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燦然のソウルスピナ  作者: 奥沢 一歩(ユニット:蕗字 歩の小説担当)
第七話:Episode 0・「恋は流星のように」
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■第四夜:ボクはまだ飛べない


 レーヴの話を要約すれば「オマエは女たらしのクセに、乙女心をわかっていない。もっと奉仕させてやれ」ということになるのだろう。

 新手の弾劾にアシュレはたじろぎ、固まった。


 そんなヒトの騎士に、純血の真騎士の乙女は追い討ちをかける。


「愛した男がしてくれたことに報いたいというのは、女心のなかでは、かなり自然なものなのだぞ。その男が自分のために、しかも眼前で命をかけてくれたとなれば、なおのことな」

「ああ、あああ」


 ようやく理解にたどり着いたアシュレは、稲妻に打たれたように震えうめいた。


 アスカやアテルイ、シオン、そしてスノウ……いや仲間たちのだれに対しても、その身を挺しても守り抜くのが当たり前だと思って生きてきた若き騎士には、この指摘はあまりに衝撃であったのだ。

 まいったな、と三度目の降参をアシュレは口にした。


「まいったな、全然そういうつもりじゃなかった。ボクは、ただ自分の生き方を通してきただけのつもりでいた。そうか、そんなふうにアスカやアテルイには……シオンにもアルマやユーニスにも──伝わっていたのか」

「バカか、キミは。そんな男だからこそ惚れられてしまうのだ。代償も求めず、たったひとりの女のために、すべてを打ち捨てて、死地にさえためらわず飛び込んでいってしまうような男だからこそ……。それをいまやっと理解したとか……キミ、ホントにバカなのだな」


 レーヴからの容赦ない指摘によろめきながら、アシュレは反論を試みた。

 でも、と逆接した。


「でも、それならなおのこと、レーヴ、きみがボクにそうする理由はない。ボクと関係してくれたアスカやアテルイ、シオンたちからのものならわかるし、受け止める義務がボクにはあるはずだけど。いや……義務なのかどうかはよくわからないんだけど。でも……


 言葉を切って、続ける。


「でも、キミにはそんな理由はないはずだ」


 レーヴの自由と尊厳を想って、アシュレは言った。


 だが、帰ってきたのは二回目のストンピングだった。


「いッ、痛ったァッ?! いまのは絶対にワザとだろ、二回目だぞッ?!」

「関係した」

「は?」


 涙目になって足先を抱えて飛び跳ねるアシュレに、腰に両手をやり胸を傲然とそびやかしてレーヴが言った。

 その瞳にはなぜか溢れんばかりに涙が溜まっている。


「キミはもうわたしと関係したんだ」

「そ、それってどういう?!」

 

 事態の急変と足の痛みに混乱しながら、アシュレは訊いた。


「わたしにも理由があると言っている」

「だからそれ、どういう意味なんだよって聞いてるんですけどッ?!」


 突然の攻撃の意味がまったく理解できずに、アシュレは涙目で爪先をさする。


 その様子がおかしいのだろう、周囲でどっと笑いが起った。

 レーヴはそんな衆人環視のなかで間合いを詰めると、再び肉体を密着させてきた。

 それからまだ涙を滲ませたままのアシュレの耳朶を引っ張ると、顔を真っ赤にして囁いた。


「捧げ、た」

「はあ?」

「さ、捧げたんだ、キミに、わたしはわたしを」

「え、ええ、え、それってどういう?!」

「なんども言わすなーッ!!」


 あまりの朴念仁ぶりに、レーヴはこんどは平手打ちを見舞った。

 これが綺麗に入って、アシュレはきりもみして地面に転がった。


 周囲にはこれも喜劇の続きと認識されたのか、また笑いの渦が巻き起こる。

 目を瞠り立ち尽くしているのは、アスカとアテルイだけである。


 心配げなふたりの視線に気がついたのか、それともあえて無視を決め込むことにしたのか。

 レーヴは事態の急変についていけないアシュレの襟首を掴んで引きずり上げると、訊いた。


「わかったか?」


 だが、このときすでにアシュレは目を回していた。

 なにが起ったのか、なにを言われているのか、どう答えたら良いのか。


 なにもかも、さっぱりわからない。


 平手打ちのダメージそのものはたいしたことはないが、脳震盪のうしんとうだけは防ぎようがない。

 アシュレが曖昧になっているのはある意味不可抗力なのだが、この瞬間、本当に余裕がなかったのは実はレーヴの方だった。


 ハッキリしないアシュレの様子に、真騎士の乙女は頭のなかが沸騰するような感覚を覚えた。

 カッとなり──衝動的にアシュレの唇を奪ってしまう。

 

 聴衆は一瞬静寂に呑まれ、次の瞬間、歓声を爆発させた。


 目を丸くしているのはアテルイとアスカ、そして当のアシュレ本人だけである。

 脳震盪のうしんとうは治まったが、こんどは心臓が爆発しそうになっている。

 唇は奪われ続けている。

 むさぼるように求められている。

 襟足を掴んだ指は必死に握りしめられている。


 どれだけ、その長いくちづけは続いたのか。


 重ねていた唇をもぎ離したレーヴは呆然とするアシュレの肩に額を預けると、これまでとは違う口調で囁いた。

 荒い呼吸。

 全身からレーヴの……リンゴのような香りが立ち昇る。


「わたしは……もうキミのものだ。そう言っているんだ。想うとか想わないとか、そういうことではなく、完全にキミのものになってしまった。射止められてしまったんだ。たとえキミが、わたしを想ってくれなくても」

「レーヴ?!」

「真騎士の乙女が、だれにでも、あ、あんなことをすると思うなよッ!」


 そして、戸惑うアシュレに蹴りを見舞うと、レーヴはすばやく光り輝く翼を展開して、どこかに飛び去ってしまった。

 あとに残されたアシュレは呆然とレーヴの軌跡を見送るしかない。


 周囲の少女たちが「早く追いかけて」と急かしてくるが、それは無理な相談だ。

 なぜなら。


「ごめん、ボク……まだ飛べないんだ……」


 そう返すのが精一杯だった。




さて、この第7話:第七話:蒼穹の果て、竜の棲む島の更新は、基本的に平日にしていこうかなあ、と考えています。


原稿が出来てる限り、平日20時くらいにトコトコ、わりとコンスタントに投稿していくと思いますヨ。


でわ。

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