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第247話 島津四姉妹

 島津(しまづ)家──


 それは九十九州南方ジャングルの奥地にある半獣人独立統治国家である。


 世界の真実を知る視点から語るのであれば、島津家の半獣人は『獣人と人間の間の子』ではなく、『異世界において獣人と呼ばれていた種族』ということになるので、本当は半獣人とはまた違う生き物なのだけれど……


 ジャングルの中にそびえたつ、葉の広い木々の間に建つものこそが、島津家居城。

 木々を用いて作られたその城は一見すると非文化的な秘境の集落にも見えるが、その実、火に強く丈夫という九十九州南部の木々の特徴をそのまま活かしながら、独特の組み上げ技法によって強度を上げつつ長所をより活かし、さらに立地も計算された、精密なる『戦う大名のための城』であった。


 また、九十九州独特の様式というのか、どこかしらの異界に由来する調度品が並ぶ内装を見れば、帝内地域で目の肥えた者も──否、帝内地域でクサナギ大陸文明の上澄みを味わっている者こそ、この独特な雰囲気に目をきらびやかせるに違いなかった。

 全体的に原色系でカラフルなのだ。特に床を飾る色とりどりの織物などは、『島津織』という名で帝内地域にも輸入されている──当然ながら戦争をしている九十九州を抜けて輸入に来なければならないので、輸送費や危険手当込みで商品の値段が馬鹿高くなるにもかかわらず、一定の需要があるという、そういうものであった。


 そのような場所に住まう島津家の特徴を一言で言うと、『ネコミミビキニアーマー集団』である。


 正確には虎耳になる。

 島津家の、特に四姉妹は白黒縞模様のビキニを身に着けた、白黒まだらの髪の、白黒まだらの瞳の、年若い四姉妹であった。


 着ている物はそれぞれの個性において装甲の面積や細かなデザインが異なるものの、すべてビキニでアーマーである。

 なおビキニとは言うがどうにも動物の毛皮製のようで、水泳の時に使用出来る素材かどうかはわからない。


 そういうわけで氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)は、白黒虎柄のビキニを身に着けた四姉妹と対面していた。


「ねーちゃんたちを紹介するぜ! そっちの二つ結びが三女のトシヒサねーちゃん! いっつも怒ってる!」

「いつも怒ってはいないわよ! 馬鹿じゃないの!?」


 一言で言うとツインテールのツンデレだ。


「そっちの一つ結びが次女のヨシヒロねーちゃん! いっつも無口で不機嫌!」

「……無口で不機嫌なのではない。語るべき時にしか言葉を語らぬだけだ」


 一言で言うとポニーテールの武士女である。


「そんで長女のヨシヒサねーちゃん! いっつも笑ってるけど一番怖い」

「イエヒサちゃん、あとでお説教ですよ~」


 肩の横で垂らした一つ結び、いわゆる『死ぬ母親の髪型』をしたゆるふわ系である。


「そんで、あたしがイエヒサ! 元気で頑丈だ!」


「いっつも迷子になってるっていう自己紹介が抜けてるわよ」

「……言動がかなり悪い意味で適当だという自己紹介も抜けておるな」

「イエヒサちゃん、あとで今日の分のお勉強をしますからね~」


「わはははは! 助けて!」


 イエヒサが元気に助けを求めていた。


 梅雪は──


国崩(えくす)龍ゾン寺ゾンビドラゴン・テンプルと立て続けに情報を流し込まれたせいで、島津四姉妹は何かこう……『適切』だな……)


 ひと昔前のギャルゲーメソッドの四姉妹である(※剣桜鬼譚(けんおうきたん)がすでにひと昔前のゲームなので、さらにその前という意味)。

 ただし毎日のように戦争しているし、着ているものはビキニアーマーだ。


 島津家居城の食堂に招かれた梅雪らは、木の上に何かの革を張った撥水性のある円卓に着いていた。

 なおこの円卓は東西南北に位置する場所に島津四姉妹がそれぞれ着くので、梅雪一党はそれぞれが姉妹の誰かと誰かの間に挟まれる感じで配置されていた。


 一応上座方面に梅雪は座っているのだが、どうにも島津家には上座だの下座だのいう概念がないようで、普通に長女が下座にあたる場所にいる。

 そういう席次の都合上、梅雪は三女トシヒサの隣に座らされていた。


 そして……


(このツインテールのツンデレ、なぜかこちらをさっきからチラチラ見ているな……)


