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現せ、正体!

メリークリスマス

     ◇

 夕刻。


 アミークスの指定した場所に向かうと、朽ちた教会があった。


 屋根は瓦がほとんどなく、所々崩落している。壁も何か所か大穴が開き、伸び放題の雑草が侵入している。これでは一夜の宿を借りようにも、雨風を凌げなさそうだ。


 マイナー宗教の教会だったこの建物は、王都の一等地に教会があるユーリス教と違い、信者の少なさに郊外という立地の悪さも相まって早々に廃れたと聞く。頑張って建てただろうに、残念なことだ。


 建物の中は、外に比べると少しましだった。説教を聞きに集まる信者用に設えられた木の長椅子が、座れるかどうかは別として形がまだ残っている。


 演壇の奥の中央に立つ神の象徴シンボルは、残念ながら元の姿が判別できないほど風化している。一体どんな姿をしていたのか興味が湧くが、約束の時間まで間もないので考えるのは後にしよう。


 演壇から視線を移し、壁際に立つ鋼鉄製の柱に目を向ける。


 あらゆるものが朽ち果てたこの空間で、この円柱だけが時間が止まったかのように完璧にその姿を保っている。


 天井に開いた穴から差し込む夕日を反射させる太い柱を頼もしそうに見ていると、外に人の気配を感じた。


 ようやく来たか、と思ったが、気配は一つではなかった。


「おや、もういらしてましたか」


 アミークスは中で待っていた儂を見ると、先に来ているとは思っていなかったのか意外そうな顔をした。


「待たせちゃ悪いと思ってな。しかし人には独りで来いと言っておいて、お前さんの方は随分とお供を連れてきたようだな」


 壁の向こうに感じる無数の気配について触れると、アミークスは悪びれもせずに言った。


「宰相のわたしが外を歩くのに、護衛をつけないわけがないでしょう。それに貴方には独りで来いとは言いましたが、わたしは独りで行くとは一言も言ってませんからね」


 そう言ってアミークスが指を鳴らすと、近衛兵と思しき完全武装をした連中がぞろぞろと教会の中に入ってきた。


 その数、二十人。よくもまあ、これだけの数を引き連れてきたものだ。ここに来るまでの道中、さぞ人目についたことだろう。


「フン、護衛ね。そのわりにはやけに殺気立っておるな。こっちにまでビンビン伝わって来よるわい」


「そうですか? それはきっと、貴方のことを警戒しているのでしょう。何しろ貴方は単身でオークキングやゴブリンシャーマンを倒す力をお持ちだ。貴方に野心がおありなら、このわたしなどひと捻りで殺せるでしょう。それで彼らもピリピリしているのですよ」


「ほう、どうして儂がそいつらを倒したことを知っている」


「なあに、宰相ともなればこのくらいの情報はいくらでも耳に入ってきますよ」


「そしてその情報を魔王軍に流すのか」


「……どういう意味ですか?」


 わかってはいたが、やはりしらばっくれるか。まあこっちもそう簡単に認めるとは思ってなかったけどな。


「ちょっと不思議に思ったんだよ。どうして秘匿されているはずの勇者の存在を、魔王軍の幹部が知っていたのかってね」


「きっと魔王軍にも優れた情報網があるのでしょう」


「そうだな。例えば、王城の中に間者スパイを潜り込ませるとかな」


 アミークスは眉をひそませるが、さすがに今度は軽口を挟んで来なかった。儂は構わず続ける。


「そこで思ったんだよ。王城の――勇者の情報を持つほど中核にいる人間の中に魔王軍に情報を流している奴がいれば説明がつくってね」


「それがわたしですか」


 アミークスは鼻を鳴らすと、くつくつと笑い出した。


「随分と飛躍した考えですね。いやあ、実に想像力が豊かだ。勇者など今すぐやめて、劇作家にでもなったらどうですか。その方が貴方に向いているかと思いますよ」


 楽しそうに饒舌になるアミークスの顔は、この時ばかりは宰相のものではなく実年齢よりも幼く見えた。


「だいたい、そこまで言うのなら証拠はあるんですか」


 推理小説の犯人みたいなことを言い出したが、実際のところは宰相と握手をした時に魔物の気配を感じたというだけで証拠は無い。


 だがここまで来たら、後は勢いで押し進めるだけだ。ええい、ままよ!


「証拠? お望みとあらば見せてやろう!」


 儂が合図を送ると、奥の壁際に立っていた鋼鉄の柱が動き出した。


「何だあれは!?」


 教会の装飾品だと思っていた鉄柱が突然動き出し、驚くアミークス。柱は中央が割れてゆっくりと開いていく。教会の中に鉄が木をこする喧しい音が響く。


 鉄柱が開ききると、中から現れたのはアルチュであった。


 アルチュは得意満面に両腕を組み、仁王立ちしている。その背後には両手に巨大な盾を持ったデカンナと、その背に隠れるようにしてマリンがいる。


 そう。儂は廃坑でデカンナが盾を合わせて鉄柱を作りアルチュを隠していたのをヒントにして、予め廃教会の中に連中を隠れさせていたのだ。本当はまだ正式に仲間になっていない二人をこの作戦に加えるのには抵抗があったが、デカンナが『アルチュがやる気ならば自分も参加しよう』と自ら志願してくれたのは助かった。


「フハーハハハハ! 魔族のくせに人に紛れるとは不届き千万! その化けの皮を、わたしが剥がしてやりますよ!」


 ずっと息を潜めて隠れていたせいか、反動でアルチュのテンションがやたら高い。いくら酒が必要とはいえ、少し呑み過ぎではなかろうか。


「おいマリン、大事な役目があるからこれ以上酒は呑ますなって言っておいただろ!」


 するとデカンナの背後からマリンが申し訳程度に顔を出した。


「すみません。『もっと呑まないと調子が出ない』とか言って、気がついたら呑んでたんですよ。いったいどこにお酒を隠し持っていたのやら……」


「問題ありません! 酔えば酔うほど調子が上がるんですよ、わたしは!」


 聞いていて不安になるようなことを言うが、神への祈りの言葉を唱えるアルチュの滑舌や動作に淀みは一切ない。本当に酒を呑むと調子が上がるようだ。


 やがて祈りが神に届いたのか、アルチュの体がまばゆい光に包まれる。その光はただ眩しいだけでなく、春の陽のように体のみならず心まで暖かくするような光だった。


「魔物よ、正体を現せ! 『真実のミラー・オブ・ラー』!」


 アルチュが両手の平を前に向けて突き出した瞬間、爆発的な光が教会内を照らした。


「うおっ!」


 閃光弾のような強烈な光に、思わず手で目を遮る。こんな下手したら失明しそうな光が出るなら、先に言っておけ危ないだろ。


明日も投稿します。

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