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148 VS革命軍 その2

 水の都フルートに侵攻してきた革命軍【平和の象徴者(ハグレ)】。

 彼等はわたしがお世話になった村の人達で、わたしは今、その村に住む革命軍【平和の象徴者(ハグレ)】の1人ステラさんと睨みあっていた。

 しかしそんな中、この緊張感のある空気が張り詰められたこの場所で、ただ1人空気の読めないどうしようもない愚か者がいた。

 その愚か者とは、わたしの背後にいるラタの父親だ。

 ラタの父親は自分のおかれている状況を理解してないのか怒声を上げる。


「フルート城の騎士どもは何をやっているんだ! こんな小娘では話にならん! 私の近衛隊が手も足も出なかったんだぞ! どいつもこいつも使えないゴミクズどもが!」


 自分の犯した罪を奥さんに弁明していたかと思ったら、今度はこれだ。

 つくづく助ける価値が無いように思えてしまうラタの父親は、口だけは一人前にまだまだえる。


「しかもよく見たらさっきのうさぎの獣人のガキではないか! くそっ!」


 そう言えば、ラヴィのうさ耳カチューシャをまだ付けていたなと思いだす。

 わたしが頭につけているうさ耳カチューシャを見て、ステラさんもそれがラヴィに自分が渡した物だと気付いたのだろう。

 一度うさ耳に視線を向けて、少しだけ顔を悲しそうに歪ませた。


 わたしの背後ではラタの父親が煩く怒鳴り散らし、それをかたつむりが制止させようと必死に話しかけている。


「旦那様、この方は旦那様と奥様を助けに――――」


「黙れカトリーヌ! 貴様の意見など聞いておらん! 貴様も貴様だ! こんな直ぐ死にそうな下民のガキでは無く、さっさと城の騎士を連れて来い!」


「……っ」


「まったく、そうは思わんか? 使えない奴等だ」


 ラタの父親はそう言うと、隣にいる奥さんに同意を求めた。

 だけど、奥さんは何も言わない。

 ただ黙って前を見るだけで、話を聞こうとすらしていなかった。

 すると、ラタの父親は更に怒声を上げる。


「カトリーヌ! 貴様何をしている!? 私に恥をかかす気か!? さっさと行け! このガキが死ぬまでに呼んで来いと言ってるんだ! このうすのろが!」


「そんな……っ」


 ラタの父親のあまりの醜態に、かたつむりも動揺してから黙り込んでしまった。

 わたしは怒りを覚えながら、それでもステラさん達から目を離さない。

 例え助ける価値が無いと思ったとしても、ラタの為に戦うと決めたから。


「ねえ、マナちゃん。そこをどいて? 分かったでしょう? その男は死ぬべきなんだよ」


「……どきません」


「はあ……。だったら本当にさよならだね。マンダ、ナズ!」


 ステラさんと2人の男がわたしに向かって走り出す。

 わたしは魔石を二つ取り出して、その内の一つを片方の男に向かって投げて、魔石に封じられている魔法をシュシュの力で解放する。


「――ちぃっ!」


 魔石から飛び出したのは粘着性の高い水の網。

 これでメソメに頼んで魔法を入れてもらった魔石は手元から全て無くなった。

 だけど、成果は上々。

 水の網は男を絡め取り身動きを封じた。


「ナズ!」


 ステラさんが叫び、一瞬だけ動きを鈍らせる。

 わたしはそれを見逃さない。

