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第41話 条件の内容

「……ええと、それでは、今度の土曜日、私たちのスケジュールを押さえたいと? それがあのバットを売っていただく条件……?」


 オークの俺こと、外務省職員、深田博が《スーサイド・レミング》にゲードから伝えられた条件を言うと同時に、恭司を含む《スーサイド・レミング》の構成員達は大きく首を傾げた。

 それが一体、どんな負担を《スーサイド・レミング》が負うことになるのかすぐには想像出来なかったからだろう。

 ただ、今度の土曜日、スケジュールを押さえられる。

 と言うことはつまり、その日、《スーサイド・レミング》と共にどこかのギルドが一緒に迷宮探索に行く、と言うことになるのだろうとは予測がついてはいるようだ。

 けれど、地球上において《スーサイド・レミング》ほど迷宮を探索できているギルドなど、他の五大ギルドを除外するとほとんど頭に浮かばないという点が、彼らからするとよく分からないところだろう。

 一応、日本のそれぞれの地方には、その地方の迷宮に強いギルドが五大ギルド以外にもあるから、そういう奴らとか、ということかと一瞬考えたようだが、俺が次に付け加えた条件で彼らの首はさらに深く傾げられる。


「ええ、そうですね。行く場所は、桜水上周辺になります。細かい場所については現地に到着してから、ゲー……じゃなかった、外部さんの方から説明していただくことになりますので、この場ではお伝えしかねるのですが……」


「ということは、外部さんと一緒に迷宮に潜るということですか?」


「そういうことになりますね……いかがでしょう?」


 軽く聞いているが、これをどう答えるかは実際、結構難しい話だ。

 何せ、《スーサイド・レミング》は現時点で日本トップクラスのギルド、つまり世界トップクラスでもあるのであり、そんな集団の中でもさらに選りすぐりの精鋭が恭司たちなのだから。

 彼らと一緒に迷宮に潜る、ということはつまりそれだけ危険なところに行くという意味でもあり、そんなことをゲードがやろうとしているのは、一般的には自殺行為に写るだろう。

 竜族とか、わかりやすく強い種族ならともかく、ゲードは見た目はノーマルゴブリンである。

 その上、その高い能力を極限まで研鑽された技術によって隠蔽しているため、一見するとその辺の迷宮の浅い階層にいるゴブリンたちとまるで見分けがつかない。

 強さもそれくらいに見えるのだ。


 そんなゲードが、そんなことを言っているのだ。

 無理に決まっている、と思うのが当然の話だった。

 けれど、恭司たち……というか、恭司はそういう凡百の人間とは異なるようで、


「……なるほど、承知しました。博さんがそう仰るからには、きっと大丈夫なのでしょう」


 一言目でそう言って受け入れる。

 やはり、混乱の中で台頭してきた現代の英雄とも言うべき男は、度量が違うのだろうな、と俺は思う。

 ただ、彼の隣に座っている姫カットの女性、如月桜花は意見が違うようで、怪訝な表情で、


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、恭司さん。あのゴブリンの方と迷宮探索って、本気ですか!? 流石に私たちでもゴブリンの方を守りながら最深部とかに行くのは無理ですよ! 命の保証ができません! 実際に行く私たちだってそれはないのですし……」


「そりゃ、分かってる。でも、博さんがそれを分かってないはずがないし……それに、どうもな」


「え?」


「博さんは……あのゴブリンの方……外部さんと、昔からの知り合いか何かなんじゃねぇかな?」


「えっ、で、でもお互い敬語でしたし、そんなに親しげな雰囲気は……」


 一瞬、ゲードとあまりに仲良く振る舞いすぎたか?

 と不安になったが、如月の反応でどうやら一目見ただけでは分からない程度には演技できていたと理解する。

 つまり、これは恭司の観察眼というやつなのだろう。

 それにしても相当なものだが、まぁ、ゲードとの仲は長い。

 最初からある程度怪しんで見ていれば分かってしまう程度には気安く接してしまっていた可能性も高い。

 とはいえ、これは素直に称賛すべきだろう。

 俺は言う。


「……如月さん。確かに、恭司さんの仰る通り、私と外部さんは知り合いです。しかも昔から……つまりは向こうにいた時からの、ね」


「えぇ!? じゃ、じゃあ……今回の取引って、何か試験とかそういう……?」


 急に如月が怯えてそう尋ね出したのは、今回のことが外務省、ひいては政府からギルドに対する試験か何かかも、と不安に思ったかららしい。

 確かにそういうことはたまにある。

 特にギルドが乱立し始めた当初はそういうことが多かった。

 というのは、急に迷宮ができて力を得てしまった覚醒者たちを統制する必要があったからだ。

 その時のことをトラウマのように感じている探索者たちは少なくなく、だからこその怯えだろう。

 しかし、今回のはそういうわけではない。

 俺ははっきりと否定する。


「そんなことはないですよ。今回は完全にたまたまです。というか、外部さんが急にあんな武器を手に入れてしまったので、元々知り合いだった私が適切なルートでの売却を提案しただけですから。ご心配なさらずに」


「あぁ、よかった……そういうことでしたか……私はてっきり、また総長がやばいことをやらかしたのかと思って」


「桜花、お前、拠点に戻ったらちょっと話し合いな」


「ひっ……」


 怯える桜花を無視して、恭司は言う。


「ま、ともかくそういうことなら、外部さんの実力については心配しなくてもいい。そういうことですよね?」


 確信を持っている恭司に、俺は曖昧に頷きながらも、


「少なくとも、簡単にやられることはないと言っておきましょう」


 そう保証したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは良作。 流石にガチプロ作家の作品は違うな。面白い。
[一言] 連載再開待ってました 思い出したようにでもいいので 更新楽しみにしてます
[良い点] 続きが気になっていたので更新嬉しい
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