんならそこの突き当たりを左に曲がって行ったわよ」


「そう。ありがとう、ビリア。それなら少し話をしに行こうかしら」


「私も行きます!」


「私も行く」


「あたちも行くでち」


「だったら私も一緒に行こうかな。待っていても暇なだけだし、それにお姉ちゃんのお友達なら会ってみたいし」もぐもぐごっくん。


「いってらっしゃい、メレカさん」


「ええ。ありがとう」


 綺麗なお姉さんとお別れして、リリちゃんを捜しに行く事にしました。

 孤児院を出る時に、お祭りに行くつもりが無いと言っていましたが、お腹が空いて出て来たのかもしれません。

 それなら、私のお勧めの屋台を紹介したいと思います!


 言われた通り突き当たりを左に曲がって進んで行くと、アクセサリーショップの出張屋台の前で、リリちゃんが難しい顔をして商品を見ていました。

 そのお顔はとても真剣で、あっちを見たりこっちを見たりで忙しそうです。


「リリィ、久しぶりね」


 メレカさんが声をかけるとリリちゃんが振り向いて、それから私達とメレカさんを交互に見て、何か納得したような表情を見せました。


「本当に久しぶりね。隣にいるのは妹さんかしら?」


「あら? よく分かったわね」


「それ位分かるわよ」


 メレカさんとリリちゃんが微笑み合って、リビィちゃんがジト目をメレカさんに向けました。


「ナミキ達とメレカは知り合いだったのね。あ、そうそう」


 そう言うと、リリちゃんが何かを思い出したかのような表情で人差し指を上に向けて、リビィちゃんに視線を向けました。


「妹さんに聞きたいのだけど、アレって祭りのもよおしか何かかしら?」


「アレ?」


 リリちゃんに言われてメレカさんとリビィちゃんが海を見上げます。

 私もラヴィーナちゃんもアタリーちゃんも見上げました。

 見上げると、光るお魚さん達や綺麗で見た事も無い生き物が楽しそうに泳いでました。

 それを見て綺麗だな~って思ってたんですが、他の皆さんはそうではないみたいです。

 私が「綺麗ですね~」って言ったら、アタリーちゃんが可愛らしいお顔を真っ青にして「増えてるでち!」と大きな声を上げました。

 はて?

 増えてるとはなんでしょう?


「瀾姫、吸血うにが増えてる」


「うにですか?」


 再び見上げます。

 確かに言われた通り、うにが増えてる気がします。

 う~ん……うにが食べたくなってきました。

 あそこにあるうに一つ貰っても良いですかね?

 なんだか凄くうにが食べたくなってきたせいで、目の前にうにが迫ってきてるようです。

 そんな事を考えている時でした。


「ナミキたん! 速く避けるでち!」


 アタリーちゃんが大きな声を上げて、それと同時にラヴィーナちゃんが私の手を引っ張りました。

 その瞬間でした。

 ラヴィーナちゃんに手を引っ張られる前に私が立っていた場所に、うにが勢いよく落下して地面に刺さりました……刺さりました!?


「へ、へぅ!? うにが空から降ってきました!」


「たっきからとう言ってるでちー!」


「すみません! ボーっとして聞いてませんでしたああ! うきゃああああ!」


 大変です!

 いつの間にかえらいこっちゃです!

 降ってきたうには1つだけじゃありません。

 いっぱいです!

 幾つとかわからないです!

 とにかくいっぱいです!


