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52 この先は?

 お父様とお兄様に恋人を斡旋した事で、二人に邪魔されずにエイブラムさんとデート出来ると思っていたのに、現実は甘くなかったわ。


 まず、エイブラムさんが騎士団長という立場なのが問題よね。


 魔物や盗賊が出たら真っ先に討伐に向かわされる立場の人だもの。


 先日も二人でお茶を飲んでいたら、近郊の森で魔物の群れが現れたと知らせが入って、そのまま討伐に向かってしまったし…。


 無事に帰って来てくれたけれど、流石にその後のお休みの日に会って欲しいなんて言えなかったわ。


 セアラ、いえ、お義母様はお父様と結婚をするために今は王妃教育をしているのだけれど、元々お母様に仕えていたからそれなりに対応出来ているみたい。


 今までは王宮の使用人棟で生活をしていたけれど、今は王妃の部屋に移動しているの。


 食事も私達と一緒に取るようになったのはいいけれど、お父様とイチャイチャしているように見えるのは気の所為かしら。


 お兄様はお兄様で、毎日のようにステファニー様を王宮に呼び出しては二人きりで会っているみたい。


 私が焚き付けた事とはいえ、何だか釈然としないわね。


 私とエイブラムさんの仲が進展していないのに、お父様とお兄様が恋人と上手くいっているなんて納得出来ないわ。


 なんて怒りをぶつけてみてもしょうがないってわかっているのにね。


 そうこうしているうちに、国内の情勢も落ち着いてきて久しぶりにエイブラムさんからお誘いを頂いたわ。


「アリス様。よろしければ明日、観劇に行きませんか?」


 今王都で話題の歌劇に誘って頂いたのよ。


 きっとジェンクス侯爵夫人から私を誘うように言われたんでしょうけど、それを断る理由なんてないわね。


「ありがとうございます。勿論ご一緒させていただきますわ」


 翌日はありったけのおめかしをしてエイブラムさんとお出かけをしたわ。


 ジェンクス侯爵夫人が選んだだけあって、王道の恋愛物だったわね。


 観劇が終わって王宮に戻ると、エイブラムさんは私の手を取って庭園へといざなったわ。


 月明かりの中、庭園を歩いていると、不意にエイブラムさんは立ち止まって私の前に膝をついたの。


 この流れってもしかして…


 ドキドキと高鳴る心臓を抑えていると、エイブラムさんは跪いたまま、私の手を取ったわ。


「アリス様、どうか私と結婚を前提にお付き合いをしていただけませんか?」


 やったわ!


 これで一歩前身ね!


「はい、私で良ければ喜んで…」


 ちょっと躊躇った方がいいかと思ったけれど、以前私の方からお付き合いしてくださいって言っているから、今更そんな駆け引きはいらないわよね。


 本当はそこでキスの一つでもしてもらいたかったけれど、流石に性急過ぎるかしら。


 エイブラムさんはそっと私の身体を抱きしめただけで離れていってしまったわ、残念!


 明日、登城した際にお父様に報告をすると言われて、その場でお別れしたの。


 翌日、二人揃ってお父様に報告に行ったのだけれど、まさかあんな事になるなんてね。


「エイブラム殿、今日は一体何用だ? それに何故アリスがそなたと一緒にいるのだ?」


 セアラと結婚が決まってニコニコ顔だったお父様の影が微塵もないわ。


「はい、私エイブラムはこの度、アリス様と結婚を前提にお付き合いさせていただきたいと思っております。陛下にはその許可をいただきたいと存じます」


「アリスと結婚を前提に、だと? とんでもない! アリスはまだまだ何処にも嫁になどやらんぞ!」 


 えっ!?


 そこで否定しちゃう?


 ワタワタしていると、バンッと扉が開いてお兄様が姿を現した。


「エイブラムがアリスと結婚を前提に付き合うだと? そんな事は断じて許さんぞ! アリスはまだ私の側にいるんだからな!」


 お父様だけでなくお兄様まで?


 一体、どういう事?


 するとそこにセアラとステファニー様がいらして私の手を取ったのよ。


「アリス様、いえ、アリス。せっかくあなたの母親になるのですから、もうしばらくは私の娘としてここで過ごしましょう」


「アリス様。まだあなたの義姉として過ごしてもいないのにお嫁にいかれては困りますわ。女同士、仲良くしましょうね」


 …私、何か失敗したの?


 私の恋を邪魔するお父様とお兄様を排除するどころか、余計な妨害者を増やしたみたい!


 エイブラムさんもお父様とお兄様に囲まれて目を泳がせているし…。


 あと何年、この状態が続くのかしら?


 誰が助けて!


 助けを求めた所で、そんな救世主が現れるわけもなく、私は泣く泣くこの状況を受け入れた。


 そして今日もまた、保護者同伴のデートをしている最中です。


 私の春はまだまだ遠いのね。

 



  ー 完 ー


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