 取り出していたもう一つの魔石を目の前にかざして、シュシュの力で魔石から魔法を発動させる。


「――これは!? っくうぅっっ…………」


 魔石から飛び出したのは重力の魔法。

 モーナに魔法を入れてもらった魔石で、対象相手に10倍程度の重力を与える魔法だ。

 但し、使えるのはこれ一回きりで、持続時間は3分程度。

 魔法が強力すぎて、これ以上は持っている魔石ではもたないらしい。


「あと1人!」


「なめるなよ!」


「――っ!!」


 残りの1人がサーベルを振るい、わたしはそれを寸での所で何とか受け止める。

 だけど、受け止めたはいいけど明らかな力負け。

 わたしは押されながら、ギリギリの所で持ちこたえている状態となる。


「所詮はまだ子供だな。このまま押し切ってやる」


 ただでさえギリギリなのに、更に強い力で押されて、かなりヤバい状況となってしまった。

 このままスキル【必斬】を使う事も考えたけど、それをすると、逆に危険な可能性が高い。

 何故なら、男のサーベルを斬ったとしても刃が確実に残るからだ。

 刃を交えている場所はサーベルの中間あたりで、そこを斬ってしまえば刃が残るのは当たり前。

 そうなれば、残った刃の部分がそのままわたしを斬ったっておかしくない。

 だから、ここでスキルを使用するのは得策では無かった。


「安心しろ。急所・・でもある首を斬り落として苦しまず逝かせてやる」


「あっ、急所か……ヒントをくれて感謝します!」


「ヒン――――ッドオオオオアアアアアアアアアッッ!!??」


 わたしは攻撃し、男は飛び跳ね地面に転がる。

 それは何故か?


「クックゾガギイイイイイ!! 卑怯だぞおおっっ!」


 転がる男に追加攻撃。

 男はそれが止めになったのか、泡を吐いて気絶した。

 そしてそれを見て、捕らわれて座らされていた何人かの男の貴族が顔を青くさせ、誰かが「むごい」と呟いた。

 それもその筈。

 わたしが男にした攻撃は、男性にとってのデリケートで大事な部分、急所も急所の金的攻撃だからだ。

 それはもう思いきり力を込めて、蹴りを食らわせてあげたわけだ。


「卑怯で結構」


 そう呟いた瞬間だった。

 座らされていた人達が「動けるぞ!」と言って、一斉に動き出した。


「動ける? ……もしかしてスキルで拘束してたって事?」


「やってくれたわね!」 


「――っ!」


 咄嗟に魔石を目の前にかざして、氷の盾を出現させる。

 教会内で使ったのと同じラヴィに入れてもらった魔法で、今回使用した事で残り使用回数は1。

 だけど、ステラさんの不意打ちの斬撃を防ぐ事が出来た。


「随分と強力な魔法の入った魔石を持ってるのね?」


「ステラさんこそ、予定より早く重力の魔法から抜け出して驚きました」


 わたしとステラさんは睨み合う。

 正直少しヤバいかもしれない。

 使える魔石は既に今使った氷の盾の入った魔石のみ。

 スキル【必斬】はあるけど、ステラさんの動きが速くて捉えられるか不明。


 せめてもの救い……になるかは分からないけど、捕まっていた人達は動ける様になった事で、皆が一斉に逃げ出していた。

 護る相手がいなくなりさえすれば、わたしもこの場をさっさと退散できる。

 ありがたい事にラタの父親も母親を置いて逃げて行ったから、後は母親を…………っ!?


 ありえないでしょ!

 あのハゲオヤジ、自分の奥さんを置いて逃げてったの!?


