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燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 5・「竜玉の姫・屍竜の王」
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■第一四六夜:魔導書(グリモア)の娘の提案


         ※


「ノーマン殿からの報告も合わせ上空から探ってみた感じだと、この空中庭園は元々が火山地帯であったのは間違いないようだ。かなり古いものだが」

「流れ山地形というのは、基本的に山体が吹き飛んで出来たものですからな」

「我々が足を踏み入れたカルデラの内側は、もはや火山地帯ということは難しいように思えたな。あちこちに湖や沼、それに泉はあったが、温泉とか蒸気の噴出口とかそういうものは発見できなかった」

「火口というのはひとつとは限らないものです。あれは年月をかけて動きますからな」


 戦隊の全員が円卓に集まり、地図を睨みながらそれぞれの意見を出していく。


 航空戦力である真騎士の乙女たちの協力により、この空中庭園:イスラ・ヒューペリア全島の地図はすでに九割方、完成していた。

 地上部分を土蜘蛛姉妹が占術と蟲を用いて測量し、これに真騎士の乙女たちの証言やスケッチを当てはめるカタチで精密な地図が驚くべき速度で作成されていく。


 航空戦力と言うと上空からの一方的な攻撃による有利性ばかりに目が行きがちだが、真の有効性はこういう正確な地形や敵戦力の事前把握の方にある。 


 この空中庭園が周囲にいくつかの小島を引き連れる群島のカタチをしていることも、それであきらかになった。

 だが、そこまでしても、イズマ失踪に関わる決定的な場所=龍穴の位置はいまだ特定できなかった。


「アテルイの霊査のほうはどう?」


 地勢から竜の聖域を割り出そうとするメンバーとは別アプローチを採っていたアテルイに、アシュレは水を向けた。

 しかし返ってきたのは力ない否定のジェスチャだけだった。


「竜の聖域の結界が強力なのか、あるいは土蜘蛛王の隠身が完璧なのか。それともその両方か。場所も本人の消息もまるで掴めん。不甲斐ないことだ」


 副官のときの言葉遣いで言い唇を噛んでうつむくアテルイの肩を、アシュレはそっと抱いた。


「キミのせいじゃない。竜王の《ちから》、そしてイズマの実力が圧倒的すぎるだけだよ」

「隠身に関しては、イズマさまは間違いなく世界最高の能力者。その行方を特定できなくとも恥じることではありませんわ。わたくしたち姫巫女ですら手も足も出ないんですもの」


 アテルイをいたわるアシュレにエルマが加勢してくれた。


「保養地というからには、たぶん温泉が湧いているようなところだと思うんだけどな」

「上空からは見つけられないように偽装がされているのかもしれん。飛翔能力では真騎士の乙女を凌ぐ竜族のことだ。空から覗き見されるような場所では、おちおち昼寝もできんだろうし」


 アシュレの意見に、レーヴが言った。


「そうでないなら、いくらなんでも温泉の湯気くらい見つけるぞ。真騎士の乙女の視力は鷹並みなんだ。昼間に星を見ることができる我々が、総出で毎日毎日、目を凝らしている。それで怪しげなところさえも見つけられないなんて、普通はあり得ない」

「これはやはり目星をつけて地上班を送り出さなければならんのではないか」


 真騎士の乙女の真剣な訴えに、アゴに手をやったノーマンが唸った。


「だけど、闇雲にヒトを送り出すにはこの空中庭園はあまりに広大過ぎる」

「いっそ例の通路とやらに突っ込んでみるか」

「それは不浄王:キュアザベインとの仁義にもとる。できませんよ、ノーマン」


 宗教騎士団の男をして極論が口を吐くあたり、イズマの捜索はかなりの暗礁に乗り上げていた。

 そんな停滞した円卓の空気を吹き飛ばしたのは、夜魔の姫の言葉だった。


「アシュレ、この件に関して我が妹:スノウに考えがあるようだ」


 すっと手を差し上げシオンが戦隊の注目を求めた。


「スノウが?」

「えっと……その……ですね。もしかしたらなんですけど。わたしの《ちから》なら、イズマの居場所特定できるんじゃないかな、と」


 姉と慕うシオンに促されるカタチでおずおずと円卓に加わった魔導書グリモアの娘は、自分の胸乳に手を当てて言った。


「キミの《ちから》……まさか」

「はい、そのまさかで。魔導書グリモア:ビブロ・ヴァレリの《ちから》なら……」


 思いがけない申し出にアシュレは、しばらく呆然とした。

 考えなかったわけではない。

 ただ《フォーカス》としての彼女を所有するアシュレには、強大過ぎるその《ちから》を無闇に行使したくないという思いがあった。

 いくらでも彼女を好きにできるからこそ、その恐さと彼女自身が被る心の傷をおもんばかったのだ。


 魔導書グリモアと融合してしまった彼女の能力を使うとはつまり、スノウを道具扱いするということだ。

 簡単にしかも頻繁にそれを許したら、己は鬼畜同然になってしまう。

 そうでなくとも魔導書グリモア:ビブロ・ヴァレリの能力は、対象の過去を暴くという許されざる行いだ。

 ためらいが、アシュレからその発想を遠ざけていた。


 まさかそれを、ほかでもないスノウ自身から、提案として聞くことになるとは。


「だけど、それは……スノウ」

「いえ、騎士さま、言わせてください。これまでわたしたちは、たくさんイズマに助けられてきたわけで。わたしはトラントリムとヘリアティウムのときだけだけど……この戦隊にとって彼はかけがえのない存在のはず、ですよね? だから、できることがあるなら、ぜんぶの《ちから》を尽くさないと、そうしないとダメだっていうか」


 成人したばかりの彼女が、己の尊厳をかけてこの提案をしてくれたことにアシュレは感動を覚えていた。


「それに、いずれ“再誕の聖母”の居場所も同じようにして特定するわけだし。予行演習っていうか。わ、わたしも慣れておきたいっていうか。初めてが圧倒的な敵なのか、イズマなのかじゃ全然心構えも違うし掴めるものがあるかなって」


 女のコというものは、いつの間に大人になっていくのだろう。

 スノウの言葉はまだどこかふわふわとしていたが、はっきりと目標を見据えた具体的な考えに基づいている。

 単なる一時的な感情からのものではない。


 アシュレはその提案をありがたく聞いた。

 

 決定は下されたのである。




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