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16 新たな魔法

 戻って来たガブリエラさんに歩き方の合格点を頂いていると、エイブラムさんの帰宅が告げられた。


 ガブリエラさんと共に玄関に出迎えに行くと、今日初めて顔を合わせるエイブラムさんがいた。


「やあ、アリス。今日顔を合わせるのはこれが初めてだね。変わりはないかい?」


 私の姿を見て破顔するエイブラムさん。


 これが漫画ならばバックに花を背負って歯がキラッと光ってるシーンだわ。


 その笑顔に心臓を射抜かれて、返事がしどろもどろになるわ。


「は、はい。大丈夫です」


 大丈夫って、何!


 自分で答えておきながら、もうちょっと気の利いた事が言えないのかと心の中でダメ出しをする。


 ふと視線を感じるとエイブラムさんが何故かじっと私の顔を見ている。


 やだ、顔に何か付いているのかしら?


 首を傾げるとエイブラムさんは、ハッとして非礼を詫びた。


「いや、失礼。アリスが知っている人に似ているような気がしたんだ。母上、着替えてから食堂に参ります」


 エイブラムさんは、私から顔を逸らすとガブリエラさんに断って立ち去った。


「アリス。わたくし達は先に食堂に向かいましょう」


 まだまだ歩き慣れない靴で食堂に向かうけれど、靴擦れなんて出来たりしないかしら。


 私達より少し遅れてエイブラムさんも食堂に入って来た。


 着ているシャツが薄いから鍛えている体型が丸わかりでカッコ良すぎる。


 食後のお茶を飲んでいると、エイブラムさんが王宮に報告に行った話をしてくれた。


 なんでもこの国の王子様とは同い年らしく、仲が良いそうだ。


「あ、そうそう。明日はアリスに作法を教える事になっているの。明後日には王宮に向かうからアリスのエスコートをお願いね」


「明後日には王宮ですか? そんな話は聞いていませんよ」 


「だから今言ったでしょう。何故そんな嫌そうな顔をしているの?」


 突然始まったガブリエラさんとエイブラムさんの言い争いに私はハラハラしてしまう。


「あ、あの… お二人共落ち着いてください…」


 オロオロと狼狽える私にガブリエラさんはニコリと微笑んでくる。


「気にしないで、アリス。これくらいはいつもの事だから。それに文句を言っても結局はわたくしの言う事を聞いてくれるのよ」


 ガブリエラさんが笑うとエイブラムさんは少し頬を赤くしてツイと目を逸らした。


 仲が良いからこそ出来る口喧嘩なのだろう。


「でも、エイブラム様はお仕事があるんじゃないんですか?」


「いや。昨日の討伐で一段落したから休みを貰っている。不測の事態が起こらない限り、明後日のエスコートは大丈夫だ」


 不測の事態って何だろう?


 大体騎士団のお仕事って小説とかだと魔獣とか魔物の討伐とか戦争だっけ?


 平和な国で育った私としてはそんな事態になってほしくはないわね。


「ありがとうございます。でもガブリエラ様のエスコートは誰がなさるんですか?」


 流石にエスコートで両手に花とはいかないだろう。


「わたくしのエスコートは王宮にいる主人にして貰うから心配しないでいいのよ」


 そう言えばこの侯爵家のご主人は王宮に勤めていらっしゃるんだった。


 つまりは単身赴任って事ね。


 って事は王様に会う前に侯爵家のご主人にも会わなければいけないって事よね。


 私、失敗したりしないかしら?


 今日はエイブラムさんにお姫様抱っこをされる事もなく、自分で自室に下がった。


 だけど、やっぱり慣れない靴で足が痛い。


 ベッドに腰掛けて靴を脱いでみると、やっぱり靴擦れが出来ていた。


 どうしよう。


 当然、この世界には絆創膏なんて無いわよね。


 まさかとは思うけれど、『ヒール』なんて使えたりしちゃうのかしら?


 ものは試し、とばかりに皮がめくれそうな踵に手のひらを当てて、『ヒール』と唱えてみた。


 ぼうっと手のひらが光ったかと思うと、めくれかけていた足の皮が元通りになる。


 …何と言う事でしょう。


 某テレビ番組のお馴染みのフレーズが出てきてしまったわ。


 私が『ヒール』を使える事をガブリエラさんに報告すべきかしら?


 明日、ガブリエラさんと顔を合わせてから報告する事にしよう。


 お風呂に入った私はベッドに潜り込むと、そのまま夢の世界へと引き込まれた。

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