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燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 4・「迷図虜囚の姫君たち」
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■第一二八夜:シナリオに抗う者



「それは……危険過ぎる賭けではないのか。城内に入られたら逃げ場がない。全員で立ち向かえばそうそう負けることはないとは思うが、我々の戦いを民衆に見せるというキミの考えからも外れるんじゃないのか。それに万が一にもキミが討ち取られたら、解放軍は終わりなんだぞ。エクセリオスとキミ、これはキング同士を争う戦いなんだ」


 アシュレの身を案じたのは、真騎士の乙女:レーヴだった。

 城内戦闘を前提とするということは、敵軍を喉元まで引きつけるということだ。

 もちろん、その上に乗せられている首は、いまや解放軍の中心、精神的支柱であり指導者である若き騎士本人のものだ。

 さらに個人的な戦場での立ち回りから言えば、アシュレ同様長射程攻撃を得意とする彼女だ。

 城内戦闘はもっとも避けたいシチュエーションのひとつでもあっただろう。


「わたしも同意見だ。司令部を戦場にするのは避けたい。オマエにもしものことがあったら……危険過ぎる。それにここには、救出した政治犯たちもいるんだぞ。彼らは戦闘員じゃない。親衛隊には《スピンドル能力者》が何人もいる。こんな狭い場所で戦ったら無傷では済まない。第一、親衛隊はチェスにたとえれば帝国にとってクィーンほどに重要な最強の駒だが、キングではない。このゲームはキングを獲った側の勝利なんだ」


 次に立ち上がったのはアスカだった。

 チェスに見立てて勝利条件を明確にする。

 両脚を成す告死の鋏:アズライールがシュッと独特の駆動音を立て、その重量に床板が軋んだ。

 

 アシュレは、この世界観でも変わらずまっすぐな彼女の視線を、真っ向から受け止めて言った。


「レーヴ、アスカ、みんなも聞いてくれ。その件についてはもう手を打ってある。投獄されていた政治犯を含む城内の非戦闘員の多くは、すでに乗船させ市中に逃した。いま各地に潜伏し、蜂起のための準備を進めてくれている。蛇の姫:マーヤに頼んで制海権を押さえ、海上から監獄島の状況を把握させにくくしたのもこのためだ」


 淀みなく答えるアシュレに、またも場内がざわついた。


 良い感触だとアシュレは思う。

 実際にアシュレがその目で見てきたいくつかのバリエーションを含め、ダリエリから聞かされた展開と照らし合わせても、指導者が提示する作戦にこれほどの動揺や、反対意見が出ることは稀だった。


 いやこんなことは前代未聞、なかったと言っていい。


 そうこれは、“繰り返す動乱のくに”のシナリオが状況を修正しようと働いているのだ。

 無難に、制御可能な状態に。

 つまり可能性世界の処理に負荷がかかっているということだ。

 それはつまりシオンやスノウの思い描く《理想》とは違う、という意味でもある。


 それを証立てるようにレーヴが立ち上がり、アシュレに詰め寄った。


「では、防衛戦闘もそこそこに敵を迎え入れるというのか? 城内での乱戦になったら数で圧倒的してくる帝国軍はやりたい放題だぞ。火をかけられたら逃げ場もない」

「もちろん抵抗は行う。親衛隊に意図を気取られぬためにも、それなり以上には激しく。なるべく深いところまで入り込んで欲しいから」

「危険過ぎる! 複雑に入り組んだ監獄島内部を、わたしたちだってまだ完全に把握しているわけではないんだ。通路の袋小路に追いつめられて、数を頼りに押し込まれたらどうなるか」


 レーヴの口調には悲痛な響きがあった。

 アシュレの提案がこの世界が想定するシナリオにとってどれくらい危険なものか、それは指し示していた。

 指導者であるアシュレに敗退されたら、エクセリオスを打ち倒し、それに成り代わることになるという絶望への道が途絶えることになるからだ。


 さらにこれはアシュレの知らぬことだが、その肉体を求めるエクセリオスとしても憂慮すべき事態であった。

 順当にこの世界を治めるエクセリオスの玉座にまで辿り着き、これを打ち倒して真実に触れてもらわなければ──ほんとうの絶望のために、そして空っぽになったその心に真のエクセリオスを宿してもらわなくては──ならなかった。


「危険過ぎる。この作戦は考え直そう。いますぐ打って出て、街路を利用して親衛隊を分断すべきだ。航空戦力でこちらがいくぶんか勝る。妹たちのクロスボウを補助に、わたしの雷槍:ガランティーンとキミの竜槍:シヴニールで街路ごと焼き払えば一網打尽だ!」

