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103 元凶現る

 ジライデッドとの戦いを終えて、かれこれ数日が経っていた。

 チーは母親のジエラさんと一緒にフロアタム宮殿でお世話になる事になった。

 ジエラさんはまだ療養中で、体の衰弱が激しかったのもあり歩く事も未だに出来ない。

 それでもチーはジエラさんの介護を嬉しそうに毎日していて、今後はワンド王子もそれを手伝うと申し出た。


 今日はワンド王子がチーとジエラさんを連れてフロアタム宮殿に帰る日だ。

 わたしとお姉とモーナとラヴィは一緒には行かない事にした。

 元々の目的地がここドワーフの国、と言う事もあるけれど、それは三馬鹿の1人を捜す為。

 でもそれはチーの事で、最早関係も無い。

 だから、ここに残る理由は別にある。

 その理由はモーナが……って、まあ、それは今は置いておくとしよう。


 ドワーフ城から少し離れた場所、フロアタムの兵が駐留していた宿の前で、わたし達は別れの挨拶を交わしていた。 


「うわあああん! チーぢゅああん、絶対に幸ぜになっで下ざいねえええ!」


「うん! ナミキお姉ちゃんも元気でね」


「ほらお姉、これで涙拭いて」


「ありがどうございまずうううう!」


 チーンっと、わたしが渡したハンカチでお姉はお約束の如く鼻をかむ。

 おかげでわたしのハンカチはお姉の鼻水でベトベトだ。

 仕方が無いなあ。と、わたしはベトベトのハンカチを受け取る。


「そろそろ行くぞ、チーリン」


「うん、ワンド様」


 チーはワンド王子に返事をすると、背後で待機していた馬車の客室に乗り込み、窓から顔を出す。

 すると、お姉がチーに近づいて、わんわん泣いて鼻水を垂らしながら「お母さんを大切にして下さい」だの「お体には気をつけて下さい」だのを言い始める。

 正直恥ずかしい。

 そんなお姉の背中を背伸びして撫でながら、ラヴィもチーと別れの挨拶をしていた。

 どっちが年上だか分からない光景だ。


「マナ、僕はまだ諦めてないからな……と言いたい所だが、暫らくはチーリンを支えれるように頑張るよ」


「うん。チーの事お願い。頼りにしてるよ」


 わたしとワンド王子は微笑み合う。

 すると、そこへモーナがワンド王子の髪の毛をくしゃくしゃとかき混ぜる様に撫でる。


「おまえのおかげで助かったぞ。礼を言うわ。ありがたく思え!」


「お前はこんな時まで……はあ。まあいいか。こっちこそ助かった。お前のおかげで僕も少し大人になれた気がするよ」


「まだ子供だろ? 何言ってるんだ? 頭打ったか?」


「人が下手に出てやれば調子に乗って! 僕は王子だぞ! 少しはうやまえ!」


「あーっはっはっはっ! 笑わせるな! おまえを敬えるとこなんて一つもな――んにゃっ!」


 とりあえず調子に乗っていたので、モーナのおでこにデコピンをお見舞いしてやった。

 モーナは涙目でおでこを押さえてわたしを見る。


「何をするー!」


「はいはい」


「殿下、またね」


 チーとの別れの挨拶を済ませて、ラヴィが側まで来て口角を上げて、ワンド王子に別れの挨拶をする。


「ああ、またな。ラヴィーナ、次会う時は僕の方が優秀になってるからな」


「望む所。負けない」


 ラヴィとワンド王子が微笑み合い、ワンド王子は「じゃあな」と言って馬車の客室に入って行った。

 ワンド王子が客室の扉を開けた時に、不意に中で待っていたジエラさんと目が合って、頭を下げられた。

 わたしが微笑むと、ジエラさんも微笑んで、そこで扉がしまった。

 そして、馬車の御者台に乗っていたナオさんがわたし達に一礼して、馬車がゆっくりと走り出す。


 窓からチーが顔を出して、わたし達に向かって何度も何度も「ありがとう」と言って、涙を流して大きく手を振った。


「チー! 元気でねー!」


 わたしも大きく手を振った。

 馬車が見えなくなるまで、チーの声が聞こえなくなるまで。



 見送りを終えると、わたし達はドワーフ城に向かって歩き出した。


 わたし達は今ドワーフ城で暮らしている。

 まさかの好待遇に若干引き気味なわたしだったけど、今はもう慣れている。

 と言うか、グランデ王子様を助けた恩人と言う事になっている。

 でも、グランデ王子様は自分から飛び込んで、自分から抜け出しただけなのにな、と正直思う。


「モーナちゃん、背中のあざはもう消えましたか?」


「痣? あいつにつけられたのって痣じゃなくて切り傷じゃないの?」


「モーナスはレバーにスキルの痣をつけられて、それで位置を知られてた」


「あー、そう言えばそんな事言ってたね」


「痣はレバーを捕まえた時に消えたわ。傷もラヴィーナが回復してくれたから残ってないわ」


「そうですか。良かったです」


「回復と言えば、わたしの魔力ってやっぱ暫らく戻らないのかな? ほら、ラヴィがスタシアナのスキルで魔法が使えなくなってた時に、サガーチャさんの混魔解毒薬クリアマジックで治ったって話してたじゃん。あれを使えば」


