六十四話 私が入った時には誰もいませんでした
何事も無く、ギルドに到着すると受付嬢とキリリが忙しそうにしていた。
報酬を受け取りに来ている人や依頼を受ける人を対応していた。
パーティーの誰かを待っているような人も何人かいた。
「今日は事務のやつら全員いないのかよ」
「まったくどーなってんだよ。こっちは依頼成功させてるんだけどな!」
「そうだそうだ、いつまで待たせるんだよ」
ギルド内で人が多くなってきていた。
受付嬢とキリリでさばいているけど、やっぱり人が多いから間に合わずに増えて行っている状態だ。
「どうしようか。聞くにしてもこうも混雑していると話もできないね」
「……わたしが話をしてみます」
ルリが部屋の中央あたりの場所まで歩いて止まった。
それだけで皆の視線を集めた。
俺もただルリの動きを見ていた。
「……皆さん、聞いてください。ギルドの事務にいる人たちについて、受付のお二人とお話がしたいので時間をいただけないでしょうか」
ギルド内の冒険者たちが口々に話し合っているようだったけど、それもすぐに終わった。
「ルリ様を困らせらんねえよな」
「そうだ、ルリ様優先だ! お前ら黙って待ってろよ」
「さあ、ルリ様! お先に用事を済ませてください」
何とも教祖のような扱いに少し引いたけど、ルリのおかげで依頼が成功できているんだからこれくらい普通なのかと思った。
ルリが通れるように道を開けてくれていた。
その後ろ姿を見ながら歩いていると、皆が頭を下げていた。
「……皆さん、ありがとうございます」
ルリも慣れたのか片手を上げて、感謝を示しながら歩くのが様になっている。
「凄いなぁ、ルリ」
町を出るときもルリの一言で道が開いた。
やっぱり神官だと思われているせいなのか、触れることのできない神聖な物でも見るような視線を送っている。
「……そんな事はありません。わたしはカイトのほうが凄いと思います」
キリリがルリを見て頷くと、ギルドの地下の扉を開けた。
続いて受付嬢、ルリ、俺の順で地下に向かった。
少し広い通路の場所でキリリと受付嬢に、酒場で聞いた話を伝えた。
「そんな。私が入った時には誰もいませんでした。本当です!」
まるで自分が犯人にされたような反応するけど、最後に入ったのが受付嬢となれば疑われても仕方がない。
「この子、そんな事できる度胸もないと思うわよ?」
「それは分かっているよ。だから、数十人くらいで入れる部屋ってないかな?」
俺の質問にルリが答えた。
「……ここには会議室がありました。そこであれば、大人数でもいることができます」
ルリに続けて受付嬢も口を開く。
「昇格試験用の闘技場もありますけど、部屋であれば会議室が一番広いはずです」
「だったら、会議室に行こう」
「わ、分かりました。こちらです!」
受付嬢が急いで会議室の扉を開けると、驚いた表情で口をパクパクしながら固まっていた。何をしているのかと部屋を見ると、中はただ真っ暗になっていて何も見えない。
「え? 真っ暗だけどどうかしたの?」
「か、会議室は調光器の魔道具で常に明るいはずなのに、こんなに真っ暗なんてありえません! わ、私が明かりを付けていき……ま……」
受付嬢が部屋に入って数歩でそのまま倒れてしまった。
この部屋はおかしい。嫌な感じがする。
すると、今度はキリリが口元を抑えてその場にしゃがみ込んだ。
「うぅぅっ。うっぷ。中に入れないわ、駄目、吐きそう」
苦しそうなキリリを見てルリが背中をさすっている。
「……大丈夫ですか? キリリさん、魔力がほとんどありません。無理をしないでください」
「ごめん、あたしはいいから。あの子、見てあげて」
「……分かりました。カイト、わたしが行くのでここで待っていてください」
「いや、ちょっと待って、中はどう見てもおかしい」
魔眼で確認しても、ただ真っ暗なままで何も見えない。
こんな事はいままでになかった。
「……それならば、尚更わたしが行くべきです。中に入らなければ助ける事もできません。けれど、わたしはカイトがいるから安心して行けます」
そう言い、部屋に入るルリ。
倒れたままの受付嬢に手を伸ばすと、小さく呻いて立ち止まった。
「……そういう事でしたか。カイト、ここは魔力が吸い取られます。それに身動きがとりにくくなっています」
何とかルリはこらえながら、受付嬢を担いでいる。
鈍い動きのまま魔力がどんどん減っているのが視える。
このままだと倒れるのも時間の問題だ。
こうなったらもう中に入るしかない。
真っ暗で恐怖で足が竦む。
だけど、ルリが頑張っているんだ。
真っ暗でも魔力は感じる事ができる。
俺はコレよりも強い魔力で全身を覆うと、少しだけ恐怖が和らいだ。
そして、ルリと受付嬢を助けるため中へと足を踏み入れるのだった。




