17・夢見る少年とのお話
「まさかの出会いに思わず我を忘れたよ。泣くほど美味しかったごちそうさま」
「完食しましたもんね私のから揚げ。私まだ食べてないんですけど? どうしてくれんだこの野郎」
顔にはゼロ円スマイルを張り付けたまま、素で言い返す。
当初かぶっていた猫なんてとっくに尻尾巻いて去っていった。食べ物の恨みは恐ろしいと知れ。
「わあお、伯爵令嬢とは思えないセリフ」
「あいにく中身は貴族とは無縁の普通の一般庶民なんで」
入れてきたミントティーは額を真っ赤に染めた少年――――レグの話を聞く間にすっかり冷めてしまった。
「飼ってるペットは全然普通じゃないよね……、頭痛いんだけど? 何その鳥めっちゃ攻撃的……」
「わけのわからないことをほざいた上にから揚げを完食したそっちが悪いのよ。ピヒヨも楽しみにしてたのに。ねぇ〜?」
「ぴ〜」
肩の上で優雅に毛づくろいしている小さな小鳥を指先で撫でる。
その指にじゃれついてくる姿は、から揚げを横取りされたことに怒り狂い、少年に向かって高速突きをかました姿と同じとは思えないほどに可愛らしい。
うちの小鳥はかなりの肉食なのだ。
「なるほどそっちが素なんだ。お城で見かけた時は普通のお嬢様っぽかったから、中身からして違うなんて思わなかったよ」
「お城?」
「剣術大会でジオ……、ウェルジオの応援に来てただろう? 彼の妹と一緒に。彼とは友人なんだ」
「ウェルジオ様の? お城にってことは、あなたも第ニ王子のご学友なの?」
「まあね。彼、口うるさいけどいい奴だよね。友達になれって言ったのが彼で良かったよ」
話に出てきた友人ってまさかの彼ですか。
薄々思ってはいたが、彼は不憫の星の元に生まれてきたのではないだろうか……。
しかしこの少年が彼と同じ王子のご友人とは……。
王子の学友に選ばれるって事は、それなりの家柄のご子息ってことじゃないのよ。
「貴方一人でこんな所にいて大丈夫なの? 今頃見張りが探してるんじゃない?」
「馬小屋と鳥小屋と牛小屋の鍵を開けて中身を逃してきたんだ。今頃みんな、探すのに躍起になってて僕がいないことになんてきっと気づいてないよ。だから大丈夫さっ」
「なにが大丈夫さ!?」
笑いながら何言ってんのこのお子様は。
「こうでもしなきゃ抜け出せないんだから仕方ないじゃんか。確かに昔は病弱だったけど、今は健康なんだよ? うちの金を横領してた奴の部屋に大量のゴキ○リけしかけてノイローゼにしたこともあるし、メイドにいかがわしいことしてた奴の恋人に証拠送りつけて破局させたこともあるんだ。……こんなにたくましくなったのに、親も友達もみんな『お前は大人しくしてろ』って外出させてくれないんだ。全く過保護なんだから、過保護は人をダメにするってのにさぁ……」
(世に出したらヤバいタイプのレッテル貼られてんじゃないの、それ……?)
これまでの話を聞く限り、目の前の少年はかなりダイナミックかつアグレッシブな性格をしている。
世に送り出しでもしたら何をしでかすか分かったもんじゃないってのが親の心境だろう。
子供の所業に胃を痛める親がここにもいたか。
「君は実際に日本で生きた記憶があるんだよね?」
「そうよ。これでも三十手前まで生きたわ」
「なるほど。見た目は子供、中身はおば……いった!!」
「大人と言いなさい少年」
レディに対して失礼な。それくらいで済んで良かったと思いなさいと、蹴られた足を押さえながら恨みがましくこちらを見つめる視線を受け流した。
「あの夢で不思議に思ったことが一つあるんだ……。夢の中で俺はいつも必ず同じ人物の視点でものを見てた……。そして一度も、自分の意思で“動けた”ことはなかった……。“誰か”と同じ視点で、“誰か”の生き方を見ているような、意識を共有してるような感じだった……」
「…………」
「君の話を元に言うなら……、あれが僕の前世なのかな?」
その言葉は、まるで遠い昔に意識を馳せるように楽しげなものだった。
「……何とも言えないわね。私はどちらかと言うと思い出したって感じだけど……、君は違うでしょう?」
「前世かもしれない“誰か”の記憶を夢で見た……だね」
同じではない。けれど『もうひとつの世界』として認識している場所が同じ時点で、確かに違うとも言い難い。
「経緯は違う……けど、全く関係ないわけじゃないと思うよ」
さっきまでのおちゃらけた雰囲気を消して、真剣な声音で言葉を紡ぐ。
「あの世界を知っているのは、俺たちだけじゃないよ」
予想だにしない言葉に視線を上げれば、青い瞳と視線がかち合う。
「他にもいたんだよ、あの世界を知っている人間がね……」
ふたつの世界のつながりは……?
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