六十七話 わたしはカイトに嘘をついていました
その目を閉じて祈る姿はとても美しく俺は少し見とれていた。
何度も見ているはずなのに、今日は特に綺麗見えた。
「……カイト。母様は、よくやったと仰っていました」
心なしかルリの表情が嬉しそうだった。
「何か嬉しそうだけど、どうかした?」
「……喜んでいらしたので、わたしも同じ気持ちになりました。
……母様の心のままに」
そんな喜ぶような情報だったのだろうか。
まあ、神様が満足なら別にいいんだけど。
ルリも嬉しいなら伝えておいてよかった。
「そう言えば、ここの受付の人と何を話していたの?」
「……食事と浴槽の場所を教えてもらいました」
「そうだったんだ。さっきの酒場じゃ何も食べなかったし、食事でも行く?」
「……はい。カイトがよければ行きましょう」
ルリに付いて行くと食堂があった。
内装は入り口と同じ様に豪華過ぎずって感じの部屋だった。
他の客に配慮してなのか、場所ごとにパーテーションのような木製の板で各テーブルが区切られていてた。プライバシー配慮なのか、でもこれならあまり周りの視線も気にしないでいいから、楽でいい。
「へぇ。何かちょうどいい感じに見えなくていいね」
「……来賓の方々も色々いるための配慮みたいですね」
奥の仕切りがあるテーブルがある場所に座る。
何か人の気配はしないけど、テーブルに小さなベルがあった。
ルリがそれを鳴らすと、従業員がやってきた。
「お食事でございましょうか?」
「あ、はい。お願いします。メニューとかありますか?」
「申し訳ありません。メニューがあるのは高級店ですので。これからお持ちいたします」
そういうと、従業員が部屋から出て行く。
酒場いた店員の娘も言ってた様にメニューで食べ物を選択できるのは高級店だけなのか。俺がルリに視線を向けると、こう言ってきた。
「……カイト。食事のメニューで選ぶ事ができるのは高級店だけです。お店では出された物を頂きます。各お店で出される食事は違っているので、わたしたちは自分で食べる物を選ぶ事ができるのです」
「こっちではメニューがあるのは当たり前だったんだよなぁ」
そうしてしばらく話をしていると、料理が運ばれてきた。
魚料理がメインでサラダ多めで見た目からして美味しそうだ。
スープに付いてくるパンはこっちのほうが全然柔らかそうだった。
「じゃあ、食べようか。いただきます」
「……いただきます。カイトの世界ではこれがお祈りなのですね」
「命をいただくものだから、残さずに食べてなさいって言われたもんだよ」
「……ここでは軽く神に感謝してから食べます。外では危険なので安全でないかぎりは全員が受け取ったらそのまま食べます」
「そっか、だからハースさんの時はそのまま食べたのか」
「……はい。では、いただきましょう、カイト」
俺が食べるのを確認してからルリも食べる。
あまり表情の変化はないけど、黙々と食べてる姿を見ていると美味しいんだと思う。実際に魚料理は美味しかった。
最後にデザートが出て来た。
普通のゼリーで透明でプルプルしている。
一口食べてみると、すっきりした甘さで美味しかった。
「……カイト、これはとても美味しいですね」
今まで黙々と食べていたルリだったけど、このゼリーは目を輝かせて美味しそうに食べていた。
何だ、こんな表情もするんだ。
食べている姿は確かに年相応の女の子だった。
食べ終わって食堂から出ると、部屋に戻る。
椅子に座るとルリがコップに水を入れて出してくれた。
「ありがとう。ふう……久しぶりにお腹が満たされた気がするよ」
「……そうですね。特にデザートが美味しかったので満足しました。あれはオランドプリンと言い、オランドの果実を絞った液体にアロル草の粘液で固めた物と聞きました」
余程気に入ったんだろうな。作り方まで聞いてるなんて相当だ。
ルリは祈るようにして目を閉じている。
ああいう甘い物ってこの世界では貴重なのかもしれないなぁ。
まだ問題は残っているにしても、そんなルリを見ていると気持ちが安らぐ。
「何だか異世界に来てから一番落ち着いているかもしれないなぁ」
「……カイトが落ち着けているなら、それは良かったです」
「落ち着いてはいるけどさ、バルムがどう出てくるかちょっと気になるよね」
「……どこにもバルムさんの魔力らしきものは特定できませんね」
「やっぱり待つしかできないか」
「……私の魔法も明日には終わってしまいます」
「それを狙っているかもって事か」
ルリは静かに頷いた。
魔法による回復の恩恵が無くなれば、おそらくバルムとハーシルドが表に出てくるんだろうと思う。その時、どういう対応に出てくるのか想像がつかないな。
「あとはバロンの依頼、こなせそうにないな。レノを森に預けるべきか悩んだんだけど、今の体調だと移動させないほうがいいと思うんだよね。それに、ガレイムは多分エルが気に入らないから断るだろうし」
「……バロンさんは、レノさんの魔力があれ以上失われると命の危険があるから移動させようとしていたのではないでしょうか。その原因である病原の根は取り除かれたので、町にいたとしても問題はないと思います」
俺はバロンに頼まれた依頼をどうしようか考える。
ルリの言う通り命の危険があったから移動させようと接触したんだと思う。
あの病原の根の蝕み方は異常だったから、バロンも気づいていたんだと思うし。
だとするとレノを森に預ける必要は無くなったと考えてもいいだろう。
そうなるとこの依頼の根本としているものは、この町の外壁にある術式だ。
あれを破壊すればいいと思うんだけど……。
「そうだね。そうなると、残りは外壁の術式だけなんだよなぁ」
「……カイトが言ってたように術式を破壊して、何事も起きないと根本的な解決が何もされなくなりますね」
「ハーシルドの捨て台詞が『貴様らは終わる。残り僅かだ』って言ってたから待つしかないか。どうなるか分からないかし、ちょっと怖いけどさ」
「……わたしがカイトを守ります」
「いざって時はルリを頼らせてもらうよ」
「ここまであまり守る事ができなくて申し訳なく思っています。それと……」
続きの言葉が紡がれないまま、待っていた。
コップを見つめたままルリが固まっていたので、続きを促すように俺は言う。
「言いにくいなら、また今度でいいよ」
なるべく優しい声で返すと、ルリは俺の目を見た。
諦めたような悲しいような表情をしていた。
「……わたしは……わたしはカイトに嘘をついていました」
「嘘って、それって……」
「……そうです。フォーレリアの魂の事です」