愛那まなのは魔力欠乏症。あれとは違う。最悪一生治らない」


「まあ、そう言う話だもんね」


 わたしは今、【魔力欠乏症】と言う病気の様なものにかかっている。

 魔力の使いすぎで起こる症状らしい。


 あの時、ジライデッドとの戦いでわたしが最後に使った加速魔法【ライトスピード】は、わたしの魔力を枯渇させた。

 その結果、わたしは魔法が使えなくなってしまっていた。

 ラヴィが言うように一生治らない可能性もある。

 それだけじゃなく、この魔法の話を皆にした時に、サガーチャさんとナオさんから恐ろしい事まで声を揃えて言われた。


「次使えば死ぬかもしれないね」

「次やったら死んじゃうよ」


 こんな感じに。

 ちなみに上がサガーチャさんで下がナオさん。

 それは見事に声がハモっていて、少し聞き取りにくかった。

 まあ、それは今は置いておくとしよう。 


 それ程に危険な事をわたしはしてしまったらしい。

 とは言うものの、魔力が少なくない……魔力の多い人なら死ぬ事も無く使える様で、要するにわたしみたいな魔力が少ない奴は使えても使っちゃダメなのだとか。





「おかえり」


 ドワーフ城に戻って来ると、城門でサガーチャさんに出迎えられた。

 この国の第一王女なのに相変わらずのブカブカ白衣。

 王女様と言うのが嘘なんじゃないかと疑いたくなる。


 サガーチャさんと合流すると、歩きながらステチリングを渡された。


「ありがとうございます。これって、お姉のと同じ物なんですか?」


「ああ、そうだよ。元々マナくんとナミキくんが持っていたのは、古いタイプの物だったからね。新しい物を用意したんだ」


 ステータスチェックリング……略して【ステチリング】は元々サガーチャさんが生みだしたマジックアイテムらしい。

 時計塔での戦いとジライデッドとの戦いで使った時のステチリングは最新の物だったから、元々持っていた物と情報量が違っていた。

 だから、あの時使ったのと同じで、今受け取ったステチリングにも赤い魔石に時計がついている。


 わたしは試しに、お姉にステチリングの青い光をかざして情報を見る。




 豊穣瀾姫ほうじょうなみき

 年齢 : 16

 種族 : ヒューマン

 職業 : 高校1年生

 身長 : 151

 BWH: 91・56・85

 装備 : マジキャンデリート改・ドワーフの民装束

 属性 : 無属性『防御魔法アイギスの盾』

 能力 : 『動物変化』未覚醒




「おお。年齢と種族が追加されてる。種族はヒューマンなん……は? 91?」


「どうしました?」


 お姉の疑問には答えず、わたしは直ぐに自分のステータスを見る。




 豊穣愛那ほうじょうまな

 年齢 : 10

 種族 : ヒューマン

 職業 : 小学5年生

 身長 : 137

 BWH: 59・50・61

 装備 : カリブルヌスの剣・ラヴィーナの短剣

      ドワーフの民装束・マジキャンデリート改・ドワーフの靴

 属性 : 無属性『加速魔法』

 能力 : 『必斬』未覚醒




「…………サガーチャさん」


「ん? なんだい?」


「このステチリング、壊れてますよ?」


「そんな筈はないけどなあ。さっきメンテナンスしておいたばかりだよ? あ、もしかして種族の“ヒューマン”かい? 確かに“人間”と表示されるべきと思うかもしれないけど、その“ヒューマン”と言う表示には理由があって、それは――」


「違います。こっちのBWHの方です」


「BWH? 何もおかしい所は――」


