幕間 瀾姫の焼き肉大作戦
※今回は瀾姫視点のお話になります。
「牛土竜さんを捕まえに行きましょう!」
「わたしパス。メソメ達と予定あるし」
「そうですか……残念です。モーナちゃんは――」
「私はスミレの手伝いで奴隷を何人か家に届けるから無理だな」
「そう言えばそうでした。頑張って下さい。チーちゃんは……お母さんの所ですね」
「瀾姫、私が一緒に行く」
「ラヴィーナちゃん!」
流石はラヴィーナちゃんです!
可愛くて優しくてパーフェクトな女の子です!
感極まりました。
私はとっても心の優しい可愛い可愛いラヴィーナちゃんを抱きしめました。
ラヴィーナちゃんも愛那ちゃんと一緒にお出かけすると思っていたのに、本当にいい子です。
皆に大人気で引っ張りだこの妹の愛那ちゃんと、ネコネコ可愛いモーナちゃんに断れてしまいましたが、ラヴィーナちゃんと牛土竜を捕まえに行く事になりました。
牛土竜。
このドワーフの国にしか生息しない希少なモグラさんです。
先日夜ご飯で食べて、牛の様な食感と味に感動してしまいました。
そして思ったんです。
焼き肉が食べたいです!
と言うわけで、サガーチャさんとグランデくんに詳しいお話を聞いて、牛土竜さんで焼き肉をする事に決定したんです。
我ながら恐ろしい事を考えてしまいました。
最近はこの世界に来てから焼き肉を食べてないので、必然と言えば必然でした。
ですが、まさか異世界に来て焼き肉したいだなんて誰も思わない筈です!
……多分!
ラヴィーナちゃんを連れて、目的の牛土竜さんがいる場所を目指してお城を出ました。
城門まで歩いて来ると、門番さんとナオさんが何かお話してました。
私達が近づくと、門番さんがナオさんに一礼して持ち場に戻って、ナオさんが私達に小さく手を振りました。
「ナミナミとラビちゃん、おはよー」
「ナオ、おはよう」
「ナオさん、おはようございます。今からお仕事ですか?」
「今日は非番だからお散歩中だよ」
「そうなんですね」
「それなら護衛して」
「にゃー?」
「いいですね! 護衛と言うか、一緒に牛土竜さんを捕まえに行きましょう!」
「牛土竜? にゃあ……」
ナオさんが考える素振りを見せます。
ナオさんは猫の獣人さんだから、耳と尻尾が猫さんと同じ動きをします。
今も尻尾がピクピクしていて可愛いです。
「ニャーも一緒に行くよ」
「やりましたー!」
嬉しくて胸の前に両手で拳を作って、ぴょんっとジャンプしました。
そしたら、ナオさんとラヴィーナちゃんが門番さんをジト目で見たので視線を向けると、門番さんが赤い顔をしていて目を逸らしました。
なんだったんでしょうか?
風邪でも引いたのかもしれません。
お大事にです。
ナオさんを仲間に加えて、いざ、牛土竜さん退治です!
あ、間違えました。
牛土竜さんを捕まえに行きます!
牛土竜さんの生息地は、今私達がいるこの城下町の上の坑道です。
ここは元々は魔石を発掘する為の鉱山だった所の地下に作った町が発展して、この大きな大空洞に国を作ったと言っていました。
だから、この地下にあるドワーフさん達の町の上には、魔石を掘っていた坑道が残っているそうです。
今はもう殆ど魔石はとれない様ですが、牛土竜さんをはじめとした動物さん達の住処になっているそうです。
それで、ドワーフさん達も食料として牛土竜さんを狩猟しているのです。
狩猟には国の許可証が必要なのですが、そこは問題ありません。
サガーチャさんから頂きました!
完璧です!
城下町を出て坑道を歩いて、長くてくねくねした坂道を上って行きます。
長くて……長く…………長………………まだつかないんですか?
