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23 宰相と侍女

 お父様とお兄様と話をしていると


「昼食の支度が整いました」

 

と、声がかけられた。


「それじゃあ、行こうか」


 お父様とお兄様は立ち上がると、それぞれ私に手を差し出してくる。


 この場合、どちらの手を取れば正解なのかと考えるまでもなく、両方の手を取るのが正解だろう。


 私が左右の手を差し出された手に重ねると、お父様とお兄様は私をソファーから立ち上がらせてくれた。


 そのまま三人で連れ立って食堂へと向かう。


 王宮での食事だから、フランス料理のようにナイフとフォークがズラリと並んでいたらどうしようかと思ったけれど、そんな事もなく少しホッとした。


 緊張しながらの昼食を無事に終えて、食後のお茶を飲んでいると、食堂の扉が開かれ誰かが入って来た。


「陛下、アンドリュー王子。食事が済みましたら速やかに執務に戻ってください!」


 お父様とお兄様に向かってこれだけ強気の発言が出来ると言う事は、この人が宰相様なのかしら?


 お父様とお兄様は不満そうな顔を隠さずに宰相様に反論する。


「せっかくアリスと過ごせると思っていたのに、少しくらいよいではないか」


「まだ王宮の中を案内してないんだよ。それが終わってからでも…」


「なりません! 大体午前中の予定も放りだしてしまわれたんですから、その皺寄せが来ているんです! アリス様との時間を作りたいのであれば、今のうちに片付けてしまってください!」


 宰相様のお説教にお父様とお兄様は渋々と席を立って私の元へ来た。


「アリス。せっかく王宮の中を案内しようと思っていたのに…。すぐに仕事を片付けて来るからね」


 お兄様はそのまま、別の文官らしき人に引っ張られるようにして食堂を出て行った。


「アリス。この無粋な男が宰相のダグラスだ。ダグラス、せめて自己紹介くらいしておけ」


 お父様の隣に立った宰相様は軽く微笑むと私に対して腰を折った。


「はじめまして、アリス王女。宰相を務めておりますダグラス・ロックウェルと申します。以後、お見知りおきを」


 宰相様はお父様と同じ歳くらいのやはりこちらもイケオジだった。


 立って挨拶をするべきなのか、座ったままでいいのか迷っていると、宰相様は一人の女性を呼び寄せた。


「アリス王女。こちらはこれからあなた様のお世話をするセアラです。元はクリスティン王妃の侍女でした」


 お母様の侍女?


 もしかしてお母様が出産の時に同行していたという侍女なのかしら?


 お母様よりも少し年上のように見えるその女性は、私の前に来るとそのまま膝を付いて頭を下げた。


 この世界にも土下座ってあるのかしら?


 初めて会った女性にいきなり土下座をされて、私はパニック状態だ。


「アリス王女様。申し訳ございません。私がしっかり王女様を見ていればこのような事には成らなかったのに…。王妃様が亡くなられた事に気を取られて王女様から目を離してしまいました。王女様がいなくなられてすぐに責任を取って自害しようとしましたが、皆に止められました。こうして王女様が戻られてようやく私も責任を取ることが出来ます。どうか私に死刑を言い渡してくださいませ」


 ええっ!


 土下座の上に極刑のお願いって、いくらなんでもそんなの無理!


 お父様と宰相様を見ると私がどう判断を下すのかを見ているだけのようだ。


 私は椅子から立ち上がると、土下座をしているセアラの手を取った。


「セアラ、顔を上げてください。セアラは悪くありません。生まれたばかりの私を攫う人の方が悪いんです。それにお母様が亡くなられたばかりでそちらに気が行ってしまうのは仕方がない事です。こうして戻って来られたんですから、これからは私の侍女として仕えてください」


 セアラは両手で私の手を握ると涙を流し始めた。


「王女様、ありがとうございます。誠心誠意お仕えさせていただきます」


 やれやれ、とため息をつくとお父様と宰相様も安堵したような表情を浮かべている。


 もしかして私が本当にセアラに死刑を宣告するとでも思っていたのかしら。


 ちょっと心外だわ。


 それからお父様は宰相様に引っ張られて食堂を出て行った。


 一人残された私にセアラが退室を促す。


「王女様。間もなく仕立て屋が参ります。王女様の部屋に戻りましょう」


 私はセアラを連れて私の部屋ヘと戻った。


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