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燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 5・「竜玉の姫・屍竜の王」
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■第一五二夜:推理(1)


          ※

   

「とりあえず、此処こここそが竜たちの保養地であり、また地下に広がる彼らの聖域──龍穴の上層だと考えるべきだろうね」


 探索を進めるアシュレたちは、すぐに遺跡群に遭遇した。

 様式を改めるまでもない。

 これはアガンティリス王朝期、それも後期のもの。

 個人的に強い興味を持って古代史を学んできたアシュレの目には、一目瞭然だった。


 遥か昔に地上から消えてしまったハズの文明の名残が、下界では考えられないくらい良い状態でここには残されている。


 温泉地帯に浮かぶ立柱を想わせる島々には、かつてアガンティリス人たちが湯上がりのひとときを過ごしたのだろう住居跡があった。

 アシュレは、そのうちひとつをこのエリア探索の拠点に定める。


 遺跡群のほとんどは温泉地を見下ろすような高台にあり、温泉が上げる蒸気から遠ざけられ快適さは守られている。

 温泉地の要所要所に柱を突き立て、その最上部に遺跡が座していると考えればわかりやすいだろうか。

 

 おそらく湯治を堪能したかつての人々もここで涼を取り、あるいは饗宴に耽ったのだろう。


 季節は六月から七月にかかろうとしている。

 山際がもっとも過ごしやすくなる最良の時期だ。

 高台を吹き渡る風は、それまで嵐の結界のなかでのことが嘘のようにおだやかで心地よかった。


「竜の保養地というからもっと地獄みたいな場所かと思っていたが、なんとも風光明媚なところだな。だがここが本当に竜の所領だというなら……件のスマウグなにがしとかいう存在との遭遇もあり得るいうことか。油断はならぬな」

 

 キャンプと定めた遺跡の上から、眼下を睥睨へいげいしつつシオンが言った。

 スマウグなにがしなどとは完全記憶を持つ夜魔の貴種としてありえない略し方だが、それはシオンの心証の現れだ。

 竜王のやり口とそのコレクションである陰湿な《フォーカス群》の報告を聞くにつけ、夜魔の姫はその下劣さに辟易していたらしい。

 油断ならぬ、というのはスマウガルドの陰湿さに対する嫌みが多分に含まれた言葉であった。


 それなんだけど、とアシュレはシオンの言葉に付け加えた。


「それなんだけど。魔導書グリモアで判明した情報から推察するに、どうやらヤツは地上世界つまりこの温泉地帯には姿を現さない──いや現せないらしい」

「現さない? 現せない?  どういうことだ?」


 夜魔の姫が困惑するのも無理からぬことではあった。

 予想されうる最大級の敵であるスマウガルドとの遭遇は、すくなくともこの温泉地帯では考えられない、とアシュレは言ったのだ。


「ここが竜たちの保養地であるのであれば、そこは私有地プライベートと同義であろう。わたしが竜なら、そこへ無断で忍び込んだ不埒者を許してはおかんぞ。すっ飛んでくるだろうよ」


 概要はすでに話したとおりだが、シオンはイズマとスマウガルドのやりとりをアシュレのように実体験したわけではない。

 騎士の言葉に、現状認識の甘さを見たとしても無理はない。 


 しかしアシュレは、ただの希望的観測を口にしたわけではなかった。


 この場にあってスマウガルドの直近の状況を正確にを知り得ているのは、魔導書グリモアを読んだアシュレと該当する記述を提供した魔導書グリモアそのもの=スノウだけ。


 そこで見聞きした体験を、アシュレはできる限り正しくシオンに伝達しようと務めた。

 追体験したイズマの過去の履歴から、いま竜王:スマウガルドが置かれている状況を明確にしていく。


 まずあの夢幻のごときイズマの記録のなかで、スマウガルドの肉体には幾本もの剣や槍が突き込まれていた。

 まるで自身の内側から生えた棘のように、彼の背を彩っていた。

 なかんずく目を引いたのは、恐ろしく長い異形のもりの存在だった。


 きっとあれが致命傷だろう。

 アシュレは思う。

 あのとき見た印象のままにシオンへと告げる。


 だがその長い長い異形の銛に貫かれてなお、スマウガルドは死ななかった。

 いやあるいは死んだのかも知れなかったが、その骸はオーバーロードとなって甦ってしまった。

 銛は悪しき竜王:スマウガルドを滅ぼし損なったのだ。


 ここまではまず間違いあるまい。


 けれども、だ。


「その後もあの銛は彼を地下世界に縛っている。強力な制約として働き続けている。まるで死してなお囚人を繋ぎ止める縛鎖のように」


 重荷を負わされたように背を丸め、足を引きずるスマウガルドの姿が、アシュレのまぶたの裏側に甦った。

 彼を貫いた長い銛のその胸郭を突き抜けて、切っ先を覗かせていた。


 ふうむ、と夜魔の姫が興味深げに唸って見せた。


「あるいはその銛とやらは、あえて致命な部分を外していたのかもだぞ、アシュレ。できる限り苦痛を長引かせ、死してはなお相手を封じるための縛鎖としての装置──そうは考えられぬか? 実質的な竜殺しにして、無残な遺骸を現世に止め続けその罪と不名誉を永世に渡り伝えるための刑具。そうは思わぬか?」


 なるほどわからん話ではない、とシオンが頷いた。


「我ら夜魔も高位の同族を罰するとき、そのようなことをする。返しのついた長き杭を心の臓やそのほかの重要な器官に打ち込み、癒着させて引き抜けぬようにしてしまう。器官が再生することを防ぎ、そうでありながら死の苦痛を長きに渡って味わわせる。そういう刑罰だ」


 同族の持つ残酷なサガについて語るとき、シオンの顔には憐れむような、どこか自らをも嘲笑うようななんとも言えない色合いが浮かぶ。


「夜魔の不死性には及ばずとも、竜の一族は強大な生命力を持つ。であれば死の苦痛を長引かせるような刑の在り方と、そのために特化した道具ももちろんのようにあろう」

「長命を誇る種族となると、罰の与え方もそれに応じて苛烈になるんだな。わかるけど複雑な心境だ」

「わたしがそなたに罰を乞うとき、ずっと手酷くして良いと言った理由がわかったであろう?」


 アシュレとシオンのやりとりに、義姉の冗談を真に受けたのか、横で聞いていたスノウが息を呑んだ。

 どうやらその方面でも競わなければならないのか、と考えたらしい。

 シオンがアシュレの残虐性まで受け止めたい、と宣言したのだと思い込んだのだ。


 ないない、とアシュレはかぶりを振る。


 ふたりを心から求めるという意味では暴力的にはなれても、本物の暴力を彼女たちに振るうことは本当にできない。

 想像することさえ難しい。

 生理的嫌悪で胸が悪くなるのだ。

 追いつめるのなら苦痛や苦悶ではなく愛することでしか考えられない。


 そんなアシュレの胸中を知ってか知らずか、腕組みをしたシオンが話題を本題に戻した。






すいません、この部分ゲロ長かったので三つに分けますぅ。

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