「瀾姫、大丈夫?」
「は、はい。ハア、ハア。…………大丈……夫じゃないです」
「にゃあ、大丈夫じゃないのね。最初はあんなに元気に走り回って先頭を歩いてたのに」
「いつもの事」
「いつもなんだ」
坑道の坂道はとても長くて、私の体力は限界でした。
パーセントで表すと、100パーセントが体力として、今の私は-1000パーセントくらいです。
もう一歩も歩けません。
息も切れてヤバヤバです。
あ、地面が近――
「――痛いでずううう……っ」
「にゃー!?」
「瀾姫っ!」
疲れすぎて顔から地面にダイブしてました。
おでこがヒリヒリして痛いです。
おでこを触ると、手にちょっとだけ血がつきました。
「治す。これ飲んで」
ラヴィーナちゃんにお水の入ったコップを渡されました。
お水美味しいです。
お水を飲んでる間に、ラヴィーナちゃんが私のおでこを魔法で治してくれます。
ラヴィーナちゃんの優しさがおでこと心にします。
お水もう一杯下さい。
一休みしてから、再び坑道を歩きます。
坑道を歩くのはとても大変でしたが、ラヴィーナちゃんとナオさんのおかげで目的地に辿り着きました。
やって来たのは鉱山の中継地点。
少し広くなっている空洞で、魔石を掘っていた頃はドワーフさん達が寝泊まりしていた場所です。
今は名残りで作業道具が少しだけ残っているだけで、あちこちに大きな石が転がってるだけの場所でした。
そしてそこには1人だけ、見知った顔がありました。
「グランデくん!?」
ドワーフの国の王子様のグランデくん。
愛那ちゃんと同い年かいっこ下の男の子です。
グランデくんの姿を見つけて驚いて名前を呼んだら、グランデくんが振り向いて爽やかに笑いました。
「やあ、ナミキ。それにラヴィーナとナオも」
「ん」
「グラグラ、こんにちは」
「おはようございます。グランデくん、こんな所で何をしてたんですか?」
「ああ、実はナミキに牛土竜の話を聞かれて、余も食べたくなったんだ」
「そうだったんですね。お揃いですね」
「はは、そうだね」
グランデくんと一緒に笑います。
すると、ラヴィーナちゃんが可愛らしく首を傾げました。
「兵に頼まなかった?」
「ああ。今は奴隷にされていた子供達を親許に帰す為に、兵達が頑張ってくれてるだろう? それなのに、余が我が儘を言って邪魔をするわけにはいかないと思ったのさ」
「素敵です! グランデくんはいい子ですね~」
とっても偉いです。
だから、グランデくんをだきしめて、頭をいい子いい子と撫でてあげました。
ちょっと照れていて可愛いです。
「にゃ~。流石の王子様もナミナミの包容力には敵わないみたいね。流石はおっぱい。ニャーもあやかりたい」
「うん。瀾姫の胸は愛那とは別の安心感がある」
ナオさんとラヴィーナちゃんが何故かおっぱいを褒めました。
愛那には「邪魔そう」とか「無駄」とか言われてるから、良い物ではないと思います。
それに男性の方がよく見てるとも言っていました。
私は誰かの視線を気にした事が無いのでよく分かりませんが、それよりも肩がこるので大変です。
あ、そんな事よりです!
「早速牛土竜さんを捕まえましょう!」
「おー」
片手を上げて元気よく言うと、ラヴィーナちゃんも一緒に片手を上げてくれました。
それにナオさんも声は出していませんでしたが、少しだけ手を上げてくれていました。
グランデくんは苦笑してました。
「牛土竜さんはどうやって捕まえるんですか?」
「にゃっ。知らずに来たの?」
「はい! 勢いがあればどうにかなると思いました」
「いつも通り」
「いつもなんだ……。って、ナミナミ、牛土竜を捕まえるなら、まずは周囲の松明の明かりを消すところからだよ」
「松明ですか?」
本当でした。
何だか明るいなあって思っていましたが、壁にたくさん松明があって、それが燃えていて明るかったみたいです。
グランデくんも「言われてみればそうだったね」と言って、肩を竦めて笑ってました。
皆さんと一緒に松明の火を消していきます。
火を消しながら捕まえ方を聞いて、いざ出陣です!
まずは牛土竜さんが好むと言う草です。
でも、ただの草ではありません。
リーフワームと言う名前のミミズさんです。
胴体にたくさん長細い草の葉っぱがついてるミミズさんです。
このミミズさんを入れた小さな石のお皿を置いて、私達は身を潜めました。
真っ暗になった空洞で音を立てないようにして、耳を澄まします。
最初は何も聞こえませんでしたが、少し経ってから「モーグ」と鳴き声が聞こえてきました。
来ました!
