第250話 龍ゾン寺ライブ配信・舞台裏
龍ゾン寺家。
常に黒雲に閉ざされ、ピンク色の雷が降り注ぎ続けるこの不毛の地。そこにそびえる魔界塔てっぺんに存在する配信スペースで、龍ゾン寺家当主のくまが、暗殺者を相手に嘆いていた。
「なんか九十九州じゅうからめっちゃ敵視されてるんだけど!!!」
ヘイト、すごい。
龍ゾン寺はサメのようなギザ歯をガチガチ言わせながら、暗殺者Pに詰め寄った。
「ねぇ知ってる!? 大友と島津が同時にこっちに攻め入ってるんだけど!? どうすんのこの状況!? なんか頭良さそうな戦略はどうなったの!?」
「九十九州三分の計ですな」
「そう! それ! 三分どころか一丸じゃん! 向かってくる先がウチじゃん!」
「それはまあ、龍ゾン寺家ということが分かる形でいろいろな場所に嫌がらせをしましたからなあ。しかも、鐘が鳴ったあとを狙って。それはもちろん、すべての家から敵視されるかと」
「なんでそんなことすんの!? もうぞんちゃん、二度と滅びたくないんだけど!」
そこで暗殺者は「ほっほっほ」と笑い、
「──いやあ、いいリアクションでございますなあ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?!?!?!?!?!? このままだと『九十九州、九州にしてみた』どころじゃないんだけど!? 龍ゾン寺家の滅びがライブ中継されちゃうよ! 滅Liveだよ!」
「では、わたくしからご説明いたしましょう。『九十九州三分の計』の真相」
「……」
「嘘です」
「…………………………なんて?」
「実は、『九十九州三分の計』という計略は、ございません。すべて、嘘です」
「…………なんで?」
「信じてくださいましたか? だからこそ、騙しがいがございます」
「えーっと話がちょっと難しくて、ぞんちゃんわかんないかも……つまり、何? アサP、ぞんちゃんのこと騙したの?」
「はい」
「清々しい声! ええ!? 騙したの!? ぞんちゃんを!? ぞんちゃんこれでも九十九州の一大勢力の長なんだけど!? 命いらない系のP!?」
「いえいえ、誰しも命は惜しい。むしろ、九十九州において、わたくしこそが、二番目に己の命に執着していると言えるでしょう。そして、一番目はあなたです」
「………………つまり何?」
「まず、計略をライブ配信するというのが論外な振る舞いでございますから、これを利用いたしました」
「…………???」
「普通に傍受可能な配信に家の計略を乗せるというのは、わたくしには理解し難いことでございます。なので、せっかくですから、嘘の計略を配信させていただいたのです」
「なんで?」
「敵を欺くには、まず、味方から──という言葉があるそうですよ」
「へー」
「そうして、配信した計略と真逆のことを行いました。各地にわたくしの兵を放ち、龍ゾン寺家に恨み、怒りが集まるようにし、すべての勢力の目が龍ゾン寺家に向くように調整したのです」
「それでそれで? ここからぞんちゃんはどうやって勝つの?」
「無理ですな」
「『無理ですな』!?!?!?!?!?!?」
「あなたは、滅びます。今度こそ、完全に」
「え!? じゃあアサPは何がしたいの!? ぞんちゃんを殺す気なの!?」
「いえいえ。わたくしが狙う相手は、あなたではございません。あなたはおまけ、ついででございます。巻き込まれた哀れな被害者と申し上げてもいいかもしれません。ご愁傷様です」
「あ、どうもご丁寧に──じゃ、なーい! じゃないでしょ!? どうして!? どうしてそんな酷いことするの!? ぞんちゃんでもためらう外道行為されてる気がするんだけど!?」
「まあ起きてしまったことは仕方がないとして……」
「それを起こしたアサPが言うのは絶対違うと思う!」
「こうまであなたを攻め滅ぼす気風が高まれば、あなたは生き延びるために必死に戦うでしょう?」
「そりゃそうでしょ!?」
