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門前払い

明けましておめでとうございます。

     ◇

 王都に戻った儂らは、ド直球に王城を訪れた。


「今度は疚しいことはないから、正門から堂々と行くぞ」


 そうして正門に着き、門番に王への謁見を取り次いでもらう。


「またお前か……」


 どうやら前回来た時と同じ門番なのか、儂の顔を見るなり地面に唾をはくかのように嘆息する。


「国家存亡の危機を知らせに来た。王に謁見を賜りたい」


 だが、返ってきたのは「そうかそうか。さっさと帰れ」という言葉だった。


「あれ……?」


 まだ三十路に入ったばかりであろう若造に鼻であしらわれ少しムッとするが、ここで短気を起こしては話がややこしくなるので堪える。


「いや、聞いておらんかったのか。重要な話があるから王様に会わせてくれ」


 すると門番は、なんか面倒臭い奴が来ちゃったなあ、とばかりに大仰に溜息をつくと、ひどく疲れた顔で言う。


「あのな、ここにはお前みたいな頭のおかしい奴が年に二三人は来るんだよ。王様に会わせてくれ大事な話があるだの、実は俺が本当の王様で今城の中にいる奴は俺に化けた魔物だ何だの。俺も門番になりたての頃は素直に話を聞いてやってたさ。けどな、大事な話が本当に大事な話だった試しは一度だってないし、王様が偽物だったことだって一度もないんだ。いつもいつも頭のおかしい奴がイカれた頭で作り出したくだらない妄想ばかりで、それを聞かされるうちに純粋な俺の心は疲弊して摩耗しまったんだ。わかるか? 頭のおかしい奴の相手をまともにしていたら、こっちまでおかしくなるんだよ。だから俺は門に立つ時は、心を殺して無心になることにしたんだ。そうしないと、とてもではないが正気を保っていられないからな」


 聞いてるこちらまでストレスでハゲそうな愚痴をひと息に語ると、門番は「以上を踏まえた上で言ってみろ」と人生のすべての希望を放棄したような目でこちらを見る。


「お前らの重要な話とはいったい何だ」


「う……」


 儂らは言葉に詰まる。まさかすでに似たような話を持ってきた先客が大勢いたとは思わなかった。


 言いづらい。実は宰相は魔物が化けていたなんて、この流れで言ったらあからさまに作り話みたいではないか。


「どうした。言わないのか」


 いや、待て。男の話に圧倒されてしまったが儂らは別に嘘や作り話を持ってきたわけではない。それにこちらには、アミークスという生きた証拠もいるではないか。何を尻込みする必要があろうか。


「フッフッフ、これを見てもまだそんな口がきけるかのう」


 儂は余裕から湧き上がる笑みを見せながら、デカンナから縄を受け取る。縄の先では、街中で騒ぎにならないように頭に麻袋を被せたアミークスが縛られていた。


 縄をぐいと引いて門番に前にアミークスを立たせる。


「さあさ、とくと見よ。これが国家危急の一大事である」


 口上とともに麻袋を外すと、自害防止のため猿ぐつわをかまされたアミークスの顔が露わになった。


 アミークスは魔物特有のどす黒い肌を怒りに赤く染め、鋭い牙を猿ぐつわに噛ませながら息を荒くしている。


「なんだこいつは。ただの魔物じゃないか。捕獲した魔物の換金なら冒険者ギルドに行け」


「いやいや、こいつはただの魔物じゃない。こいつはなんと、今まで宰相に化けてこの国を乗っ取ろうとしていたのだ」


 じゃじゃーんといった感じで盛大に明かしてみたが、門番の顔は白けたままだ。


「はぁ? こいつが宰相様だって? 馬鹿も休み休み言え」


「嘘ではない。本当にこいつは宰相なんだ」


 言いながら、儂は肘でアミークスの脇腹を突く。


「おい、宰相に化けろ」


 だが首を横に振るアミークス。今度は強めに肘打ちを入れるが、それでも首を縦に振らない。


「貴様、いい加減にしないとタダでは済まさんぞ」


「いい加減にするのはお前だ。魔物を使ってよりにもよって宰相を騙るだなんて、本来なら即刻逮捕されても文句は言えないぞ」


「待ってくれ。本当にこいつは宰相なんだ」


「まだ言うか。それ以上言うと、こちらこそタダでは済まさんぞ。応援の衛兵を呼ぶ前にとっとと帰れ。そしてこんなくだらないことしてないで、真っ当に働け」


 門番に槍を向けられ、仕方なく儂らは城門前から退散することにした。


 城門から数区画離れた通りで、儂は毒づく。


「クソ、盲点だったわい」


 儂に恥をかかせて勝ち誇っているアミークスの後頭部を平手で叩くが、それぐらいでは堪えないのか猿ぐつわをかまされながらも楽しそうに笑っている。その顔が腹立たしいので、再び麻袋を被せて見えなくしてやる。


「確かに、言葉だけでは到底信じられない話ですもんねえ」


 マリンに言われるまでもない。だからこうして生きた証拠を持参したのだが、肝心な時にアミークスが言うことを聞かないのでは証明しようがない。


「あの時お前がアミークスに言うことを聞かせていれば」


 じろりとアルチュの方を見ると、彼女は抗議するような目でこちらを睨み返した。


「無理ですよ。あんな往来で準備も道具もなしに魔物の審問なんて」


「そんなもんなくても、小指から順番にへし折ってやればいいだろう。たいていの奴は中指辺りで素直になるぞ」


「神聖な審問と拷問を一緒にしないでください!」


 怒られた。どうもこの世界は見かけのわりに倫理観のしっかりしている奴が多くてやりにくい。


「それで、これからどうしましょうか」


 すっかり猿回しのようにアミークスの縄を持って引き回す姿が板についたデカンナが尋ねる。


「そうさのう……。冒険者ギルドに行ってみるか」


「ギルドに? どうしてですか」


「正面からが駄目なら、搦め手を使うまでよ」


「?」


 デカンナを含め、マリンとアルチュも小首を傾げる。


「なあに、すぐにわかるわい」


 顔中を疑問だらけにした三人は放っておいて、冒険者ギルドへと向かった。


明日も投稿します。

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