「それは過激が過ぎる。民衆を巻き込んでの掃射は許可できない。親衛隊数千を焼き払うのに帝都を火の海に変えることになる。とても看過できない」


 次々と上がってくる反対意見、疑問の声をアシュレは一つずつアドリブで論破し、手で制した。

 作戦は変えない、と断言した。


「結論から言うと、この監獄島は捨てる」


 にわかに場内が騒然となった。

 それまで座っていたメンバーが数名といわず立ち上がり、説明を求め殺到してくる。

 これがシナリオの強制力との闘争。


 だが、アシュレにとってすべては想定内の出来事だった。


「もちろんただで、じゃない。彼らが躍起になって監獄島を攻めている間に、我々はこの丘の上にそびえ立つ皇帝の城を攻め落とす。彼らの頭の上を跳び越えてね」


 アシュレは住居橋を差して言った。


「これは防衛戦闘ではない。突入するのはボクたちだ。二千を数える親衛隊とその従士隊=帝国軍正規兵の頭上を走り抜け、皇帝の座す城を、いや玉座を直接に攻める」


 住居橋の横断面図の頂上、屋根の上にアシュレは自軍の駒を走らせた。


 だれからとなくうめきが上がった。


 アシュレの提案の意味を、全員が理解したのだ。


 住居橋のなかを突撃してくる帝国軍親衛隊、その頭の上をごく少数の精鋭戦力で逆進してそのまま跳躍、殺到する敵軍の頭の上を跳び越える。

 そしてその勢いのまま、帝都を見下ろす丘に築かれた皇帝の居城を攻めようというのだ。


「エクセリオスの息子……第二皇子:ユリウスの率いる最強の軍団をペテンにかけようというのか?」

 

 そうか、この世界でのボクの息子はユリウスというのか。

 妻になったヒトはだれなんだろうな、とアシュレは一瞬だけ思考を巡らせた。


「しかし監獄島に押し寄せる戦力だけが帝国軍ではないぞ。城がもぬけの殻などとありえんことだ」

「だから同時に民衆の蜂起を促す。城塞に取りついたら城門を開放し、立ち上がった人々とともに城を攻め落とす。そのために政治犯として捕らえられていた同志諸君には市井に潜ってもらった。」


 重い沈黙が落ちた。

 設定通りにシナリオが進行すれば、閣僚となるはずのメンバーたちの心を代弁すればこうだ。


 理屈はわかる。

 言わんとすることはわかる。

 だが、それは、この作戦が完遂可能であれば、だ。


 それに、


「その役は、だれがやるんだ? 城門に取りついて門を開放するのは? 帝国軍だって馬鹿じゃない、死に物狂いでかかってくるぞ」

「うん、だろうね。だから、この役を担うべき人間はひとりしかいないと思う」

「ひとり? ひとりで行かせると言うのか?!」

「もちろんエスコートはつけるとも。ただ、中心人物はひとり。彼しかできない」

「彼? だれだ、それは?」


 男たちが互いを見交わす。

 女たちはそんな男たちを見比べ、案ずる。


 当然の疑問だとアシュレは思う。

 だから当然のように答えた。


「そのひとりとは──もちろん、ボクさ」


 キングが先陣を切らなくて、だれがついて来てくれると思ったの?

 アシュレの断言に、周囲から上がったのは悲鳴にも似た叫びだった。


「心配はいらない」


 その叫び声を心地よい音楽のように聞き流して、アシュレは不敵に笑う。


「それ以外の人選についても、ボクのプランに従って欲しい」


 言い置いて、若き騎士は残りの計画を淡々と説明した。


 メンバー全員が唸る。

 たしかに作戦は奇抜だった。

 だが、それだけに敵の発想をはるかに超えた勝利の道筋が示されていた。

 そしてなにより……ダリエリの天才性に裏打ちされたアシュレの作戦を否定できるだけの発想力が、この世界にはまだ備わっていなかったのだ。


「それでは各員、検討を祈る。ボクらの──人々の明日のために」


 アシュレはそう言って作戦会議を締めくくった。

 メンバーは圧倒されたように口をつぐみ、立ち上がって敬礼した。

 

 自分たちが戴いたリーダーの規格外の才能に打たれたという表情。

 指導者自ら決戦の地に赴くなど、前代未聞。


 だからこそこの奇策は成功する。


 シナリオの強制力を捩じ伏せ、そうアシュレが示したからだ。

  







ここまでお読みくださりありがとうございます!

さて、昨夜も後書きに記しましたが、またすこし休載させて頂きます。

再開は10月25日を、同月内でこの第七話:Episode 4・「迷図虜囚の姫君たち」も完結、Episode5へと移っていく予定ですが……こちらは一応年末か年始位には掲載を始めたいと思っていますが、ちょっとイロイロ別のこともしてるので、寛容な目で見守って頂けたらw


あ、そだ。

この休載の間にアシュレくんがどーやってエクセリオスに打ち勝つのか、その勝ち筋を推理してみてもらえたら嬉しいです。


感想欄に予想を書いていいのよ?

あなた、だれ? あなた、推理、する?


なろう作家のノーミソとデュエルすたんばい!

でーわー!

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