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第241話 九十九州の現状

 カステラと紅茶が目の前にあった。

 硝子(びいどろ)で出来たテーブルの上に並ぶお菓子。ここは東屋(ガゼボ)であり、九十九州の強い昼の日差しをやわらげ、涼しい影を氷邑(ひむら)梅雪(ばいせつ)の頭上に落としていた。


 大友(おおとも)家領主屋敷──

 というより、城。


 なんでもこの城、もとは国崩(えくす)とともに異世界転移してきた公爵邸らしい。

 国崩は異世界追放された偽聖女認定された真の聖女にして悪役令嬢なのだが、その身分はもともと公爵であり、王太子殿下の婚約者でもあった。

 しかし十一歳のある日、唐突な婚約破棄に遭う。

 そこで王太子殿下をボコボコにした国崩はいわれなき罪を着せられて投獄──させられそうになったところを、兄を始めとした家族の助けがあって異世界に逃亡することに成功。


『いいか国崩、お前にこの国は狭すぎる。己の国を()れェ!』


 父の言葉を胸に刻み、国崩は誰もいないこのクサナギ大陸で国を獲ることにしたのだった……


 その時に父に『異界に行くなら持っておけ』と投げ渡されたのがこの城であるそうだ。


(情報が増えるたびに濃くて喉をうまく通らん……)


 カステラも心なしかもったりして胃もたれしそうに感じる。


「というわけで、わたくしはお父様のお言葉に従い、九十九州の地で多くの国を()り続けているわけなのです」

「……そうか」


 国崩の人柄は良くも悪くも毒気を抜くものであった。

 あと、神喰の直後なので突っかかる気力がないというのもある。


 梅雪の神喰は幾度も使ううちに事後の気怠さもマシになってきているし、先ごろの砂賊糾合事変において神喰中((さくら)の影)に神喰(桜の攻撃)をし、その最中にもまた神喰(梨太郎(なしたろう)殲滅奥義(リーサル))をするという運用をしたせいか、かなり経験値も上がった。

 以前は神喰終了後には立っているのがやっと、左腕──自前の腕は剣聖に斬られたので、神威により形成しているもの──も維持できないというありさまだったが……

 今はこうして、席についてお茶会程度なら出来るようにはなっている。


 だが疲れているのは疲れているので、大友国崩関連の情報をうまく咀嚼出来ない。


(九十九州、実力云々の前に、来歴が濃いキャラが多すぎて不安になってくるな……)


 九十九州勢の中で最も薄いのが島津(しまづ)四姉妹というあたりで、平均値の高さが伺える。

 しかしゲーム剣桜鬼譚(けんおうきたん)では確かに島津四姉妹はかわいいケモミミの四姉妹でしかないのだが、『薄い』という扱いだった毛利モトナリがあの祖母感だったので、実際に生きてみると意外なところから濃いものがどろりと登場する可能性もあり、戦いの前とかそういう話ではないたぐいの不安が過ぎるのはどうしようもなかった。


「ところで国崩嬢、我々はニニギの迷宮を探索に来たのだが」


 梅雪がげんなりしているのを見かねたのか、銀雪(ぎんせつ)が話を進めにかかっていた。

 なお、なぜか銀雪の席は国崩の真横に用意されているので、梅雪一人で銀雪、国崩と向かい合う三者面談みたいな席次になっている。


 というのも国崩、銀雪に求婚しているのだ。

 そして国崩はあきらめの悪いお嬢様なので、銀雪がどれほど断ってもあきらめる気配がない。


 九十九州勢、全体的に『何を言っても無駄』な感じのする、我が道を行く連中が多すぎる。


「ニニギの迷宮に向かう、という目的は理解しております。……しかし、今、それを行うのは難しいと申し上げねばなりません」


 優雅に紅茶をすする(デカいお嬢様なのでティーカップがミニチュアサイズに見える)国崩は、憂いるように長いまつ毛を伏せた。

 銀雪は不思議そうに「おや」と声を発する。


「あの時、私とともにニニギまでの道を大友家の領土にしたと思ったが……」

「初めての共同作業の時でございますね」

「表現方法には『遺憾だ』と表明しておくよ」

「確かに銀雪様のお力もあり、我が大友家は九十九州北部をすっかり支配地域といたしました。しかし……今、九十九州北西部は大友の支配地域ではなくなってしまったのです」

「君が領土を奪われたと?」

「……ええ、誠に汗顔の至りではございますけれど、そうなのです」

「何があった?」


 銀雪は国崩の実力を高く評価しているようで、大友家が領土をとられた理由を『国崩が弱かった』ではなく、『何かイレギュラーが起こった』と判断しているようだった。

 そしてその判断は正しい──ゲーム知識を持つ梅雪は、それがわかる。


 現実で言うと佐賀の方面には、アレが出るのだ。


 国崩は、キッと視線を強めて、答えた。


「サメとゾンビが出ました」

「………………なんだって?」

「サメとゾンビです。サメというのはご存じでしょうか? あの、凶悪な……」

「まあ、知っているが……」

「空を飛び……」

「知らないもののようだ」

「竜巻になったり、幽霊になったり、そういう生物なのです。もちろん、水の中でも行動が可能です」

「すまないが、何が起きたのかわからない。順序だてて説明してくれると助かる」


 九十九州の情報量に父までやられ始めている。

 疲れ果てた梅雪は父の困惑を収める手助けをしてやれない。


 国崩は真っ直ぐに銀雪を見つめ、


「まず、龍造寺(ドラゴニックテンプル)家というものがありました。我らはこれを亡ぼしたのですが……突如、復活したのです」

「……」

「しかも、魔界塔の力を用い──ゾンビ、龍ゾン寺ドラゴンゾンビ・テンプル家として!」

「すまない、それが順序だてた説明なのかな?」


 銀雪は相変わらず困惑している、が──


 実際、そうとしか言えないのだ。


 ゲーム剣桜鬼譚において、開始前に滅亡していたドラゴニックテンプル家。

 だがしかし、ゲームが進むと、魔界塔の力を用いて復活し、唐突に九十九州の北西部を支配するのだ。


 そうして新生したドラゴニックテンプル家こそが、龍ゾン寺。

 現実日本で言えば佐賀あたりを支配する、魔界の者どもなのである。


 その龍ゾン寺家がどういう連中かと言えば──

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