「おかしですよ! だって、お姉の胸は90なんですよ!? これ、見て下さいこれ! 91って表示してます!」


「いや、それは成長しただけでは?」


「そんな筈ありません! これ以上大きく――――っあああああ!!」


「ま、愛那ちゃん!?」


 危なかった。

 どうやら、わたしは大切な事を見落としていたみたいだ。


「思いだした。バーノルドに胸がぺたんこになるスキルを使われてたんだった。解除したら元に戻る」


「無理じゃないか? マナはおっぱい小さいだろ」


「お姉が1センチも増えたんだから、お姉より成長期なわたしが増えないわけないでしょ?」


 そう言うわけで、わたしは短剣を取り出してスキル【必斬】を乗せて、バーノルドの呪いを斬る。

 そして、再びステータスを確認した。




 豊穣愛那ほうじょうまな

 年齢 : 10

 種族 : ヒューマン

 職業 : 小学5年生

 身長 : 137

 BWH: 59・50・61

 装備 : カリブルヌスの剣・ラヴィーナの短剣

      ドワーフの民装束・マジキャンデリート改・ドワーフの靴

 属性 : 無属性『加速魔法』

 能力 : 『必斬』未覚醒




「サガーチャさん」


「なんだい?」


「やっぱり壊れてますよ? このステチリング」


「マナ、諦めろ。それが現実だ」


 わたしはがっくりとその場で項垂れる。

 と言うか、おかしい。

 なんなら身長も伸びてないし、わたしとお姉に何でここまでの差が……?


 項垂れているとラヴィに無言で頭を撫でられて、少し元気を取り戻す。


「そ、それより愛那ちゃん、不思議ですよね? 今まで種族の人間が表示されなかったのに、表示される様になったんですよ?」


「ああ、うん。そうだね。さっきサガーチャさんが言ってた通り“人間”じゃなくて“ヒューマン”だけど。まあ、“人間”でも“ヒューマン”でもどっちでも良いけど……サガーチャさん、前まで無かったこの表記って、なんで入れたんですか?」


 お姉が話題を変えてくれたので、わたしは諦めてそれにのっかった。

 すると、サガーチャさんが苦笑する。


「入れた理由かい? もちろんあるよ。元々このステチリングは私の友人の為に作ったものだったんだ」


「ご友人ですか?」


 お姉の質問にサガーチャさんが頷くと、モーナが何故か顔をしかめた。


「友人はナミキくんやマナくんと同じ人間……ヒューマンだったんだ。だから、それに合わせて作っていたから、ヒューマンの表示をしていなかったんだよ」


「なるほど。元々種族の項目は、別種族が何の種族か見分ける為だけ表示していたって事ですね」


「その通り。マナくんは賢いね」


「どうも。でも、それなら何で今更表示する様にしたんですか?」


「ははは。その友人に、ちゃんと全種族分かり易いように表示しろって言われたのさ」


「……なんですかそれ」


 どんな理由があるのかと思いきや、意外と分かり易くてしょうもない理由だった。

 わたしは冷や汗を流して呆れた。

 けど、お姉は納得したように頷いていて、モーナは何やら「やれやれ」とでも言いたそうな顔をしていた。


「ちなみに年齢もその友人から表示しろって言われたんだよ。年齢詐欺が多いからどうにかしろってね。そんなわけだから、他にも色々変更はあるんだよ。装備の表示や順番が細かくなっていたりね。あ、もちろん下着や肌着は極力表示しない様にしているよ。流石にそれを表示するのは良くないって一度止められているからね。後そうだなあ……変わらないのは、人外の【味】や【特徴】と珍しい【加護】の表示の有無と、知らないものを表示できないのはそのままって事くらいかな」