 そんな中、メレカさんが降ってくるうにからリビィちゃんを護りながら話します。


「リビィ、なんで女王の貴女が気が付かないの!? それに今の声は何? 革命軍【平和の象徴者(ハグレ)】? どう言う事なの!?」


「そんな事言ったって知らないよ! ――きゃっ! 早く城に戻って騎士達に民を護るように言わないと! お姉ちゃん手伝って!?」


「仕方ないわね!」


 何やら私がボーっとしてた時に、何かがあったみたいです。

 革命軍? なんて初耳ですし、話についていけません。


「ナミキ、ごめんなさい。申し訳ないけど、この子を城まで送らないといけないから」


「わかりました! 気をつけて下さい!」


 そう返事を返して、私はふと思いました。

 そして、私の胸の間にいるアタリーちゃんを持ち上げます。


「メレカさん、アタリーちゃんも連れて行ってあげて下さい! お城の中の方がきっと安全です!」


「ナミキたん!? でも……」


「かしこまりました。お受けします。良いわね? リビィ」


「もちろんよ。国民を護るのが私の役目だもの」


 女王様のリビィちゃんの言葉を聞いて、私は安心してメレカさんにアタリーちゃんを預けました。

 アタリーちゃんは何か言いたそうでしたが、おめ目をうるうるとさせて堪えたようです。


「では、お願いします!」


「はい」


「アタリーちゃん、もしかしたら愛那がまだお城の庭園にいるかもしれません。だから、もしまだいるようでしたら、愛那と一緒にお城の中にいて下さい」


「わかったでち! 任てるでち!」


「はい、お願いします!」


 私とアタリーちゃんが会話を終わらすと、メレカさんがアタリーちゃんとリビィちゃんをを連れて、めちゃくちゃ速い速度で消えて行きました。

 手を振ってお別れしようと思ったんですが、そんな余裕はありませんでした。

 それに見て下さい!

 まだまだたくさんうにが降ってくるんです!

 でも、何故でしょう?

 うにはたくさん降ってきているんですが、全然当たる気がしません。


「あれ? 周りはいっぱい降ってるのに、ここだけ降ってきません」


「違う。リリィが全部蹴ってる」


「蹴ってる? です……かあああああ!? リリちゃん凄いです!」


 本当に凄いです!

 ラヴィーナちゃんが教えてくれたので分かりました!

 なんとリリちゃんが降ってくるうにを蹴りまくってます!

 しかも動いてるところが見えないくらいにめちゃくちゃ速いです。

 見えないのに見えてる理由は簡単です。

 うにを蹴る時だけリリちゃんが見えてるんです。

 だから、移動中は見えません。

 こう、パパッと突然うにの前に出て蹴ってる感じです。

 アニメとかでたまに見るアレです!

 おかげで私達の頭上にはうにが落ちてこなくて快適です。


「よーし! 今日はうに料理を愛那ちゃんにお願いしましょう!」


 ワクワクしてきまし――


「瀾姫、ふざけてる場合じゃない。都が大変な事になってる」


 ラヴィーナちゃんの言う通り、安全なのはここだけで、周りは大変な事になってました。

 降ってくるうにに襲われて、たくさんの人が悲鳴をあげて逃げています。

 うかれてる場合じゃありませんでした。

 私は反省して、直ぐにシュシュのサポートをオンにして魔力を集中します。


「すみません! ラヴィーナちゃんありがとうございます! 今から皆さんを護ります! アイギスの盾フリスビースタイルですー!」


 見える範囲だけにはなりますが、うにから逃げている人の頭上に向かって魔法で出した盾を飛ばします。

 私は野球選手では無いのでコントロールはそこまでよくありませんが、それでも見える範囲にいる逃げてる人を護る事は出来ました。

 それで、良かったです。と、思っていると、リリちゃんが私の目の前に立って楽しそうに笑いました。


「良いじゃないの、うに料理。私も手伝うわよ?」


「――っえ?」

 

 冗談を言ったのかと耳を疑いましたが、そんな事ないみたいです。

 驚いた私にリリちゃんが楽しそうに話します。


「マナが作った朝ご飯のおかずのフワフワの玉子焼きを見て思ったのよね。私の好きな人に食べさせたら喜びそうって」


「好きな人ですか?」


 リリちゃんは話しながらも、うにを蹴散らします。

 いえ。

 更にリリちゃんのスピードが上がっていて、瞬きする間もなく目の前から消えたり現れたりするので、実際に蹴散らしている姿は速すぎて見えないです。

 ですが、確実にうにがどんどん爆ぜていってるので間違いないです。


「ええ、そうよ。だからマナから知らない料理が他にもあれば、それと一緒に教えてもらいたいと思っていたのよ」


「そうなんですね」


 私が頷いたその時です。

 更に大変な事になりました。

 いつの間にか、知らない男の人達に囲まれていたんです!

 多分10人くらいいます。

 へぅ!

 しかもめちゃくちゃ顔が怖いです!


「あのおっぱいの大きさ! 見つけたぞ! この黒い髪の女が混血種を差別している差別主義者の牛の獣人の女だ!」


 へぅ!?

 あわわわわわわわ!

 差別主義者の牛の獣人ってなんですか!?

 私は人間です!

 でも愛那ちゃんから人間って言っちゃ駄目って口止めされてて言えません!


「間違いねえ! ぶっ殺せえええええ!」


「覚悟しろやモーベル侯爵夫人! ひん剥いて殺してやらああああああ!」


「ひ、人違いですううう!! 私そんな名前じゃありませーん!」

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