 白黒虎柄ビキニアーマーの白黒まだら髪のツインテールのツンデレ(三女)がさっきから梅雪に視線を向けて来る。

 なんだろうこの、『気になるから話しかけたいけれど、話しかける話題が思いつかないので視線で「お前から来い」と訴えかける』感じは。


 梅雪は、考える。


(……なぜだろう、九十九州人の行動に対して、感情が湧かない……)


 普段の自分であれば、こういう態度にイラつきそうな気もするのだが、今日はすでに色々濃かったせいか、『あ、見られてるな』程度の感想しか抱けない。

 ウメがこの場にいれば面倒なので対応を投げるところなのだが、ウメは島津の台所で料理などしているため、ここにはいない。ちなみに席はイエヒサの隣を確保されている。


 はるなども長女と次女に挟まれて何かの話に花を咲かせている。剣桜鬼譚正史において姫騎士と女武士の間ぐらいの性格になるはるは、次女ヨシヒロと性格的に相性がいいのか、寡黙キャラのくせに発言の頭にちょっと間を置くだけでめちゃくちゃしゃべるヨシヒロとの会話に花を咲かせていた。


 梅雪は今後のことを考える。


(俺たち氷邑一党だけでジャングルを抜け、龍ゾン寺の治める領地を抜け、ニニギの迷宮に入ること──恐らく、不可能だ)


 九十九州の戦争を体験しての感想が、こうだった。

 今日は神喰(かっくらい)後の倦怠感があったせいで実力を十全に発揮出来なかったという事実はあるにせよ、それを差し引いて考えても、九十九州人は全体的にタフである。

 加えて言えば、やはり九十九州の戦争は梅雪には合わない。スポーツの一種とか、日常の一コマとかで、なんとなく戦争をしている連中には戦いに懸ける誓いだの、戦いに挑む特別な動機などがなく、尊厳凌辱と煽り返しがやりにくいのだ。

 土下座には質というものがある。ぽんぽこパークで蹴散らした川の上流にやたらと出て来る連中の土下座になんの価値もなかったように、九十九州の連中を負かして足蹴にして土下座させても、『なんか違うんだよなあ……』という印象になることが推測出来た。


 なので梅雪は、自分がこの地での『普通の戦争』に対して、心の底からは本気になれないことを察する。


 ではどのようにしてニニギ迷宮まで行くかと言えば、それは、勢力に協力してもらうという方法だ。


 どうにも島津視点でも龍ゾン寺は『鐘が鳴ったら帰ろうルールを無視する連中』ということなので、戦争を仕掛ける動機はすでにあるはずだ。であるならば、島津を後ろ盾にして、ニニギの迷宮までの道を空けさせ、そこを通って迷宮に挑むのが良かろうとは思う。


(……だから、なるべく協力的な態度をとるべきだというのもわかるのだが……なんだろうこの倦怠感は。神喰の後である、というだけが理由とは思えんな。……イラつきか)


 イラつき、つまり精神が乱れ、疲弊していると、それは爆発して外部に向かう場合もあるが、ある程度を超えると、途端に『無気力』に転化する。

 梅雪を襲っているこの精神的な気怠さもその一種であり、まあこういうのは若いので寝てしまえば治るのだが……


(……大友国崩。この俺を……『わたくしの息子も同然』と抜かしたか)


 どう考えても、引っかかり、イラついているのは、『そこ』だ。

 ……恥ずかしいこと、という自覚はあるのだけれど。


(孫扱いはなんとなく許容してしまったが、息子扱いは……しかも、知らん女に息子扱いされるのは、どうにも、気障りだな)


 氷邑梅雪の母である椿(つばき)は、梅雪がまだ物心つく前に病で亡くなっている──らしい。

 その『病』の詳しいところは、毛利モトナリからは話された。

 だが、父からはまだ聞けていない。父と、母に関する話はまだ出来ていないのだ。


 それは遠慮だの、『忙しくて聞く時間がない』だの、そういう問題ではなかった。


 梅雪自身、まだ母の死を受け入れられていないのだ。


 母が死亡してからもう、十年は経っているはずだった。

 思い出も何もない。顔さえ浮かばない、そういう母だ。

 だが、氷邑梅雪は確かに、『母親』というものに一種の幻想を抱いていた。


 大友国崩の発言は、その大事な幻想に無遠慮に土足で踏み込むものだった。

 だからああも苛立ったのだ──自己分析は、終了している。


 ……終了していても、受け入れられるというわけではなかった。


(だが、今後、ああいう挑発方法が、俺に効くことがわかってしまった。……怒りは制御すべきものだ。制御出来ぬ怒りが、原因が明確なのに放置されている──これはあからさまに弱点だ。放置出来ん)


