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大江戸コボルト【WEB版】  作者: ふーろう/風楼


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第五ダンジョンのドロップアイテム


 何はともあれ確かめたいことは確かめ終わったからと、それからすぐにダンジョンから帰還し、江戸城の客間……異界風の家具が並び、異界風の飾り立てのされた部屋を借りて、そこで消毒やらシャロン特製の塗り薬を使ってのミミズ腫れの治療やらをしていると、吉宗様がやってきて……異界風の椅子、やたらと柔らかいソファとやらにゆったりと腰掛け、笑いながら声を上げる。


「はっはっは、犬界がそこまで痛めつけられたのはいつ以来だったかな。

 一匹の魔物相手にそれとは、相当に苦戦したようだな」


「いや、まぁ……はい、久々に手痛くやられました」


 俺がそう返すと吉宗様はまた笑って……そうしてから目の前のテーブルに置かれたドロップアイテムへと視線をやる。


「そしてこれがそれだけ痛めつけられて手に入れた報酬か。

 ……見たところ、木片と植物の根のように見えるが?」


 そう言って吉宗様が視線をやると、テーブルに両手をかけて、ずいと身を乗り出し、鼻をすんすんと鳴らしていたポチが言葉を返す。


「恐らくですがこちらは、香木の類と、何かの根を干して作った生薬の類かと思われます。

 香木の方は……実際に焼いてみないことにはハッキリしませんが、以前お寺で嗅いだ香木の匂いによく似ているので、恐らくは間違いないと思います。

 生薬の方は……僕にはなんとも言えないです、もしかしたらこちらも香木の類なのかも……」


 するとそんなポチの隣にシャロンがちょこんと顔を出し、ポチと同じように身を乗り出して、鼻をすんすんと鳴らしてから声を上げる。


「んー……確かにこれは生薬っぽいですが、効能に関しては何とも言えないですねぇ。

 そもそもこちらには無い植物のようですから、実際に使って試してみないことにはなんとも……。

 あちらの世界で有名な生薬ならエルダーエルフさんに聞いてみるというのも良いかもしれませんねぇ」


 その言葉を受けて吉宗様が頷き、吉宗様に同行してきた江戸城務めのコボルト達が頷き……そうして吉宗様が声をあげようとした所に、まるで何処かで聞き耳を立てて機会を伺っていたかのような間でもって、何者かが部屋の中に駆け込んでくる。


 そして部屋の中にいる誰もがその顔を見ることなく何者かの正体を察する中、その何者かは元気に呑気な声を上げる。


「はいはいはーーい! ドロップアイテムの鑑定のことならワタクシにおまかせくださーい!

 っていうかもう、植物についてもおまかせくださーい! この深森エンティアン、しっかり鑑定しちゃいますよー!」


 声を上げて誰かの返事を待つことなくテーブルへと駆け寄って、ドロップアイテムに手を伸ばす深森に、吉宗様さえもが何も言わずに呆れ果てる中、木片と根っこを手に持った深森は、小脇に抱えていた本を開き、その中身と交互にそれらを見やり……そうしてから声を上げる。


「えー、こちらはどちらも、異界の冒険で重宝された品々のようですねー。

 まず木片の方はお察しの通り香木なのですが、ただの香木ではなくてですね、魔物避けの香木、とのことですー。

 こちらを焚けばありとあらゆる魔物が近寄ってこなくなるとか。

 そして根っこの方はお察しの通りお薬で……こちらにはない風土病の治療薬のようですねー。

 ……わぁ、どっちも無意味で笑っちゃいますねー」


 と、そんな深森の言葉を受けて何人かのコボルト達が肩を落とすが……深森のどちらも無意味との意見には素直に頷けず、首を傾げることになった他の面々を代表する形で、俺が深森へと言葉を返す。


「風土病の治療薬はまぁ確かに無意味なのかもしれねぇが、魔物避けの方はそうとも言えねぇだろう?

 ダンジョンの中でなら色々と使い道がありそうなもんだが……」


「それはまぁ、普通の魔物相手ならそうなんでしょうけどー……ダンジョン内の魔物って、普通の魔物ではない訳じゃないですかー?

 普通の生物ですらないっていうか、食事とか睡眠とか、そういう活動もしていないダンジョンの番人な訳じゃないですかー?

 ……効きますかね? 魔物避けー」


「いや、毒が効くんだから……効くはず……だろ?

 ……シャロン、どう思う?」


 深森との会話の中でそう話を振るとシャロンは、悩むこともなくさっぱりとした顔であっさりとした答えを返してくる。


「そんなの試してみないことには分かりませんっ!」


「……いや、まぁ、そりゃそうなんだろうが、そんなきっぱりと言い切るかね?」


 そう俺が返すとシャロンは、


「はい! 確かな実験と検証をしてこその医学薬学ですから! 

 本という過去の知識はたしかに大事ですけど、それだけを頼りに結論を出すようなことはしません!

 ついでに言わせていただきますと、そちらの風土病の治療薬も本当に無意味かは試してみないことには分かりません!

 ある病に効く薬が他の病にも効くというのはままあることですので、何らかの病を治せる薬なのであれば、実験をしてみる価値はあると思います!

 ……まぁ、たったそれだけの量ですと、出来ることも限られてしまいますので、実用出来るまでに持っていくには、かなりの量を集めないといけませんね」


 と、そう言ってその真っ白い尻尾をゆらゆらと揺らす。


 喜んでいるというよりは薬師としての好奇心で胸が弾んでいるといったような様子で、そんなシャロンを見て微笑んだ吉宗様が軽く手を叩き「よし」とそう言ってから声を上げる。


「今まであのダンジョンを調査していたエルフ達は、恐らく深森と同じような考えでもって同じような結論を出していたのだろう……ドロップアイテムの薬効等の検証などはほとんどされておらず、廃棄するのが常であったようだ。

 だがラインフォルトの言う通り、何らかの利用価値があるかもしれないというのなら、試してみる価値はあるだろう。

 今の所効能は未知ということでそこまでの高値はつけられんが、それでも異界の品だ、相応の価格で買い上げるから……積極的に集めてくると良い。

 もし確かな薬効が確認されて、高い利用価値があるとなれば当然相応の報奨金も出そう。

 以前よりも状況が良くなったとはいえ、世の中にはまだまだ治せぬ病が多い……この生薬が新たな活路を見出すきっかけになってくれることを願うばかりだ」


 場をまとめるにふさわしい立場の方から、ふさわしい言葉が出てきて、空気がいい感じに引き締まり、吉宗様の言葉に異論もないとあって一同が同時にこくりと頷く。


 すると吉宗様もこくりと頷いて……そうして吉宗様は俺の方へと視線を向けてきて、じぃっと見やってから「ぶはっ」と吹き出してしまうのだった……。



お読みいただきありがとうございました。

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