救い
お待たせしました。無事、第5章書き上がりました。
7話分予約投稿してあります。
下記の通り、変則的な投稿となります。
なろう:3/4.6.8.11.14.18.25
カクヨム:3/4.5.6.7.8.11.18
以前から仄めかしていたカクヨム先行公開を行いたいと思います。
この機会にぜひ、カクヨムへ!
人気の少ない田舎道に、落ち着きなく辺りを見渡す壮年の男がいた。
その男は何かを探しているようで、しかし、迷いなく歩みを進めている。
「……どちらにおわすのですか、美しき神よ……」
男はブツブツ呟いており、これまですれ違ってきた人々に奇異の目で見られていたが、気にした様子もない。
かつて研究所にいたこの男は、数少ない研究チームの生き残り、土間博士である。
研究所での聞き取り調査中に逃げ出し、盗んだ情報で妖怪の跡を追ってきていた。
「この辺り、この辺りにいるはず……」
海を渡り、山を越え、再び己の心を掴む神に拝謁する為、男は歩いてきた。
期待が高まるにつれ、焦れたように男のつぶやきが増える。
———!!!
男の向かう先——とある墓地の方から、平時では聞くことのない破壊音が鳴り響いた。
「この音は、もしや!」
男は喜色満面の笑みで走り出す。
かつての怪我で満足なスピードも出せない体だが、義足から鳴る鈍い音は彼の心を表していた。
「おぉ! こちらにおわしましたか!」
土間博士が現場へ駆けつけた時、ちょうど空海が放り投げられていた。
半径10mの墓石は破壊され、墓地の見晴らしは良くなっている。
円の中心に君臨する強力な妖怪を目にした男は、膝をついて美しき神を拝む。
男には最初からわかっていた。この妖怪が恐ろしいまでの力を持っていることを。
そしてそれは、かつて見た圧倒的力が持つ美しさの再現でもあった。
只人ではどうすることもできない、超常の力の再臨である。
「あぁ、なんて素晴らしい。私の人生は間違っていなかった」
男が感涙に咽び泣く。
その目には数歩先の母娘すら映っていなかった。
地面に伏せていた母はあまりの惨劇にその場から動くこともできず、ただひたすらに嵐が去るのを待っていた。
「聖君たすけて!」
ただ一人、陽子だけが生存のために動いていた。
スマホの通話先は、当然彼女の王子様である。
第一声が突然の救援で戸惑いつつも、駆けつけることを約束してくれた。
「なっ、何が、起こってるのよ。いや、お願い、助けて、誰か、誰か!」
「ママ、大丈夫だよ。聖君が助けに来てくれるから」
ただでさえ弱っている心に、この非常事態は堪えた。
母親が発作を起こし、呼吸も乱れ始める。
処方薬は先ほどの暴威で鞄ごと吹っ飛んでしまった。
もはやこの場に頼れる大人はいない。
「……!」
陽子は立ち上がった……母親を守るために。
一歩一歩近づいてくる妖怪に対し、小さな体を使って行手を塞ぐ。
彼女も馬鹿ではない。
妖怪に攻撃されたが最後、なすすべなく殺されることは分かっている。
それでも、自分一人で逃げ出すつもりはなかった。
家族を失う悲しみに比べれば、脚の痛みも些細なこと。
激痛の走る足で大地を踏み締め、キッと妖怪を睨みつける。
「来ないで!」
彼女は幼なくとも、決して弱い人間ではない。
いじめられても反撃しなかったのは、自分がされて嫌なことを相手にしない為。
両親に教わった大切なことをしっかりと守っていた。
自分が正しいと信じる生き方を貫く、そんな強さを持っているのだ。
「きゃっ!」
しかし、そんなものがあっても、圧倒的暴力の前では何の役にも立たない。
触手の一本に頬を叩かれ、かろうじて立っていた彼女はその勢いのまま倒れてしまう。
「陽子? 陽子!! お願い! やめて! 誰か助けて! 神様! 誰かぁ助けてぇ!」
泣き喚いていた母親は、娘の悲鳴で現実に引き戻された。
倒れ伏す娘に覆い被さり、ただひたすらに助けを求める。
彼女には何も見えていない。
状況に翻弄され、誰に助けを求めれば良いのかすらわからない、哀れな人間である。
そんな母子の姿を見て、歓喜していた男は言葉を失った。
そして、とある人物の名前が口をついて出た。
「……市子? 圭太?」
長らく忘れていたその名は、かつての災害で失った家族の名前。
無意識に封印していたトラウマが、目の前の光景によって呼び覚まされた。
瓦礫の下敷きになりながらも子を庇う妻と、力なく倒れる息子の姿。
己の命よりも大切な家族の姿が二人に重なる。
「待ってくれ。止めろ。二人だけは……」
ここまで追いかけてきた執念の炎は霧散した。
崇拝する神よりも、妻と息子への愛情が上回った——否、もとより彼の狂信は、愛していた二人を失った絶望から目を逸らすためのまやかしに過ぎない。
命より大切に思う二人を再び目の前で失ったなら……今度こそ、彼の心は死んでしまう。
目の前の光景すら幻でしかないが、それでも彼は現実へと帰ってきたのだ。
しかし、だからといって何かが変わるわけではない。
…………
妖怪はただ無慈悲に距離を詰めていく。
圧倒的な破壊をもたらした触手を揺らし、ただ淡々と人間の下へ歩いていく。
「お願い! 誰か助けて!」
「やめろ! いや、頼みます! 神よ! 家族を殺さないでください! どうか、ご慈悲を!」
慈悲を乞い願えども、妖怪は応えるはずもなし。
「やめてくれーーー! ぐあっ」
間に入ろうとした男は、腹部に繰り出された不可視の触手で母娘のところまで殴り飛ばされた。
内臓を損傷し、このままでは死に至るだろう。
その状況はまるで、あの時と同じ……。
「あぁ……誰か……助けて……くれ……」
それはあの時言えなかった言葉。
二人の死を受け入れられず、叫ぶことすらできなかった言葉。
口にしたとしても、誰も応えてくれるはずのない言葉。
「神様……助けて……ください」
その言葉の向かう先は、妖怪ではなかった。
知識としては知っていても、微塵も存在を信じられない、どこかにいる神へと向けたものである。
この絶望的な状況を覆してくれる、そんな都合の良い願いを、どこへともなく叫んだ。
届くはずもない願い……二十年越しの願いは……。
「H E Y !」
今、届いた。
カクヨムにて1話先行公開しております。
続きが気になる方は是非、この機会にカクヨムで読んでみてください。(リンク張れないので下記コピペお願いします!)
https://kakuyomu.jp/works/16816927863187332284





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