「龍ゾン寺家が精強だという言葉は嘘ではございません。ゾンビ、サメ、ゾンビサメ。無限に蘇生し無限に湧くゾンビと、何をしてくるかわからないサメの遊撃。この二つが合わさった龍ゾン寺家は、防衛戦においては九十九州最強でしょう。あなたが必死で戦えば、生き残れる可能性はございます」
「ねぇ! つまりなんなの!? アサPは何がしたいの!?」
そこで、暗殺者は緑の鷲鼻を手袋越しに撫でた。
「……我々の種族は、数が多いと言っても人間族ほどではなく、強くもない。生き延びるためには、計略を用いるしかなかったのです」
かつん、かつん。
魔界塔の屋上を、よく磨かれた革靴で足音を立てながら歩く。
「ですから、媚びへつらいました。取り入りました。信用を得るために、あらゆるきついこと、汚いこと、苦しいことを行い──社会の底辺として、浸透をしたのです」
小さな丸いメガネを押し上げながら、子供のような背丈の老人は語る。
「ですが、それは、我らが信念や反抗心を失ったというわけではなく──仁義を見下し、唾を吐く生物になったことを意味しません」
「だからあ! なんなの!? ぞんちゃん、難しい話、イヤなんだけど!?」
「我が忠義は、我が真なる主人のためにのみある。それ以外のすべてから唾棄され、蔑まれ、裏切り者と罵られようとも、すべては我らが勇者のために」
──その種族。
数の多さと、徒党を組むことが特徴と言われていた。
だが、その『数の多さ』も、『徒党を組むこと』も、人間族には遠く及ばなかった。
では賢いのか?
……賢くもなかった。
では、強いのか?
……強くもなかった。
その種族──
クサナギ大陸において鬼と呼ばれる種族の、原種。
子供のような背丈の。
緑色の皮膚の。
鷲鼻の。
老いなくとも老人のような顔をした、額にほんの小さな角の生えた種族──
──子鬼と異世界において称される、種族。
器用では、あったのだろう。
だが、その器用さは生存のために必要だったから、後天的に磨かざるを得ないものだった。
弱い者が、自分より強い者たちと、どうしようもなく敵対しなければいけないという状況で、賢くもなく、多くもなく、強くもない彼らは、器用になるしかなかった。
人が兵器と銃器でその他動物を凌駕するように、彼らは卑劣と器用さと、他種族の心理を把握する技術を鍛え上げ、伝承した。
「『つまりなんなの』と問いかけられましたな。お答えしましょう。わたくしの目的は、九十九州にすべての視線を集めることでございます。あなたは、そのための生贄です」
「んなぁ……!?」
「ただし、最後の最後まで、あなたのお傍で采配を振るいましょう。あなたが生きるのをあきらめぬよう。抵抗を必死で行うよう。より長く、より多くの目を、あなたに向けるために。ひいては、クサナギ大陸中の注目さえ、あなたに向くように。……さあ、ぞんちゃん様。最高に目立つ『生きざま』を致しましょう。世界があなたに注目する。わたくしはあなたに忠誠など抱いておりませんが、あなたのために命を懸けて、あなたを最高に目立たせる覚悟だけはございます」
黒い革手袋のはまった手が、差し出される。
龍ゾン寺はその手袋と、暗殺者の顔を交互に見て──
「ぞんちゃん難しいことわかんない。脳味噌半分腐ってるから」
「……」
「でも、『最高に目立つライブをしよう』っていうのはわかったよ」
青と灰色の皮膚がツギハギにされた手が、暗殺者の手を掴んだ。
「ぞんちゃんは生き延びる。生き延びてやる。うおー! アサP、ほんとムカつく! なんか悪いことにぞんちゃん巻き込みやがって! 最後までぞんちゃんを最高に目立たせなかったらお前から喰っちゃうからな!?」
「それは恐ろしい。わたくしは、生に執着がございます。……いえ、わたくしども弱小種族は──生まれつき天敵まみれの世界に産み落とされる我らのような者は、生き延びることに必死ゆえに、必死にあがいて維持してきた命を大事にするのです」
「話が難しい!」
「死ぬような状況を作ったのはわたくしですが、全力で生き延びましょう」
「わっはっはっは! そういうことなら任せろ!」
龍ゾン寺と暗殺者が互いに手を取り合う。
ここに改めて、一つの主従が誕生した。




