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燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 4・「迷図虜囚の姫君たち」
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■第七十八夜:姫君たちの探索(上)

         ※


「しかし、久しぶりだな、このメンツは」


 ふふ、と上機嫌にアスカが笑った。


 ノーマンからのバラの神殿の情報を得て、翌日である。

 即座にアシュレは行動を開始した。

 随伴者は二名。

 地理地形と探索に一日の長があるノーマン、そしてこちらは厳正な審査じゃんけんを勝ち抜いたアスカのふたりだ。

 そこに乗騎としてのヴィトライオンが加わる。

 前回の戦いで大破した甲冑を着込まない分、食料や水、テント類を積み込んだアシュレたちは進む。


「フラーマの漂流寺院、トラントリム攻略戦に続いて三度目ということになるか、この布陣は」


 ノーマンが感慨深げに呟いた。


「ボクひとりで行こうかと思ったんですが、アテルイからも強く言われまして……道案内よろしくお願いします」

「それは任せておけ。道中のエスコートもな。オマエはバラの神殿に辿り着いてからのことだけを考えていろ」


 事前情報から件のバラの神殿の内部には、アシュレしか入れないであろうことが予想されていた。


なんじ、資格者にあらず。花園の主足らず。深奥に足を踏み入れることならじ。早々に──立ち去れ』


 花園の主とは誰のことか。

 あの庭園を造り上げたのがシオンとスノウだとすると──その主とはアシュレ以外には考え難い。

 先にもノーマンに告げたが、この問題に関してアシュレは当初、ひとりで挑むつもりであった。


 だがそれでは、いざひとりでは対処できない局面に突き当たったときまったく対処できなくなる。

 いやそれだけではない。

 神殿に辿り着くまでの道案内もないとなれば、遭難の危険性さえある。

 未知のモンスターとの不期遭遇戦や就寝時を狙った襲撃を防ぐのも難しい。


 いくら念話でアテルイとは遠距離意思疎通が可能だとは言っても、実際の援軍を送り込むのに半日もかかったのでは事態の急変に対応できない。

 異能の代償も、ただではないのだ。


 そこで選抜されたのがこのメンバーだった。

 正面戦力とサバイバル能力、水先案内人としての経験の面からノーマンは妥当だったが、アスカのほうはほとんどゴリ押しだった。


「だってさびしかったし。留守番はわたしのキャラに合ってないしな!」


 というのがアシュレだけが聞かされた本音である。


「正面戦力としても最強格、しかも航空戦力として索敵担当も連絡役にもなれる無敵の能力! エスコートのもうひとりは、このわたし以外にはおるまい!!」


 アスカは胸を張ってこの人選を正当化したが、そのうしろでじゃんけんに負け、嫉妬を捩じ伏せようと必死になっているレーヴのもの凄い形相を見たアシュレは、半笑いで固まった。


「我々は神殿の外で待機する。しかしそれまでは同道する。神殿への突入も夜間は避けるべきだから、どこか神殿にそれなりに近い場所でキャンプを設営すべきだ」


 前回の教訓をもとにノーマンが適切なアドバイスをくれた。


 払暁に合わせて出立した以前の探索行では、神殿の発見が正午になった。

 そこからシオンとスノウの印象を合わせ持つ件の少女との遭遇があり、帰還を開始したのは午後に入ってからだ。

 ノーマンたちがアシュレたちの待つベースキャンプへ帰り着いたときには陽はとっくに暮れていた。

 これらを考慮に入れると、カルデラ内の森で一夜を明かし、翌朝改めて神殿へ挑むのが適切だろうというのがノーマンの結論だった。


 理にかなった、堅実なプラン。

 アシュレはその方針に全面的に同意した。


 計画に従って一行はいま、深い森のなかを進む。

 木漏れ日が映し出す林床は幻想的に美しく、鳥たちの鳴き交わす声に満ちている。


「あれほど見つけるのに苦労した水の流れが、こんなところにあったんだな」


 どこかで泉が湧いているのだろう。

 森の底を縫うように走る清い流れに、アシュレは賛嘆した。

 絶えてなかったヒトの気配に驚いて、魚が跳ねる。

 鹿がせせらぎを跳び越えた。


「上水道での戦いとそのあとのことを考えると……複雑な感じがするな」


 戦隊の上水確保のために、蛇の姫:マーヤが強いられている窮状きゅうじょうを思って、アシュレはぼやいた。

 出立前、夜半に抜け出して会いに行ったら泣かれた。

 再訪の約束の期日はとっくに過ぎていたが、遅れたことを責められたのではなく、捨てられたかと思って気が狂いそうだったという訴えに、アシュレは胸を打たれてしまった。


 たった半刻の逢瀬。


 饗宴の穴フィースト・ピットでのこと、下水道での事件を語れば、マーヤは深い理解を示し、これからもアシュレのために尽くすと約束してくれた。


 健気な蛇の姫にほかに与えられるものもなく、罪滅ぼしのように自らの血を差し出した。


 アシュレの激闘を知るマーヤの吸血は、愛しい騎士の身体を気づかってか控えめだったが、さすがにすこしめまいを感じてしまった。


 前回と違い、いまアシュレの肉体には戦乙女の契約ヴァルキリーズ・パクトの加護は降りていない。

 マーヤの存在はまだ戦隊のだれにも秘密だったし、まさか別の女に血を捧げに行くから、戦乙女ヴァルキリーの加護を垂れてくれとは言えるはずもないではないか。

 そこまで厚顔無恥にはなれない。


 アスカもレーヴもアシュレの都合のよい道具ではない。

 彼女たちの加護は、アシュレに対して彼女たちが自分の意志で捧げてくれた愛の結果でなければならない。


「この水源が、もっと近くにあったらな……」


 蛇の姫との逢瀬の記憶から帰って来ながら、アシュレはもう一度ひとりごちた。




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