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25 模擬戦

 いつの間にかお兄様とエイブラムさんが対戦する事になっていて、私は事の経緯がわからずにセアラに尋ねる。


「ねえ、セアラ。どうしてお兄様がここにいらっしゃるのかしら?」


「先程の侍従が王女様が騎士団の訓練の見学をする事をアンドリュー王子に伝えたようです」


 わざわざお兄様に伝えなくてもいいと思うのだけれど、万が一を考えて伝えられたのかしら。


「それでどうしてお兄様とエイブラム様が向かい合って剣を構えていらっしゃるのかしら?」


「先程の模擬戦で勝ったエイブラム様に王女様が拍手をされたからでしょう」


 確かにエイブラム様がカッコよくて思わず拍手をしちゃったけれど、だからと言ってどうして二人が戦うのかしら?


 理由がわからずに首をかしげていると、セアラがポツリと呟いた。


「王女様があんなに嬉しそうな顔をされるから、アンドリュー王子がエイブラム様に対抗心を燃やされたんですよ」


 え?


 つまりこの状況は私が招いたって事?


 確かに勝ったエイブラムさんがカッコ良すぎて思わず拍手をしてしまったけれど、だからと言ってお兄様とエイブラムさんが戦う事にはならないと思うのだけれど…。


 どうやって二人を止めようかとワタワタしているうちに模擬戦は始まってしまった。


 二人の打ち合う剣の音が訓練場に響き渡る。


 どちらも同じくらいの力量みたいだけれど、騎士団長のエイブラムさんにお兄様が少々押されているみたい。


 白熱の試合展開の後、やがてエイブラムさんの攻撃にお兄様は剣を飛ばしてしまった。


「勝者、エイブラム」


 審判の声が上がり、ワッと歓声が上がる。


 拍手をしようとして、お兄様が物凄い形相をしているのが目に入ったので止めた。


 …これはお兄様の味方をしないと面倒臭い事になるパターンだわ。


 私はムスッとした表情でこちらにやってくるお兄様に駆け寄った。


「お兄様、お怪我はありませんか? 剣を落とさなければきっとお兄様が勝っていましたわ」


 私が駆け寄ると途端にお兄様はニコニコとした笑顔になる。


「ああ、アリス。勿論だとも。次に対戦した時はきっと私が勝つよ」


 お兄様の隣に立ってチラリとエイブラムさんを見ると、エイブラムさんは私達に会釈をするとその場を立ち去った。


 一言でもいいから言葉を交わしたかったのに、お兄様のせいでそれも叶わない。


 私はお兄様に悟られないようにこっそりとため息をついた。


 私が「お兄様」と呼んで駆け寄った事で周りの騎士達がざわついた。


「もしかして、お身体が弱くて静養していらっしゃるというアリス王女様か?」


「何処かの地方で療養中だと聞いたが、お戻りになられたのか?」


「なんとお美しい。亡くなられた王妃様によく似ていらっしゃる」


 騎士達の注目を集めてしまって、どう対応していいものかオロオロしてしまった。


 お兄様は私を安心させるように頭を撫でると、ぐるりと騎士達を見回した。


「皆も既に気付いているようだが、ここにいるのが私の妹のアリスだ。長い間療養していたが、ようやく王宮に戻ってこれた。近く正式にお披露目を行う」


 周りの騎士達が口々にお祝いの言葉を述べる中、お兄様は私を伴って訓練場を後に王宮の中に向かう。


「お兄様。お仕事はお済みになったのですか?」


 隣を歩くお兄様を見やると、少し顔が引き攣っている。


 もしかして仕事をほっぽり出して来たのかしら?


 案の定、私達の前に先程お兄様を連れて行った文官が立ちはだかった。


「アンドリュー王子。お手洗いに行くと言って出ていかれたのにどうしてこんな所にいらっしゃるのですか!」


「え、どうしてかなぁ? アハハ…」 


「アハハじゃありません! 執務室に戻りますよ」


 結局、お兄様はまた文官に引きずられるように執務室に連れて行かれた。


 そんなお兄様を見送っていると後ろから「アリス様」と声をかけられた。


 この声は…


 ぱっと振り返るとそこにはエイブラムさんが立っていた。


「エイブラム様。先程はお見事でした。とてもお強いですわ」


 他にも何か言いたいけれど、何を言えばいいのか言葉に詰まってしまう。


「ありがとうございます。それではこれで失礼します」


 クルリと背を向けて歩き出すエイブラムさんを見送って私はセアラと共に自室に戻った。

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