五十一話 ワシの孫娘も幼い頃に魔術が使えなくなったのだ
糸が切れた人形かのように動かなくなったルリ。
初めてルリを見た時の表情と重なり不安になった。
「ルリ!!」
「ちょっと、あまり揺らさないの。単純に魔力の欠乏症よ。魔力を使い切っただけ。休めばちゃんと治るものだから心配なのは分かるけど、大丈夫だから安心しなさい」
俺の肩を叩いて、キリリは優しい声で言ってくれた。
ルリが急に倒れてくるから焦って頭が回らなかった。
そうだよな。さすがに考えすぎだった。
高熱が発生した時のような別の何かが起きたのかと思ってしまった。
「ありがとな、カイト。正直、何をしたのか分かんなかったけどよ、何かをしていたのは何となく分かったぜ。だけどよ、ルリのあの魔術のほうが凄かったな。はははっ!」
「あたしからもお礼を言うわ。本当にありがとう。ガレイムは、しばらくあんな感じだと思うから後で言っておくわ」
ガレイムはずっとレノの手を取って祈るような形で泣いているようだった。
俺も同じ立場だったら、ずっと手を離さないだろうな。
「ねぇ、オグ爺。カイトを一階の客間に連れて行ってもらっていい? 大丈夫だと思うけどレノは私たちでもう少し見ておきたいの」
「そうだろうな。分かった。付いてくるといい」
キリリに言われてオグ爺は部屋から出て行った。
俺もルリを抱えて付いていく。
一階の客間に入ると、奥にベッドと小さな机と椅子がある質素な部屋だった。
机の上には長方形の取っ手が付いたランプがあって、オグ爺が明かりをともしてくれたようだった。明かりはロウソクではなく、ライトボールのような小さい明かりだった。
俺は装備品を外してルリをベッドに寝かせた。
近くにあった椅子に座ると、オグ爺が改まって言った。
「レノを助けてくれて感謝する。ワシもどうにかしてやりたかったのだが、お手上げ状態だったのだ」
「いえ、俺も助けたいと思っていたので。まさか、あんなものだとは驚きましたけど」
「カイトが手にしていたモノ……あれが病原の根というものなのか?」
「そうですね。オグ爺も見えたんですか?」
「正確に言えば、ぼんやりとあるのは見えた。ルリに治してもらった目のほうでな」
オグ爺の刀傷のある左目が開くと、ルリが魔眼を使った時のような魔力を帯びていた。
「魔力が集約されて魔眼みたいな感じになっているみたいですね」
「そうか……魔眼持ちはそう見えるのか。魔眼とは比べられないとは思うが半魔眼とでもいうのかな。慣れぬうちは閉じておくか」
オグ爺は片目を閉じた。
さらっと魔眼持ちって言われたけど何でバレたんだろう。
「えっと、どうして魔眼って……」
「何を言っておる。魔眼で視なければ、ワシの目の違和感の正体が分かるはずもあるまい」
「ああ、そういう事でしたか」
「それとあの病原の根とは、魔力の供給を絶つものだとみていいものなのか?」
「そうだと思います」
「これを聞いたのはな……ワシの孫娘も幼い頃に魔術が使えなくなったのだ。まさか病原の根なのか、とな」
「その孫娘はレノみたいに身体が弱くなったんですね」
「いいや、むしろ逆だ。魔術は使えぬが、身体は至って健康そのものなのだ。症状は違うが魔力の部分に関して似ているのが気にかかった」
「魔術が使えなくなるって、あることなんですか?」
「魔術は初めから使える者、使えない者で分かれる。確かに後天的に使えるようになる者もいるみたいだが、逆は聞いたことが無い」
「でも、レノは魔術を使えてました。病原の根が魔力を吸収していたのにです。もしかしたら、レノは特殊な方法で魔術を使ったのかもしれないですけど」
「ふむ……さっきと同じ状態ならばレノは魔術を使えたのかと言えばどうなのだ?」
「それは、無理でしょうね。なるほど、確かに今回の病原の根と同じ症状になりますね」
「ワシの孫娘は『ミュリナ』というのだが、もし出会う事があれば気にかけてやってくれぬか」
「分かりました」
「ルリにも礼を伝えておいてくれ」
俺が返事をするのも待たずにオグ爺は部屋から出て行った。
急に静寂が訪れた。
その中でルリの息が大きく聞こえてくる。
規則正しく上下する胸に安堵する。
ルリが倒れて来た時は本当に驚いたな。
あの麻痺させる魔法で魔力を使い切った事を忘れていたからね。
それに病原の根……生きているようで気持ち悪かった。
「何か色々あったなぁ」
ルリの手を上から被せるように俺の手を重ねた。
少しひんやりしているけど、少しずつ温かくなってきた。
魔法を使う前に俺の事を守れないと気にかけていてくれた……別に自分勝手にやっているとは思わないけど、優先順位の問題なんだろうな。
神様は不満そうに言っていたけど、俺自身はルリがいるから凄く安心感があるんだよね。魔術や魔法も使えるから守ってもらう側としても心強い。
今でも色々未知な事が多すぎて怖い事は怖い。
だけど、フォーレリアの過去を視てから怖いが少し変わった。
俺自身と相手の魔力を比較した時に相手が脆そうに見えるようになったからだ。
それでもウォルフに睨まれると怖いし、ガレイムに殴られそうになるとヒエッってなるけどね。怖いものは怖いんだ、うん。
それと怪盗バロン。
あの人は対応こそ紳士的だったけど、怖いと思った。
ルリよりも強いと魔眼で視てそう感じた。
そのバロンから依頼を受けて、もらったこの『真実の指輪』か。
使う場所は自然に分かるみたいだからいいや。
子供たちのいる場所も聞いたし、ルリが回復したら皆で行ってみよう。
元気にしているとバロンも言っていたから急がなくても大丈夫だろう。
あと問題は病原の根だ。
俺の事を仲間だと言ってた。
どうして俺が仲間になるんだろう。そこだけは納得いかないんだよなぁ。
勝手に勘違いして、魔力だけ遺して消えていったし。
そのおかげで『終極の魔力』を手に入れた。
恩恵が魔力の回復速度が速くなる……これは分かる。
可能性のゼロを消すって何? ゼロ消して一桁になったりしたら不利になるよなぁ。まあ、考えても分からないから気にしなくていいか。
ルリの手の温かさを感じながら色々考えている内に夜が更けていった。




