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燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 3・「不浄の帝国」
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■第七十一夜:恩讐の彼方


 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ──────。


 長い長い絶叫が、地下世界を震わせた。

 それは大屋根の一部が崩落し、巨大な破片がいくつも床を打ち据え、土煙と水煙が舞い上がり──いつしか陽光が柱のように落ちる空間に鳴り響いた。


 不浄王とアシュレはもつれるようにして地に墜ちた。

 いまそこから青白き炎が上がっている。

 アシュレの手を、不浄王:キュアザベインの頭部を彩る苦痛の冠の棘が焼いているのだ。


「やめよ、おおおおお、やめよ。なにをする──ヒトの子よ」

「ダメだッ、不浄王:キュアザベインッ! オオオオオオオオオオッ──ボクに、わたしに屈しろッ、苦痛の冠よッ!」


 それを組み打ち、と言っていいのかどうかわからなかった。


 不浄王:キュアザベインは手足をめちゃくちゃに振り回し暴れるが、アシュレに対して有効な打撃を与えることはできない。

 苦痛の冠から流し込まれる想像を絶する痛み、そして物理的改変がキュアザベインの自由をことごとく阻害していた。


 一方で、アシュレも無傷ではなかった。

 《フォーカスの護り》。

 しかも伝承ではアガンティリスの王のひとりが与えたという太古のそれが、いまアシュレの腕を、胸を、顔を焼いていた。


「ぐうううううううう、苦痛の冠ッ、ボクに──わたしに従えッ!」

「ガアアアアアアアアアアアアルウウウウウウウウウウウ──────ッ!!」


 ことの成り行きを生き残った者たちすべてが見守った。


 真騎士の乙女、少女たちだけではない。

 汚泥ウーズの騎士たちまでもが、アシュレにも不浄王:キュアザベインにも加勢も敵対することもなく、ただ自分たちの騎士と王との決着を固唾を飲んで見つめていた。


 そして、ついに、アシュレは苦痛の冠・・・・を組み伏せる。

 肌を焼いていた青き炎が、消える。

 アシュレの持つ「いかなる種類の《フォーカス》とも一定の親和性を持つ」特質が、ここでも彼と彼の行いを助けた。


 次の瞬間、アシュレは床に頽れ転がった。

 ひどい火傷が全身にある。

 苦痛にうめく。


 なぜだ、と訊いたのは不浄王だった。


「なぜ、我の苦痛を取り除いた……なぜ……」


 床に転がり痛みに震える人間の前に跪き、汚泥ウーズの騎士王は苦痛ではないなにか・・・・・・・・・に身を震わせていた。


 そこに少女ふたり、そして美姫ふたりが、身を挺するように滑り込んでくる。


「勝負は決したはずッ! アシュレに近づくなッ! 貴様の好きにはさせんぞ!」

「そこまでだ不浄王ッ! 今度はわたしがキミの相手だッ!」


 ある者は両手を広げて立ちはだかり、ある者は騎士の肉体に己のそれを被せて庇おうとする真騎士の血筋の姫君たちに、不浄王はゆっくりとかぶりを振った。


「案ずるな。もはや貴様らに振るう刃はない。負けだ、我の、我らの。完敗である」


 拍子抜けするほど潔い態度に呆然とする真騎士の乙女たちを完全に無視して、不浄王はだが、とひとことだけ続けた。

 アシュレに問うた。


「解せぬのは、どうして我をこの苦痛の冠から開放したか、だ?」


 それだけは教えるがいい。

 足下に転がるヒトの騎士に、不浄王は促した。


「かい、ほうしたわけじゃない。キミはいまから、ボクに……ぼくらに従うんだ。ボクが、キミの新たなる王、だ」


 はいつくばり苦痛にうめく者がするには、あまりに奇妙な勝利宣言であった。

 ふむん、と不浄王は唸った。

 いささか理解に苦しむが、と続けた。 


「つまり、苦痛ではなく新たな、そして正しい契約によって我らの主たろうと、そういうことか?」

「ふざ、けるな。必要であれば、苦痛を与える。ただ、それはボクの、責任によってではならない……。それにボクの《ちから》、だけでは、その、冠を根本的に、除去することはできない──蛇の姫が囚われている装置と、それは、同じ種類のもの、だから」


 だから、と荒い息の下、続けた。


「赤竜:スマウガルドは討ち果たす。もしまだ、生きているなら。そして、赤竜が持っている、であろう《フォーカス》の鍵を、とりもどす。それがボクの誓いであり、新しい契約だ……」

「この冠にかけられた施錠を、解く? まさか……我らを解放するとそう言うのか?」


 不浄王からの立て続けの問い掛けに、アシュレはフフッと笑った。

 痛過ぎて笑うことしかできないのだ。


「なにがおかしい」

「痛い、んだよ。見てわからないのか。痛くて笑うしか、ない。クソッ、やっぱりこの作戦、やるんじゃなか、った……甘く見たわけじゃないケド、《フォーカスの護り》痛過ぎる……目もよく見えない……」

「まさか貴様……最初から狙っていたのか。我らを解放しようと考えながら、我と槍を交えたのか」

「しつ、もんが多い、矢継ぎ早、すぎる……」

「我らを解放する気か?」


 不浄王が論点をまとめた。

 重傷の勝利者を労る気は、さらさらないのか。

 アシュレは苦笑した。

 痛みで痙攣が止められない。


「解放するかどうかは、心がけ、しだいだね」


 痛みにのたうちながらアシュレは懸命に目を見開き、不浄王を睨みつけた。

 なんとか男としての矜持を見せようとする若き騎士に、ふ、とキュアザベインは笑った。

 あるいはアシュレの姿に、遠き日の自分を見たのかも知れない。


「おもしろい──ではさっそく詳しく条件を詰めるとしようか」


 そのままアシュレを抱きかかえる。


「なん、なにを……ッ」

「案ずるな。火傷によく効く軟膏がある。人間にも効くかはしらんが──」


 押しとどめようとする真騎士の乙女たちを意に介した様子もなく、アシュレを姫のように抱きかかえると、不浄王:キュアザベインは己の居室へと向かう。


 くずれた天井から落ちかかる陽の光が、その様子を絵画のように彩った。





さて、これにてあと第七話:Episode 3「不浄の帝国」編は終了となります。


キリが良いのでこの更新でひとまず幕とさせていただき、連載再開用の原稿が溜まり次第また第七話を続けていこうと思っています。


このあと夜魔の姫:シオンと世界最悪の魔導書と同一化してしまった半夜魔の少女:スノウが、いずこららともなく現れた巨大迷宮に囚われるEpisode 4「迷図虜囚の姫君たち」と、ついに竜と遭遇することとなるEpisode 5の二作を持って第七話:蒼穹の果て、竜の棲む島は終わります。


お楽しみに!

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