 そんな事を考え焦ってチラリと視線を一瞬だけ移せば、ラタの父親の姿は本当に何処にも無く、母親は精気が抜けたような表情を見せその場に座っていた。

 あくまでわたしの予想だけど、自分の夫があんな最低の人間だったから、それで失望して動く気力すら無くなってしまったのかもしれない。


「あの男おおっっ!」


 ステラさんが怒鳴り声を上げて、わたしから見て右、城へ向かう方角へと視線を向けた。

 つられて視線を向けると、ラタの父親がそっちに逃げている姿があった。

 そしてステラさんがそれを追い、それを見て、かたつむりがわたしの肩の上で叫ぶ。


「お願いします!」


「分かってる!」


 わたしは返事をしながら走り出すけど、全然追いつける気がしない。

 加速魔法が使えない子供のわたしからしたら、ステラさんは速すぎるのだ。

 でも、だからって諦めるわけにもいかない。


「変な所に当たらないでよ!」


 そう口にしながら、スキル【必斬】を乗せた斬撃を振るい飛ばす。

 斬撃はステラさんの左足に命中し、脹脛ふくらはぎを深く斬り、ステラさんは勢いよく転がった。


「良かった。止まってくれた」


 余程勢いよく転んだからか、ステラさんは地面に転がって目を回して気絶していた。

 とりあえず命に別状はない様で安心する。


「旦那様…………」


 かたつむりの呟きを聞いてラタの父親が逃げた方向に視線を向けるも、本当に奥さんを置いて逃げたようで既に姿は見当たらない。

 逃げ足早いなと思いながら、未だ座ったままその場にいるラタの母親に視線を移して、直ぐに城へ続くメイン通りの先を見た。


「悪いけど、ラタのお母さんは置いてこのまま城に向かうよ」


「はい、お願いします」


 わたしは城へと続くメイン通りを走り出した。

 決してラタの父親を追いかける為では無い。

 ラタが家族で食事をする予定だったレストランにはラタの姿は無く、周辺に隠れているとも考えれなかった。

 何故なら、もし周辺にいるなら、ステラさん達を無力化した今なら母親の許に出て来てもおかしくないからだ。

 周辺にいないなら、お披露目会をした城の庭園からここに向かっている途中で、何かがあって来ていないと考えられる。

 だから、ラタを捜すなら、城に向かった方が手がかりを探せると考えたのだ。


 かたつむりも同じ事を考えたのか同意したので、わたしは再び走り出す。

 そして、改めて都の惨状を何度も目にした。


 革命軍【平和の象徴者(ハグレ)】の犯行は酷いものだった。

 悲鳴や怒号の応酬。

 ここでは無い何処かから、人々の叫びと犯罪者たちの怒りの声、そして争いの音が耳に届く。

 生々しい肉が斬り裂かれる音や、何かが潰される気味の悪い低音の山。

 それだけじゃない。

 あちこちに死体が転がっていて、その死体の血を吸血うにが吸っている。

 その中にはわたしよりも小さな子供もいて、耐えれず子供の血を吸う吸血うにを真っ二つに斬り裂いた。

 彼等は差別主義者を狙うと言った。

 差別は良くない。

 そんなの子供のわたしだって分かる。

 でも、だからってこんなのあんまりだ。

 大人相手なら良くは無いけどまだ良い。

 だけど、まだ幼い子供にすら手を出すなんて、こんなのあっちゃならない事だ。


 目をつぶりたくなる様な悲惨な惨状の中を暫らく進んでいると、前方の少し先から「きゃああああ!!」と叫び声が聞こえてきた。

 そしてその声は、わたしの知る声。

 あの時お披露目で歌を聞いて、そして見て感動して、わたしが拍手を送った女の子。


「ラタッ!!」

「ラタお嬢様!」


 視界に映るは、マダーラ公爵の一人娘ラタ=コ=マダーラ。

 捜していた女の子で、かたつむりのご主人様。

 そしてラタを今まさに誰かが襲っている。


「マナ!? カトリーヌ!?」


 わたしとかたつむりに気づいてラタが叫ぶ。

 すると、ラタを襲っていた誰かがわたしに振り向いた。

 振り向いた誰かは、豚鼻に豚耳、手に水かきのある魚人と豚の獣人の混血を持つよく知る人物。


「マナ……だと…………っ?」


「……ウェーブさん」


 ラタを襲っていたのは、ハグレの村で出会い、シェルポートタウンまで一緒に旅したウェーブだった。

 ウェーブと目が合い、わたしとウェーブはお互い動きが止めた。

 すると、今の内にと考えたのか、ラタがわたしに向かって走り出す。

 本来であればその姿は隙だらけで良い的だった。

 だけど、ウェーブはラタを襲わず、ため息を吐き出して面倒臭そうに顔を歪ませた。


「一番会いたくない奴に会っちまったぜ」

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