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決着!アラドラコ戦

     ◇

 アラドラコは再び高度を天井まで上げ、儂との距離を取る。奴は儂の『百歩神拳』で顔に傷をつけられたことを憶えているから、以前のように余裕こいて一箇所に留まるような愚は犯さず常に移動をしているため狙いが定まらない。


 だが、奴は大きな勘違いをしている。


 それは、ここが屋外ではなく穴の中だということだ。


 つまり、床や壁はおろか天井まで土で出来ている。


 そして、土でできているものには、土魔法がかけられるのだ。


「ボケはお前だ」


 儂は練った気をこぶしに込め、気合と共に地面に打ち込む。


「『土蜘蛛』!」


 打ち込まれた気は高速で地面を疾走し、壁を登って天井へ。


 そして天井付近に浮かんでいたアラドラコの気配を捉えると、一斉に土の槍となって襲いかかった。


「なにっ!?」


 地上から直接狙って来る『百歩神拳』を警戒していたところに突然頭上から幾つもの土の槍が現れ、さしものアラドラコも度肝を抜かれる。咄嗟に回避するが、天井すれすれを飛んでいたのが仇となり羽に何本か攻撃を受けてしまった。


 コウモリのような被膜の羽は、土の槍によってあっさりと破られた。


 羽に大きな穴が開き、アラドラコが錐揉みしながら落ちる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 十メートルほどの高さから真っ逆さまに落ちたが、さすが魔物といったところか、アラドラコはすぐに起き上がり始める。


「おーおー、元気じゃのう」


 儂は素直に感心していたのだが、馬鹿にされたと思ったのかアラドラコは鼻息を荒くする。


「うるせえ。妙な技使いがって……」


 戈を杖に立ち上がろうとするが、それよりも早く儂は間合いを詰める。得物を持っている相手には、まず間合いの内側に入ることが先決だからだ。


 全速力で走りながら、中段突きを打ち込む。


 アラドラコは戈の柄でそれを捌くが、そこから儂が繰り出す連続攻撃に防戦一方であった。


 だが敵もさるもので、近接距離で徒手の儂が有利でありながらも、長い戈を苦にせず防御を続けている。こいつ、なかなかやるぞ。


 このままこちらのペースが続くかと思えが。だがそこに油断が生じた。


「てめぇ、あんま調子に乗るななや!」


 忘れていた。


 アラドラコがただ空を飛ぶ戈使いではなく、竜人ドラゴニュートだということを。


 奴は執拗にこぶしや蹴りを繰り出す儂に向けて大口を開けると、火炎放射器のような炎を吐き出した。


「げっ!」


 これはまずい。


 この距離ではさすがにかわすのは不可能だ。


 おまけに攻撃中の体勢では廻し受けなどで炎を捌くこともできない。


 このままでは直撃だ。


 どうする。


 生死を分かつ刹那の境界。


 無限に引き伸ばされた一秒の中で、儂はマリンを閉じ込めた土の壁を思い出す。


 これだ! しかし今からこぶしを地面に打ち込んでいては間に合わない。


 だったら――


「こなくそ!」


 儂はほとんど自棄糞で、右足に込めた気を震脚の要領で地面に打ち込む。


 すると踏み込んだと同時に地面が盛り上がり、儂の眼前に分厚い土の壁が出現した。


 間一髪。アラドラコの吐いた炎はその土の壁に阻まれ、儂は九死に一生を得たのであった。


「なにっ!?」


 必殺の火炎放射が突如現れた土壁に阻まれ、アラドラコは驚きの声を上げる。


 その隙を逃さず、足でも土魔法が使えたことに気を良くした儂は土魔法を連続で繰り出す。


 次の瞬間、アラドラコの四方の地面が隆起し、土の壁を作る。


「これで終わりだ!」


 奴を土の壁に閉じ込めると同時に、儂はトドメの一撃を放つ。


「『百歩神拳』!」


 大上段から放たれた右の手刀は、風の刃となって地面を削りながら一直線に土の壁へと飛ぶ。


 そして土の壁の中央を縦一文字に切り裂くが、その勢いは衰えず坑内の壁まで破壊した。


 砕かれた壁の破片が飛び散り、土の壁にぱらぱらと当たる。それが収まると、土の壁の中央に一筋の線が走り、中のアラドラコごと真っ二つに別れた。


明日も投稿します。

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