五十六話 ならば私に認めさせてくれ
子供たちと軽く遊ぶつもりがそこそこ時間が過ぎてしまった。
ルリも一緒になって遊んでいたけど、やっぱり一番人気だったね。
鬼ごっこしていて、何かの拍子にルリが魔術を使ったら「教えて教えて!」ってせがまれていた。ルリが教えた子供たちは、割とすぐに魔術を使えるようになっていた。お年寄りたちもルリに混じって魔術の練習をしていた。
俺もそれを見よう見まねでやってみたけど、不発に終わる。
そして、それ見た子供たちにからかわれた。
挙句の果てに「しょうがないな、教えてあげるよ!」と逆に子供に教えてもらったりしていた。結果的に下には見られたけど、おかげですぐに打ち解けたから良しとしよう。
お年寄りの方々にも見ていられないって感じで、教えてもらったりした。
でもね、結局魔術は使えなかったんだけどね!
「はぁぁぁぁ~」
俺がため息をついていると、エルドラ・エルフィードが首をかしげて聞いてきた。
「何だ、カイトは魔術が使えないのか。それでよくバロン様の依頼を受けたな」
「受けないとって思ったんです。魔術も魔法も使えないけど、コレだけは使えるから」
魔力の球を手の上に二つ浮かべる。
エルドラ・エルフィードが目を大きく開いてソレを視ている。
……やっぱり見えてる。
そう思ったのは、このエルフの王というだけあって尋常じゃない魔力量。
バロンよりも魔力はあるかもしれない。
魔力の玉を一つに重ねて「バシュッ」と音をたてて消してみせた。
「そうか……本に残ったお伽話のようなものだと思っていた。『魔法使い』《・・》は我々が目指すべき頂きだ」
その魔法使いという言葉を俺を見ながら言う。
「な、何でじっと見るんですか。俺は魔術は使えないし、ましてや魔法なんて使える訳もないよ」
「それは見れば分かる。魔法使いとは魔法を自由自在に創造できる者だ。カイト、お前は魔術も魔法も使えない」
その言葉に、一人で崩れ落ちるように膝をつく俺。
使えないってはっきり言われるとキツイものがあるなぁ。
だって、子供たちですら簡単な魔術が使えるんだよ。
「だが、『真の魔法使い』とは……」
「どうした? 落ち込んだような格好してよ。そこのエルドラ・エルフィード様にでも、いじめられたのか?」
ガレイムが俺の肩を叩きながら言った。
『フン。言葉の通じない相手と話すほど私も暇ではない』
「おっと、エルフ語か? 何言ってんのか分かんねえ」
これがエルフ語ってやつか。
確かに発している言葉は違うけど、普通に意味が分かる。
もしかして、神様が言ってた魔力操作で変換できるってやつかな。
この森に入ってから常に視ているせいで勝手に変換してくれたのか分からないけど、こうやって言葉が分かるのは便利だね。
いままでは、こっちの言葉に合わせてくれていたってことか。よっぽど腹を立てているのか、そっぽを向いて頬を膨らませている。
『ごめんなさいって謝れば許そう。ま、分かるはずもないか』
声の発音か……フォーレリアの過去の中でロザリアが声帯を魔力で調節していたのを思い出した。
少し声帯に魔力を集中して話してみたら思った通り変換できるんじゃないかと。
『ごめんなさい。これでいいですか』
思った通り発音ができた。
なるほど、こっちは少し難しいけどなんとか話せるな。
声帯に集めた魔力を安定させないと、魔力が消えて変換ができなくなる。
『なっ、お前エルフ語が使えるのか! 人間で言葉まで話せる者はそうはいない。気に入ったぞ、カイト!』
と、そこに子供たちを引き連れてルリもやってきた。
子供たちはガレイムに遊んでと付きまとう。
「まてまてって、分かったから、な?」
しょうがねえとか言いながら、ガレイムは子供たちと向こう側に行ってしまった。
『……エルドラ・エルフィード様。先ほどの失礼とガレイムの無礼をお許しください』
『お前も話せるのか! ルリと言ったな。エルフ語を話せるのならば話は別だ。そんな無礼など、人間と付き合っていく上では百も承知だ。王とは言えど、まだ私は若輩者。気楽に話すがいい。二人とも私をエルと呼ぶ事を許そう』
さっきまでとは正反対に機嫌が良くなったエル。
ルリもエルフ語が話せるのか。
あの神様の事だから、一般的な知識の内に言語も入っているって事なんだろうな。
「人間の言葉に合わせよう。エルフ語では疲れるだろう」
「……子供とお年寄りたちの安全は確認できました。ありがとうございます」
「よい。私も任された身だ。人間たちの安全は最優先に対応する」
「あの、バロンってそんなに偉いんですか?」
何言っているんだと、その細い眉を寄せるエル。
「そんなに偉いか、だと? 四大古竜である風竜ウィルニス様がバロン様なのだ!」
聞いて俺は驚いた。
バロンがルリよりも魔力があると思ったら、そういう事だったのか。
今思えばロザリアも似たようなくらいの魔力があったように感じた。
ルリも驚いた顔をしていたけど、どこか納得しているように見える。
「人の姿ではバロンと名乗っておられる。くれぐれも古竜であるその名を口にすることの無いように」
「分かりました」
俺とルリは頷いて応える。
「まあでも、古竜でもルリより少し強いくらいの魔力なのか……」
「……カイト、それは違います。古竜は人の姿では全力を出せません。竜の姿で全力を出された場合、向こうは大人でわたしが子供のような力関係になります」
「ほう。バロン様との差をその程度とみているのか」
すると急に風景が変わり、家と子供とお年寄りたちが消えた。
「ここはどこですか?」
「皆がいるからな。ここならば、何にも干渉されることはない。カイトは依頼を受けたことで、認められている。だが、ルリはこの件について何も関係はあるまい?」
「……わたしは、カイトの妻です。関係はあります」
「そうか。ならば私に認めさせてくれ。でなければ、この件が解決するまではここから出る事を許すことはできない」
エルの中にある魔力が急激に強くなると、何かを詠唱していた。
俺が声を上げて止める前に、詠唱は完成していたのだった。