牛土竜さんがミミズさんをモキュモキュ食べる音が聞こえてきました。
後ちょっとです。
ジッと待って、食べる音が無くなりました。
ナオさんが魔法で空洞の中を炎の光で灯します。
空洞が炎の光で照らされて、私の目に牛土竜さんが映りま――――。
「――へぅっ! ヤバいです! 牛土竜さんめちゃくちゃ大きいです!」
本当に大きくてびっくりした私は、思わずステチリングの青い光を当ててしまいました。
牛土竜
年齢 : 386
種族 : 土竜『静獣・牛土竜種』
職業 : 無
身長 : 228
装備 : 無
味 : 普通
特徴 : 鉄蹄
加護 : 土の加護
属性 : 無
能力 : 未修得
驚きのでかさです!
見た目はモグラさんにうしさんの耳と足と尻尾をつけた感じの見た目でした。
それが2メートル近くの大きさです。
サガーチャさんのお話では、牛土竜さんは30センチくらいってお話でした。
って、今はそれどころじゃありません!
空洞が明るくなると、牛土竜さんが暴れ出しました。
「にゃあ!? このモグラ大きすぎない!?」
「凄く大きい」
「喋ってる場合じゃないみたいだよ」
「はい! この牛土竜さんは長老さんと名付けます!」
「そんな事言ってる場合じゃ――っにゃあ!」
長老さんがナオさんに突進しました。
もの凄い速さで、全然お腹いっぱいって感じじゃないです。
不意打ちだったからか、ナオさんも長老さんの突進を避けれずに食らってしまいました。
ナオさんは吹っ飛ばされてしまい、壁に激突しました。
長老さんはまだ暴れます。
今度はラヴィーナちゃんに突進しようとしてます。
でも、そうはさせません。
「アイギスの盾!」
私は直ぐにラヴィーナちゃんの前に出て、アイギスの盾で防ぎます。
ゴンッと低い音がなって、めちゃくちゃ重い突進が盾ごと私を襲ったけど、なんとか耐えました。
盾が衝撃を吸収してくれたおかげです。
「アイスハンマー」
「斬り裂く!」
「これでっ」
長老さんに向かって、ラヴィーナちゃんとナオさんとグランデくんが同時に跳びかかりました。
ラヴィーナちゃんの氷の槌が長老さんの頭を打ち、ナオさんの炎を纏った爪が長老さんの背中を斬り裂き、グランデくんがいつの間にか持っていた大きな斧で長老さんの後ろ足の右足を切断しました。
あっという間でした。
長老さんは悲鳴を上げて絶命しました。
「皆さん凄いです」
「にゃあ。油断して突進を食らっちゃったよ。恥ずかしい」
「ナオ程の手練れでも、そう言う事があるんだね」
「瀾姫、ありがとう」
「いえいえ、ラヴィーナちゃんが無事で良かったです」
ラヴィーナちゃんと一緒に微笑んでいると、グランデくんが気まずそうに私に近づきました。
「ところでナミキ、今更だけど、さっき名前をつけていただろう?」
「はい。長老さんです」
「その……すまない。名前をつけたのに殺す結果になってしまった」
「にゃあ。そう言えばそうだった。ごめんね、ナミナミ」
「気にしないで下さい。かなりのご長寿さんだったので長老と名付けただけなので、私はとくに気にしてません。それに、美味しい焼き肉を食べる為です。この世は弱肉強食です! 仕方が無いんです!」
「……はは。ナミキは面白いね」
「いつもの事」
「いつもなんだ」
「今日は楽しい楽しい焼き肉ですよー! 焼っき肉~焼っき肉~」
私は喜びの舞を踊ります。
ラヴィーナちゃんが私を拍手して盛り上げてくれます。
ナオさんは肩を落として疲れた顔をしていました。
きっと連日のお仕事の疲れが溜まっているせいですね。
焼き肉で元気になってもらいましょう。
グランデくんは苦笑してます。
グランデくんは王子様なので、きっと私の踊る舞いを知らなくて焦っているに違いありません。
私も今即興で作ったので知らない踊りです。
後で教えてあげます。
焼き肉楽しみです!