「……なんですかそれ」


 大事な事でも無いのにさっきと同じ言葉を思わず言ってしまった。

 年齢詐欺だの下着や肌着の表示だの一度止められただの、本当になんだそれって感じだ。

 それに、味とか特徴とか加護とか、最近見てないのですっかり忘れていた。

 確かにそんなのもあったなって感じのステータスだ。


「それと言いそびれてしまったけど、“人間”ではなく“ヒューマン”となっているのは、種族関係なく同一種族同士の会話で“人”を指す時に“人間”と言う事が意外と多いからさ。だから、あえて“ヒューマン”と表示してるんだよ」


「成る程。そう言う事なら確かにその方が良いですね」


「だろう?」


 サガーチャさんがそう言って微笑む。

 と、そこで、お姉が手を真っ直ぐに上げる。

 それを見て、サガーチャさんがお姉に「どうぞ」と手差しする。


「モーナちゃんにいつか聞こうと思ってたんですけど、たまに不明って表示されるステータスロックですが、これは私でも出来ますか?」


「あ~、あれかい? あれは見られたくない情報を隠す為の上級者向けの設定でね」


「上級者向け……ですか?」


「そう、上位魔法……もしくは、かなり魔力がある者じゃないと使えないんだよ」


「そうなんですね。じゃあ、わたしは使えませんね」


「お姉、何か隠したいものでもあったの?」


「はい。職業の所を隠したかったです。皆さんファンタジーな感じの方が多いのに、私は高校1年生ですから……」


 そんな事か。と、わたしは思った。

 でも、それは一瞬だ。


 高校1年生?


「あっ」


 思わず声が出た。

 皆がわたしに注目して、わたしはサガーチャさんに視線を向けた。


「サガーチャさん、何でお姉とわたしが学生だって情報を出せるんですか? それが分かるのは、わたし達の世界だけなのに」


 そう。

 今にして思えばおかしかった。

 それなのに今まで気が付かなかった。

 この世界に迷い込んできて、ステチリングを使った時から、最初から表示されていたのにだ。

 サガーチャさんは今確かに言ったのだ。

 知らないものは表示できないのは変わらないと。

 わたしとお姉にとっては学生と言うのが当たり前すぎて、表示されたのがおかしな事だなんて今まで気が付かなかった。


「あれ? モーナスくん、まさか、あの事は説明してない?」


「モーナ? どう言う事?」


 モーナに視線を向けると、何やら凄く動揺していた。

 なんなら汗もめちゃくちゃ流してる。


「仕方が無い。私から説明しよう」


 サガーチャさんが肩をすくめて、わたしとお姉を交互に見た。


「そうだね。まずは君達にとって、一番大事な事を話そう」


 サガーチャさんが息を長く吐き出した。

 場が静まり、妙な緊張感が漂い始める。

 そして、サガーチャさんがゆっくりと口を開いた。


「君達がこの世界に来た“扉”を作ったのは私で、モーナスくんはその協力者だ」


「…………は?」


「私もモーナスくんも君達の世界の事をある程度知っていたんだよ。だからこそあの“扉”を作れたんだ」


「すまん、マナ! 騙すつもりはなかったんだ! それと今まで黙っててすまん!」


「モオオオオナアアアアアアアアアアッッ!!」


 わたしが叫んで睨むと、モーナが逃げだしたのでそれを追う。


「謝ってるだろおおおおおお!?」


「煩い! 最低! 馬鹿! アホ! 許さあああああああああん!!」


 この世界に来た元凶、犯人はモーナだった……有罪。


第二章 終了


次回から幕間が幾つか入って、第三章に突入します。

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