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142 お披露目会の結果発表

「ぶっ殺してやるわ!」


 突然響き渡るモーナの物騒な殺人予告。

 たった今お披露目を終えて舞台を去ろうとしたわたしは驚きのあまり立ち止まって、観客席にいるモーナに視線を向ける。

 モーナは目の前にいる正確の悪そうな禿げたおっさんに掴みかかろうとして、リングイさんに体を抑えられた。


「もう、何やってんのあの馬鹿」


 わたしは小さく独り言を呟いて、関わりたくないけど保護者として止める為にモーナの所へ向かう。

 と言うか、係員のお姉さんが顔を真っ青にして動き止めちゃってるし、審査員の貴族の人達もモーナを見て眉根上げてるしでヤバい。

 女王様は怒ってはいないけど、困惑した様な苦笑を浮かべていて正直申し訳ない。


 わたしがモーナの側に行くと、お姉達が焦った顔でわたしを見る。


「モーナ」


「マナ!?」


 話しかけるとモーナがわたしに気づいて振り向いたので、モーナの顔にデコピンを食らわせてやる。


「――っんにゃ! 何をするー!」


「それはこっちのセリフ。少しは大人しくしてなよ」


「大人しくなんてしてられるか! こいつはマナを馬鹿にしたんだぞ!」


「へ?」


 お姉に視線を向けると、お姉がラヴィを背後から抱きしめながら悲しそうな顔でこちらを見ていて、目が合うと頷いた。


「こいつだと? たかだか獣人風情が私をこいつ呼ばわりとは反吐が出る! 誰かこの無礼者を捕らえろ!」


「無礼者はおまえの方だ!」


「やめろモーナス! それ以上喋るな!」


 モーナが暴れようとして、リングイさんが抑える力を強める。

 周囲はざわつき、皆がわたし達に注目する。

 正直ヤバい。

 何がヤバいって、そんなの分かりきっている。

 ヤバいのはこの恥ずかしい状況では無く、お披露目会でのわたしの処遇。

 このままだと……いや既にもう失格間違いなしのこの状況。

 最早1位どころか出場資格すら剥奪されてしまいそうだ。


「衛兵! 早くこの無礼なガキ共を捕まえろ!」


 禿げたおっさんがわたし含めて指をさす。

 だけど、警備をしていた兵は動かない。

 と言うよりは動けない様だった。


「何をしている!? 早くしろ!」


 禿げたおっさんが怒鳴り叫ぶけど、兵達は動かない。

 顔を青くさせるだけで、ただこの状況を見ているだけ。

 そして、女王様が動いた。


「マダーラ公爵、少々おふざけが過ぎますよ?」


 その声はどこまでもんでいて、騒めく周囲の声の中でも驚くほどハッキリと耳に届いた。

 そしてその声は禿げたおっさんどころか、周囲の騒めきをも嘘の様に一瞬にして止める。

 全員が女王様に注目し、女王様が優しい笑みを見せる。


「マナ……と言いましたね。可愛らしくて、とても素敵なものを見せて頂きました。ありがとうございます」


「い、いえ……」


 今直ぐ出て行けと言われる覚悟だったのに、女王様から飛び出したのはまさかの褒め言葉。

 だからこそわたしは驚き硬直する。

 そんなわたしに女王様は微笑み、そして、モーナが起こした騒ぎは終結した。

 流石に女王様相手では、禿げたおっさんも何も言い返す事が出来なかった。




 係員のお姉さんから舞台裏に戻る様言われたのでダンゴムシと一緒に戻ると、お披露目会が始まる前にわたしに絡んできた子が眉根を吊り上げてわたしの前に立った。


「よくも私様わたくしさまのお父様に恥をかかせてくれたわね? 格の違いを見せてあげるわ」


 この子の番号は8番だったようで、そう言うと係員に呼ばれて舞台に出て行く。

 確かこの子の名前はラタ=コ=マダーラ。

 女王様は禿げたおっさんをマダーラ公爵と言っていたし、成る程あの禿げたおっさんの娘かと理解する。


 そして、ラタの歌と踊りが始まった。

 流れる曲は美しい旋律。

 その旋律と絡められる歌声は、テレビとかで活躍する歌手と比べたらまだまだだけど、それでも上手い透き通って綺麗な歌声。

 少しだけ顔を覗かせて様子を見ると、少女とは思えない程に洗練された動きで、優雅で美しい貴族のダンス。

 わたしは感動して言葉を失った。


 曲が終わり、観客席から出る大きな拍手が鳴り止まない。

 間違いなく今日一番の拍手だった。

 最早誰が優勝かなんて言うまでもない程に。

 そして、その素晴らしさに、気が付けばわたしも一緒に拍手をしていた。

 すると舞台からラタが戻って来て、未だに拍手しているわたしと目が合った。


「……何で拍手してるのよ?」


「へ? あ、ああ。だって凄かったし」


