二十六話 お主が決めるがよい。この魂をここで散らすべきなのかを
どう見ても、神様だよね……。
何かいつにも増して攻撃的な気がするんだけど。
目が黄金色になって、様子を伺っているようだ。
とても濃い魔力が神様の目に集まっているのがよく分かる。
以前に視た時よりも、はっきりと魔力が認識できる。
今だから分かる……こんな途方もない魔力、想像さえできないくらいだ。
あの火竜イルグスですら比較の対象にならないくらいだ。
「闇竜ダナグアスの使いって何ですか! 俺です、カイトですよ! そんな怖い目で視ないでくださいよ」
「……声が聞こえないのじゃが。まったく、肝心なところが抜けておるのう」
こっちからは声が聞こえるのに、向こう側は声が聞こえないのか……。
声が届かないって、声が小さいからだと思っていたけどそんなレベルじゃなかったのか。
―――パンッ!パンッ!パンッ!
神様は手を何度も叩いている。
何をしているのだろう。
「むむっ? こっちではないのか……まさか、先のほうからか。どうやら正解のようじゃのう」
最後に手を叩いた時、こっちのほうまで見えない何かが俺に当たったのが分かった。あれって、ルリがやっていたマナサーチみたいなことしていたのか。
「魔眼の者よ、何か言うてみい。こっちはもう聞こえるはずじゃ」
「カイトです! 神様、さっき会ったばかりじゃないですか。忘れるには早すぎますよ」
「……我が貴様と会ったじゃと? いつの話をしておる」
「いつって……本当にさっきですけど」
「我はこの世界の者と会うことは、まずないのじゃ。例外はあるにしても、じゃ。可能性があれば『神託の巫女』くらいじゃぞ。ましてや、あのダナグアスの使いに、なぜ我が会わねばならぬのじゃ」
「そんな、なぜって。元はと言えば神様が間違えて、俺を転移してしまったと言ったのが原因じゃないですか。何でそんなに他人事なんですか」
「は? 我が魔眼の者を転移したじゃと!? 一体どういう事じゃ……我がしているのは転生じゃぞ」
神様の目の魔力がより一層密度が高まっていく。
「良いか、我の目を見て答えよ。貴様はなぜ転移を受け入れた」
「なぜって気が付いたら、こっちにいたんですよ。手違いで転移したって言ってたの……神様ですよ?」
「む? 我が手違いじゃと……。では、その魔眼は闇竜ダナグアスからもらったもので間違いないな?」
「よく分からないですけど、何か『青い実』を取ろうとしたら目に汁が掛かってしまって、それで『魔眼』を取得したとか、なったんですよ。あ、実も食べましたよ」
「青い実を食べたと言うのか。アレは『リブルの実』と言ってじゃな、特定の状況下の限定した時間でしか取れぬ実じゃ。それを食べたというのか……その魔眼とそのあり得ない魔力の原因がようやく理解できたのじゃ」
「え、どういうことですか?」
「しょうがない奴じゃな。少しだけ教えてやるとするかの。よいか、我が用意したのは『リレドの実』なのじゃ。あれは、魔力の回復を促進する実での、滋養強壮の効果がある。簡単に言えば、弱った身体を正常に戻す効果ということじゃ。つまり、我はリブルの実など知らぬという事じゃ」
「でも、リブルの実のことを話していましたよね」
「うむ。魔眼の者が来るまでは、我は知らなんだ。我はこの神眼で言葉の嘘を判定し、その話の内容を吟味したまでじゃ」
「吟味したって、もしかして……視たってことですか?」
「うむ。視たのじゃ。『目がっ! 目があああっ!!』って言っておったの」
「あーーー! 本当にそんなところまで視えるんですか!」
あの痛みでゴロゴロ転がっていたのを思い出すと、ほんの少しだけ恥ずかしい思いが蘇ってくる。あれが視えたって神様の神眼は、ちょっと次元が違うよなぁ。まあ、俺と比べること自体が意味のないことなんだろうけどね。
