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大江戸コボルト【WEB版】  作者: ふーろう/風楼


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約束


「お楽しみ中に失礼します、お弁当お持ちしました」


 と、そんな言葉あって、ようやく俺の頭は半ば投げ出されるような形で解放されることになった。


 挙げ句の果てにいつまでも寝ているな邪魔だとまで言われてしまって……俺とポチが起き上がると、そこに重箱に入った出前弁当が広げられていく。


 にぎり飯に若竹煮、佃煮に菜の花のおひたし。

 コボルトクルミの甘辛煮に、漬物各種。


 中々悪くないその組み合わせに感嘆の声を上げていると、人数分の竹水筒が配られて……中には冷やし茶が入っているようだ。


 配達人に銭を渡して支払いを済ませて、そうしてから手を合わせて『いただきます』と声を合わせて、竹箸を手にとってまずはとおひたしからつまむ。


「うん、美味い」


 春の香りに程よい塩分、振りかけられた鰹節も良い感じで……周囲に広がる笑顔を眺めながらその味を楽しんでいると、ポチでもネイでもシャロンでもない、全く予想もしていなかった声が耳に飛び込んでくる。


「あらあらーー!

 美味しそうなお弁当ですねーー!!

 っていうか何気に犬界さんってお金持ちなんですかー?」


 尖った耳をぴくぴくと揺らしながら弁当を覗き込んでくるそいつは、こんな所で会うとは予想もしていなかったまさかの人物、ハーフエルフの深森なにがしであった。


「……前回のダンジョンで儲けさせて貰ったから、それなりにな。

 それよりも深森、お前はこんな所で何をしているんだ?」


 そう俺が言葉を返すと深森は、弁当を凝視したまま言葉を返してくる。


「いえ、別に何と言う訳でもないのですけどねー、あまりにも暇で暇で暇すぎたので桜を見ながらの散歩でもしようかと思ってここまで来たんですがー、そしたら聞き馴染みの声が聞こえてきたものですからー、ご挨拶でもと思いましてー……」


「……そうか。

 ……挨拶ならもう済んだだろう?」


 どうにも苦手なそのハーフエルフに対し、そんな言葉を叩きつける……が、深森は器用にそれを受け流してしまう。


「えぇ、挨拶は済みました。

 ですのでここからは本題に入りたいと思いますー。

 ……依頼! 依頼についてが本題です!!

 犬界さん!! ワタシをダンジョンに連れて行けって、そういう依頼を上様からお受けになったのでしょう?

 だのにどうして、どうして一向にワタシをダンジョンに連れて行ってくれないんですか!!

 ワタシはもう毎日毎日、いつダンジョンに行けるのか、いつになったら調査が出来るのかと、それこそ一日千秋の想いでお待ちしていたというのに、それをいけずな犬界さんは、何日も何日も放置した挙げ句、こんな所で想い人と逢瀬をしているだなんて、それはもう許せません! 許せませんよー!

 だからこうして邪魔しに来た訳ですが、コレに関しては犬界さんの方が悪いので、抗議に関しては受け付けませんよ!」


 凄まじい勢いでそう言った深森は、箸も持たずに素手で重箱の中身をつまもうとするが、それはネイの手にぺしんと叩かれたことにより阻止される。


 少しくらい良いじゃないですかと、そんな視線をネイに送る深森に……深森の怒涛の如くの言葉をどうにか理解した俺は……いちいち反論するのが面倒で短めに、


「そうか、よく分かった。

 分かったからさっさと帰れ」


 との言葉を返す。


 すると深森はこちらを向いて頬いっぱいに空気を溜め込み、それをぶーぶーと吹き出してから語気を強めてくる。


「帰れと言われて帰るくらいならわざわざこんなことを言いに来たりはしませんよー!

 帰って欲しいなら確約です! 確約が欲しいです!

 いついつにダンジョンに連れてってくれると、そう約束してください!

 上様からはあくまで犬界さんの判断を待てと、そう言い付かっていますが! ワタシはそこまで我慢の出来る子じゃないのでー! はっきりとした確約が貰えるまでは駄々をこね続けますよ!」


 大人のそれとは思えない……幕府の職員のそれとは思えない発言をなんとも堂々とした態度で吐き出した深森に、俺は頭痛を覚えながらため息を吐き出し……そうしてから言葉を返す。


「ことが上様からのご依頼だ、無視をするつもりなど最初から無いし、いずれ時が来たら声をかける。

 それまで大人しく待っていれば良いだろう」


「いーやーでーすー!

 いつになるかも分からないのを、今日かな、それとも明日かなってずっと待ってるのは嫌なんですーー!

 せめて日程を、日時を明らかにしてくれないと、焦れて焦れて焦れすぎて焼け焦げちゃいますようー!」


 俺の言葉に対し、そんな訳のわからない事を言って、その場で地団駄をばたばたと踏み始める深森。


 それを見て頭痛を更に強めた俺は……ポチとシャロンの方へと視線をやって二人はどう思うかと、無言のままに尋ねる。


 すると二人は俺に任せるとそう態度で示して来て……大きなため息を吐き出した俺は、深森に言葉を投げつける。


「分かった。

 なら明日だ、明日連れていってやろう。

 ……ただし、ダンジョン内部ではそんな我儘は許さないから覚悟しておけ。

 今回の話を受けたのはあくまで上様の……吉宗様のご依頼であったからだ、お前の我儘を受け入れた訳ではないし、今後も俺にそんな我儘が通用するなんて勘違いをするんじゃねぇぞ」


 そう言って俺は深森を強く……それなりの怒気と殺気を込めた目でもって睨みつけるが、それをさらりと受け流した深森は笑顔になって、


「約束しましたよ! 明日ですねー!」


 との声を残し、用は済んだとばかりにこの場から走り去ってしまう。


 常人であれば腰を抜かしてもおかしくない程の殺気を込めたつもりだったのだがなぁと、その背中を見送りながら考えていると……笑顔で俺と深森のやり取りを見守っていたネイが、ぽつりと聞き捨てならない言葉を漏らす。


「なるほど、狼月って意外と押しに弱いのね。

 ……アタシもあんな風に我儘になってみようかな?」


 そんな言葉を受けて俺は「勘弁してくれ……」とそんな言葉を漏らしてから、重箱へと手を伸ばし、にぎり飯を鷲掴みにして自らの口の中へと放り込むのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回はダンジョン……なのですが、一度クリアしている&ボスを倒しているダンジョンですので、本来のダンジョン回とはまた違った、調査&情報回的な内容となる予定です。


ちなみにですが深森は、あくまでサブキャラですので、メインキャラとしての活躍はしない予定です。

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