 素直に感想を述べると、何故か睨まれる。


「あなた馬鹿なんじゃないの? あなたより大きな拍手を私様がもらったのよ! 悔しがりなさいよ!」


「別に悔しくないし」


「はあ!?」


 ラタがわたしを更に鋭く睨み、顔を目と鼻の先まで近づける。


「近い近い」


 って言うか、近づかれるとかたつむりも近づくから来ないでほしい。


「黙りなさい! 悔しくないですって!? あなたにはプライドがないの!?」


「ラタが凄くて感動したのは本当だし、悔しいより尊敬の方が大きいかな」


「――っな!?」


 更に素直な感想を言うと、ラタは顔だけでなく耳まで真っ赤にして驚いて、直ぐに「ふんっ」と鼻息を荒げて足早に離れていった。

 そんなラタの後ろ姿を見ながら、褒められ慣れてないのかな? なんて思いながら、わたしもこの場を離れて適当な椅子に座って休憩する。


 それにしても、ラタの歌と踊りは凄かった。

 今思いだすだけでも若干だけど興奮するくらいには感動した。

 流石は公爵家のお嬢様と言った所で、とても同世代くらいの子だと思えない程に完璧だった。

 それにさっきのあの反応。

 褒めても澄ました顔して褒められ慣れた感じで何か言われると思ったけど全然そんな事は無く、耳まで真っ赤にして逃げ出すなんて、年相応で少しだけ可愛いと思った。

 こんな機会でも無ければ一生話す事も出来無かっただろうけど、もっと別の形で出会いたかった。

 そうすれば色々話も出来て、もっと仲良くなれたかもしれない。




 何人かのお披露目が終わって、残りは結果を待つだけになった。

 結局、わたしが感動する程に凄いと感じたのはラタだけで、他の子達は似たり寄ったり。

 お金持ちだとか位の高い人だかへの忖度そんたくで、なんの実力も無い人がこう言う大会でよく優勝したりするけれど、このお披露目会ではそんなものは関係無いだろう。

 公爵家のお嬢様であるラタは本当に凄かった。

 これはラタが優勝で決まりだなんて思っていると、出場参加者のわたし達全員が舞台に上がる様に係員のお姉さんに言われて移動する。


 舞台に立って、お姉達に視線を向ける。

 お姉は何かに祈る様に両手を絡めてわたしを見ていて、アタリーと孤児院の子供達の何人かもそれを真似するかのようにしている。

 モーナは未だに機嫌が悪いのか、目の前にいる禿げたおっさん……マダーラ公爵を睨んでいる。

 ラヴィはいつもの虚ろ目をわたしに向けていて、心なしか少し口が引き締まっている。

 リングイさんやフナさん達、他の皆はワクワクした様な表情を浮かべていた。


 お姉達には悪いけど、既にわたしは諦めていた。

 わたしが歌ったアニメの歌が悪いわけでもないし、歌も踊りも真剣にやったし後悔もない。

 全力でやるだけやった。

 だけど優勝は出来ないと思った。

 何故なら本当にラタが凄かったから。

 どれだけ練習したのかと言う程に歌も踊りも年齢を感じさせない程に完璧だった。

 あんな良いものを見せられたら、最早負けを認めるしかない。

 もしこのお披露目会にラタがいなかったら、きっとわたしは優勝出来るかもなんて事を思っていたかもしれない。

 それ程に抜群に他との次元が違っていた。


 隣に立つ未だ耳まで赤く染めるラタを見て目が合った。

 ラタは慌ててわたしから視線を逸らして前を見る。

 さっきまでの人を馬鹿にしたような態度が嘘の様になんだか可愛いそんなラタを見て、それが何だか可笑しくてわたしはクスッと小さく笑う。

 すると、今度は機嫌悪そうに睨まれた。

 どうやら可愛いテレ姿は終わってしまったらしい。

 残念だなどと思いながら、わたしは結果を待った。


 女王様が審査員席から立ち上がり、そして、ついに一番優秀だった人が選ばれる時がやってきた。


「皆さん、本当にい歌と踊りを披露して頂き、とても嬉しく思います。大変心苦しくはありますが、我々で審査した結果最も優秀だと判断した者を発表します」


 女王様はそこまで話すと、お披露目会に参加したわたし達一人一人の子供達と目を合わして、緊張と言う言葉がこの場の空気を支配する。

 参加したわたし達だけでなく、観客席にいた誰もが女王様に注目して次の言葉を待った。

 そして、全ての子供達と目を合わせた女王様は微笑み、口を開く。


「エントリーナンバー7番。マナ、おめでとう、あなたが一番です」


「…………っへ!?」


 まさかの結果に、わたしは一瞬何を言われたのか分からなくて理解するのに数秒遅れて、その上驚きのあまり大口を開けたマヌケ顔で固まってしまった。

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