第238話 九十九州の洗礼
今日から本編再開です。
なお、カクヨム版にそろそろ追いつくので、投稿ペースもだんだんカクヨム準拠(3日に1回)になっていくと思います。
よろしくお願いします。
大戦乱孤島九十九州──
稀人入管センターを抜けた先に広がるのは、火山とジャングル、そして戦争に彩られた大地だった。
氷邑梅雪は九十九州と本州を結ぶ、細い、石で出来た橋の上から、これから行く先を見た。
パッと見たところで、さすがに広すぎる九十九州全土を見渡せるわけではない。視界にあるのは、街道と言うには少々違う──開発によって拓かれた道ではなく、軍が踏み均し、大規模な攻撃が拓いた、そういう『戦争によって出来た道』だった。
「梅雪」
一歩、その『道』へ踏み出そうとした瞬間、後ろから声をかけられた。
振り返ればそこにいたのは、長身の、一見すれば線の細いように見える男──だが、その肉体が真に均整がとれたものであるため細く見えるだけで、近付けばその腕や脚についた筋肉の太さはかなりのものであることがわかる、そういう……剣士だった。
父・銀雪。
このたび九十九州にある『ニニギの迷宮』にともに向かうパーティメンバーのうち一人である。
腰に差しているのは氷邑家重代宝刀『銀舞志奈津』。もちろん今は鞘込めされているが、抜き放てはうっすらと冷気を帯びて青白く輝く刀身が特徴的な、長刀である。
言うまでもなく家宝であり、実のところ、普段使いする刀ではない。
だが、銀雪はそのあまりの剛力ゆえにまともに振れる刀がこれしかないという都合上、戦う時には必ず銀舞志奈津を帯びている。
いつか梅雪が、父を実力で負かして奪い取るまで、その刀は父の腰を飾っていることだろう。
不自然になりすぎない程度に鮮やかな薄い水色の着流しを身に着け、腰帯から旅の荷物を提げた父は、一歩進んで梅雪の隣に並んだ。
「ここから先、一歩でも進めば、来る」
何が来るかといえば、ゲーム剣桜鬼譚において、こう呼ばれる現象が来る。
『こんにち国崩カリバー』。
九十九州の入り口付近は大友家の領土であり、その当主の大友国崩という女がいる。
この女は九十九州入りする者を感知すると、とりあえず国崩カリバーという必殺技──莫大な神威量を勢いに任せて叩きつけるビーム攻撃を放ってくるのだ。
そうして生き残れた者をスカウトする。これが異世界に追放された悪役令嬢にして真の聖女、身長190cmを誇る筋骨隆々のお嬢様、大友国崩というふざけた女の活動であった。
(プロフィールだけで胸やけする女だ)
梅雪は大友国崩と出会ってもいないのに、もうお腹いっぱいになりかけていた。
……が、目的のニニギ迷宮はこの先にあるのだ。
現実の九州で言えば佐賀の向こう側、長崎の入り口ぐらいの位置に、ニニギ迷宮はあるらしい。
長崎と言えば出島なのだが、やはりこのクサナギ大陸にも出島と呼ばれる場所はある。もちろん、ただの外国との貿易口なわけはなく──というか『外国との貿易口』なるものは存在しないが──魑魅魍魎の跋扈する半異界である。
しかも色々な異界がそこら中にあり、それぞれが自治区を形成しているという、異界のちゃんぽん状態の場所だ。
もちろん佐賀あたりも尋常ではない。
魔界塔と呼ばれる魔界(触手の世界)の建造物があったり、ゾンビが跋扈する国だったりとやりたい放題だ。
そもそもにして九十九州が『クサナギ大陸に流れ着いた異界の者たちがひたすら戦争を繰り返している土地』なので、九十九州そのものが剣桜鬼譚のキャラクターには異界扱いされていたりもするのだが……
それら異界の猛者どもは、稀人入管センターから東へは行けないので、ひたすら九十九州で戦っているという事情もある。
(……とはいえ、実のところ、『異界絶対殺すロボ』が守る稀人入管センターを抜ける方法はあるのだが……)
梅雪は平気だったが、ゲームにおける主人公はその出自を異界に由来するため、異界絶対殺すロボの攻撃対象になる。
これが隔てる九十九州に渡る方法は二つあって、一つが『レベルを上げて異界絶対殺すロボを壊す』という暴力による入島であり、もう一つが『出自を誤魔化すアイテム』を装備しての入島である。
なお、主人公が出自を誤魔化すと異界由来のユニットでもフリーパスになり、一回出自を誤魔化して九十九州に入ればあとはもう『アイテム』を装備状態にしなくとも普通に入れてしまうというガバガバ入管体制なのだが……
(例のアイテムはネオアヅチでとるものだ。もともと九十九州にいる者が手に入れる手段はない──とゲームの通りなら思うところではある。だが、すでにゲームの通りでないことを大量に経験している身からすれば、アイテムが複数あったり、すでに九十九州人が本州に入っていたりということも想定すべきではあるか)
あるが、それは今のところ関係がない。
今関係あるのは──
「──郎党どもに告ぐ」
梅雪が声を発しながら、
「助太刀不要。俺が一人で対応する」
そう述べれば、横に立っていた父が一歩下がり、頭を下げる。
梅雪はそれを確認して一歩踏み込み──
瞬間、九十九州の洗礼が、梅雪を襲った。
国崩カリバーの襲来である。