 で、具体的にはどうする? というところに話が戻って来るわけだ。

 どうにもならない。……自分の中で、『母』を終わらせ、その死を受け入れるしかないのだが、とうに死んで何年も経っている、顔も知らない母の死など、逆にどう受け入れていいのかがわからない。

 その欠点を、大友国崩の言葉は、浮き彫りにしたのだ。


「ねえ」


 梅雪が思考に沈んでいると、横から声をかけられた。

 島津家三女のトシヒサだ。


 ツインテールのツンデレは、『ねえ』と声をかけてきておいて、しばらく視線を逸らして黙り込んでから、


「アンタがウメちゃんの言ってた『梅雪』でしょ」

「……そうですね」


 一応『よその家の姫』への対応を梅雪は選んだ。


「な、なんか、思ったのと違うっていうか──ウメちゃんの話だと、もっとガキっぽい男かと思ってたんだけど、落ち着いてるわね。……ふ、ふん、やるじゃない……」


(どういう褒め方なのだろう……)


 ツンデレの対応、面倒くせーな、というのが早くも梅雪の脳裏によぎる。


「あ、あたしはトシヒサよ。イエヒサから紹介されたけど、あいつ馬鹿だから、なんかこう……あ、改めて、名乗ってあげる!」

「そうですか。私は氷邑家当主、梅雪です。このたびは快く城への逗留を認めてくださったこと、改めてお礼を申し上げます。現状、お返し出来るものもありませんが……」

「っぐ、べ、別にいいわよ……あたしの城っていうか、トヨヒサ姉さんの城だし……」

「そうですね。トヨヒサ殿に改めてお礼を……」

「そ、それより! ねぇ、あたしと話すわよ!」

「何を?」

「…………」

「………………」

「……………………」

「……あの、トシヒサ殿──」

「そんな急に話題が思いつくわけないでしょ!? 馬鹿じゃないの!?」


 それはまあそうなんだが、お前から『話そう』と言ってきてそれはどうなんだ、という話である。


(なるほど、ツンデレか……)


 ツンデレっていうか、いっぱいいっぱいな人だ。

 歴史上、ツンデレというのは基本的に、いっぱいいっぱいで言動がおかしくなっている状態の女子を指すので、間違ってはいない。

 ツンデレの本質が暴力性にあると勘違いされていた時代もあったが、本来、ツンデレというのは、『構って欲しいけどプライドが高くて構ってと素直に言えないし、目の前にいるだけで頭に血が上って変なことばっか言っちゃうけど、その変な言動全部が好意の裏返しであることがわかる女の子が、自分の目の前でいっぱいいっぱいな言動をして、あとで影で反省してヘコむ』という状態のことを指すのである。


 つまりトシヒサは常にいっぱいいっぱいだ。


 梅雪は仕方ないなと笑って、話題を振ってやることにした。


「龍ゾン寺の『黒い兵』について、また、新しく起用された軍師について──という話題は、あまりにも色気がなさすぎるでしょうか?」

「色気!? 色気なんかいらないわよ! 馬鹿じゃないの!?」

「では、そのように。……あの黒い兵については、私からも出せる情報があります」

「あいつらね」トシヒサの目が冷静になる。「『鐘が鳴ったらかーえろの法則』を無視するし、気付いたらどこにでも湧いてくるし、本当に厄介な連中だわ。まあ、龍ゾン寺ってそもそも、殺し合いのマナーがなってないヤツなんだけど……軍師起用後は特に酷いわね。何か、心当たりがあるんだっけ?」

