四十話 では、始めましょうか。ウォルフのギルド構成員の殺害について
ベルナードとは、ファールレン王国を代表する三公爵のうちの一つです。
王国はガルン大陸の北西部に位置します。
攻撃である剣を象る力の騎士『黒のヴァルガン』。
防御である盾を象る守りの騎士『青のシルドラン』。
そして天秤を象る秩序の騎士『黄のベルナード』。
三騎士の中で一番強いのは『黄のベルナード』と言われています。
秩序の象徴である天秤は重さを測るものですが、それは相手を測り掌握するものとして上に立つ者。それは最強の象徴となったのです。
三騎士の公爵の中でもベルナードは常に王国に一番近い位置にあって、王族の守護者として活躍しています。
それがガルン大陸の南東部であるこのドードルの町にいるのは、普通であれば考えられません。例え現役を退いたとしても、後継の育成や公爵としての仕事があるはずですが……。
かつて『戦場の鬼教官』と敵味方問わずに恐れられてきたオグ・ベルナードがこの町で何をしているのでしょうか。お節介な事をしているとは話していましたけど、王国の事はどうしたのでしょうか。
「騒がしいね、何かあったのか?」
ハーシルドさんが地下室から戻ってきました。
受付の三つ編みの女の子がお辞儀をします。
「特には……皆は外に出て行きました」
「そうか。ま、ここでグダグダしているよりはマシか。あの暗い雰囲気がなくてボクは清々するけどね」
そして、ウォルフさんを見るとこう言いました。
「もう、お別れの挨拶は済んだでしょう。こちらも準備はできたから地下の会議室まで来たまえ」
「てめ……」
ウォルフさんの背中をバンっと手で叩くとオグ爺さんは言います。
「ワシも行こう。このガキ共が暴れるといけないからな」
ハーシルドさんは少し考えるような感じでした。
「ふむ……そうですね、いいでしょう。確か君は……」
「オグだ。ガキ共の世話係みたいなもんだ」
「ならば役立たずなりに、この野蛮な男を抑えておくように」
皆は無言でハーシルドさんについて行きました。
地下の会議室に入ると百人くらいは入れるような広さの部屋でした。
大きいテーブルがあってガルン大陸の地図が広げられていました。
他には紙の束が上にいくつか置かれています。
ハーシルドさんとはテーブルを挟んだ向かい側に用意された椅子に座りました。
「では、始めましょうか。ウォルフのギルド構成員の殺害について」
その言葉でウォルフさんが勢いよく立ち上がろうとしました。
けれど、後ろにいるオグ爺さんに片手で押さえられて動けない様子でした。
「いいから聞いておけ、ウォルフ」
「ん? 何やら最初から騒がしくなりそうですね。……まあいいでしょう。
今回、ウォルフとキリリは商人ハースからの護衛の依頼を受けた。その護衛の帰り道で盗賊との交戦中のレルグルとワルデをキリリが魔術を使用して足止めを行い、ウォルフが背後から両名を一刀にて絶命させた。キリリが使用した魔術はアースメルトで間違いないですね?」
勢いよくキリリさんは立ち上がって怒った表情で言いました。
「はぁ? どういう事? 魔術は使ったけど、盗賊に襲われたからよ!」
「S級のレルグルとA級のワルデはギルド員で両名共に得難い人材でした。両名はウォルフが背後から殺害。間違いないですね?」
「俺が斬ったのは盗賊だけだっ! 仲間を殺す理由なんざねえ!」
ウォルフさんが飛びかかろうとするのを、オグ爺さんは片手で押さえています。身をよじっても立ち上がる事すらできません。
わたしはオグ爺さんを魔眼で視ます。
カイトとは違って、魔力で強制的に再現しているだけなので性能は落ちますが状態の把握くらいはできます。
傷が完治した事によって身体中に魔力が満遍なく流れています。それによってもう一つ別の流れも活発になっていました。
……これは気というものですね。気は主に魔術を使わない戦士系の人が操るものです。目まぐるしいくらいの速度で魔力以上に活発になっています。
オグ爺さんがギルドの皆を『ガキ共』と言う理由が分かりました。
年齢だけではない、これは……ベルナードの名にふさわしいものです。
「ワシの知る限りだと、S級のレルグルは戦闘タイプではないが主にその特殊な魔眼で遠方からの監視が主体だと聞く。それが、盗賊共なんぞと戦闘する必要があるのか?」
「フン。そんなことボクが知った事ではありません。事実を述べているまでです」
オグ爺さんの話を無視するようにハーシルドさんは答えます。
それでもオグ爺さんの話は続きました。
「A級のワルデがレルグルといたのも不自然。あのガキは性格こそひねくれてはおるが、レルグルのような戦闘が得意でない奴と組むはずがない。盗賊が相手だとしてもな」
「盗賊に襲撃されたならば一時的にでも共闘する事もギルド員ならば誰にでもある話では?」
「ワルデは魔術を使うが、戦闘向きではない幻術系を得意としておるからな。共闘を考えたとして、正面から戦うタイプでない二人が盗賊と戦うとは考えにくい。もう一つ言うならば、いくらアホな盗賊共もA級以上のギルド員二人だと分かっているギルド員相手に戦いを挑む事は無いだろう」
「事実、襲われていたんですよ。いくら盗賊だってギルド員を全て把握しているわけでもないでしょう」
「あの狡猾な奴らが、ギルド員を把握してないだと? 最近不穏な噂があってな。ギルド員のリストが外に漏れているらしい」
「老いぼれは何が言いたい? リストが漏れたから盗賊はギルド員を把握している。だから、A級とS級の二人が襲われるはずはないと、そう言いたいのですか?」
「その通りだ。他に何がある?」
「いいでしょう。では、証人を呼びましょう。さあ、入って来なさい!」
部屋に入ってきたのはハースさんと……あの盗賊のお頭と呼ばれていた人が入ってきました。
その二人の表情の生気の無さに、わたしは不安を覚えたのでした。
病に倒れた作中の神様が「まだ評価が来ぬ……なぜなのじゃ……」と
ダイイングメッセージを残していたので、面白かったら評価をお願いします。