「魔眼の使い方がなっていないのも理解できた。魔眼とはな、真理を見抜くものじゃ、その意味をよーーーく考えるがよい。もう一つだけついでに教えておこうかの、使いようによっては魔術すら発動できるであろう」
「真理……ですか。この魔眼は物事の本質が見れるってことですかね」
魔術もやりようによっては、使えるとなると希望が持てる。さすがにまったく使えないのは、どうかと思うからね。
「全部教えてしまっては、面白くなかろう。さて、カイトとやらがダナグアスの使いでないのは、よーーーくわかったのじゃ。だが、ならばなぜカイトはここにおるのじゃ?」
「いや、それがですね。話すと長くなるんですけど……」
俺はここに来るまでのいきさつを話した。
結局、ルリが高熱で倒れた原因を追っていたら、ここまで来ることになったんだよね。
「ほう……それでこの魂が、ルリという名になったのか。転生ではなく転移というのも気になるがのう……まあ、そこは本当に手違いがあったのかもしれぬのじゃ」
「そんな、手違いで死にかけた俺は何なんですか」
「そこは、アレじゃ。スキルも優遇すると言っておる。悪い話ではないはずじゃ」
「でも、それって今の神様じゃないですよね」
「うっ……じゃが、お主はそのおかげで魔眼や魔力を手に入れた。そこは感謝するべきじゃないかのう?」
「死にかけましたけどね。それで実って結局、何だったんですか。あとメッセージも読めなかったんですよね」
「そうじゃった。つまり、我はリレドの実は創ったが、リブルの実は知らぬのじゃ。リレドの実が環境に合わずに熟せぬ実となったものだと、最初は考えたのじゃが……何やらそうでもないらしいのう。その理由は、カイトの魔眼と魔力よ」
「俺の魔眼と魔力が何の関係があるんですか?」
「我はカイトを闇竜ダナグアスの使いだと言ったな。それは、その魔眼と魔力からダナグアスの魔力をわずかながらに感じたからじゃ」
「それってどういう……」
「カイトはどうして魔眼を手に入れた?」
「どうやってって……あっ!!」
そうだった。俺はあのリブルの実から魔眼を手に入れた。更に魔力の覚醒ってやつもだ。そこからダナグアスの魔力を感じるという事は……。
「あとな、言ってはおらんかったのじゃが。我は空いた時間で『しすてむ』と言うものを創ってみたのじゃ。転生した人間もそうじゃが、もし転移した人間に対してサポートというものをするのに、いちいち我が伝えるのも面倒じゃからの。しかし、まだそっちの『未来』でも完成しておらんかったか」
「あれって神様が創ったシステムだったんですか。ちゃんと完成させてくださいよ」
「うっ……そ、そうじゃな。だ、だが、我も忙しいのじゃ。大体、カイトは本当にスキルとこの魂……ルリを交換するつもりかの?」
「そ、それは……正直、スキルは欲しいとは思っていますけど……」
あの時は何の迷いもなくルリとスキルを交換することを選んでしまったけど、今になって少し後悔しはじめている……。最初は勝手なやつだなって思ったりしたこともあったけど……全然思っていたよりもいい子なのを知ってしまったし、何よりこんな結末で終わってしまったのを見てしまった。俺まで交換ってなったら……。
「はぁっ、これじゃ。我も、何でこんな男にこの魂を任せたのかのう」
神様がフォーレリアの魂……つまりルリの魂を握っていると、どこからか悲鳴のが聞こえてきた。
―――……ううぅ……苦しいっ……痛いっ……
その悲鳴はルリの魂から聞こえていた。
神様がどうしてルリの魂を握って潰そうとしているのか。
「な、何をしているんですか!」
「何をしているじゃと? カイト、お主が決めるがよい。この魂をここで散らすべきなのかを」
神様の目が、俺の心の中を見通してくるかのように魔力が集まっている。
そして、小さな神様の影が巨大な竜の姿に変わっていくのだった。