「あれは『死国(しこく)』に封じられている妖魔の神威です。かの妖魔は、己が殺した者を神威で再現し、兵力にします。その一種であることは間違いないのですが……」

「……何か違和感があるのね?」

「ええ。弱すぎる。……いえ、弱すぎるというのは、少し違うかもしれません」


 梅雪は、先ほど蹴散らした黒い兵たちの様子をつぶさに思い出す。

 そして、表現を見つけた。


「やる気がなさすぎる」

「……」

「形だけ戦ってはいるけれど、目的は『戦っているフリをしつつ、負けて蹴散らされること』というような……そういった感覚を覚えました」

「支持するわ。あたしも同じ印象を抱いたもの。……だからこそムカつくのよね。真剣でもない、でも、戦ってると横入りして邪魔してくるし、鐘が鳴ったあとにも攻撃を仕掛けてくるし……本当に意図がわかんないのよ。強いて言えば……」

「……」

「こっちをイラつかせて、ヘイトを集めることが目的──何かの布石、かしら」


 梅雪は思わず「ほう」と声を漏らした。


(そういえばトシヒサは、島津四姉妹の戦術担当だったな)


 ツンデレなので日常会話ではいっぱいいっぱいなのだが、戦闘に関する思考能力・思考速度は高そうだ。

 まあ九十九州人なので、その思考能力は戦いにしか活かされないし、最終的には突撃するのだけれど……


 トシヒサは考え込むようにツインテールの片側を手で梳きながら、


「龍ゾン寺そのものの動きを見るに、本隊には驚くほど動きがないのよね。でも、龍ゾン寺のものっぽい黒い兵はそこらじゅう──それこそ、九十九州じゅうにぽつぽつ出て来るのよ。でも、そんなことをしたら、各地で龍ゾン寺への敵意が盛り上がって、九十九州じゅうから敵視される。普通に考えて、その状態は好ましいわけがない」

「自分の領地に誘い込めば、九十九州すべての戦力を相手取っても勝てる──と考えている可能性は?」

「ないわね。……まあ当主は馬鹿だけど、軍師はそこまで馬鹿にも思えないわ」

「見たことが?」

「龍ゾン寺本隊を釣り出して襲撃したことがあるのよ。軍師とは直接会わなかったけど、あのサメゾンビどもの動きはどう考えても『馬鹿の用兵』じゃなかったわ。軍師には考える力と、龍ゾン寺兵を従える権威がある。これは間違いない」

「戦略において当主が暴走している可能性」

「……ないとは言わないけど……龍ゾン寺は馬鹿だけど、自分の馬鹿を自覚出来るし、それを売りに出来る馬鹿なのよ」

「厄介な」

「ええ、本当にそう。それに恥知らずだから、たぶん、全軍の指揮権どころか、戦略も軍師に丸投げしてると思うわ。その状態で口だけ出すのは、龍ゾン寺の性格としては違和感があるわね」

「ということは……」

「情報が足りないわ。今は考察のための欠片が足りない。そして、情報が足りない時にすべきことは一つ」

「斥候を放つ」

「は? どういうこと?」

「情報を集めるために斥候を放つのは常道では?」

「そんなことするより、直接襲撃して確かめた方が早いじゃない」


 そういえばここは九十九州だったな、と梅雪は思い出した。

 この連中は『とりあえず、戦争!』というノリなのだ。


「決めたわ梅雪。明日、あたしと戦争に行きましょう」

「……そうですね。私も情報が欲しい。〝九十九州流〟にやってみますか」


 国崩に感情を刺激されてからというもの、ぐずぐず考え込んでばかりだった。

 これはプールでもあった状態だが、どうにも自分は、精神が弱ると考えこんでしまい、『迷わず行動する』という選択肢がとりにくくなるものと自覚する。


 ならば、『とりあえず、戦争!』というのもいいかもしれない。


「ねーちゃん! 梅雪と明日出かけるのか!? デートか!?」


 いつの間にか梅雪の真横ににじり寄っていたイエヒサが、急に話に割り込んできた。

 三女トシヒサはしばらくきょとんとしていたが……

 急に『ぼんっ』と顔を赤くして、わなわな震え、


「で、でででででで、でーとぉ!? でーとなわけないでしょ!? 馬鹿じゃないの!? っていうか──馬鹿じゃないの!?」

「ねーちゃんが照れてる!」

「てれてれててててれてててたてってててて……」

「ねーちゃんが壊れた……」

「イエヒサ! そこに直れ!」

「ねーちゃんが暴力振るってくる!」


 イエヒサが楽しそうに逃げて、トシヒサがそれを追いかける。

 姉妹の仲の良いケンカを梅雪は見て、


(……九十九州、自由だな)


 遠い目をして、疲れた笑顔を浮かべていた。

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