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疑惑

     ◇

 オーサとの話を終えた儂らは、ギルドを出て街を歩いていた。


「いつ魔王や勇者のことを訊かれるかと思って、ドキドキしっ放しでしたよ~」


 心労ここに極まれり、といった感じでマリンが大袈裟に溜息をつく。


「あいつ、自分のこと魔王軍の幹部だって言ってたしなあ」


 げんなりしたマリンの表情が、さらに疲れを帯びる。


「あと勇者とか言ってましたよ。まったく余計なことを……」


 あの発言はオーサだけでなく、現場にいた冒険者たち全員が耳にしているはずだ。なのに誰も何も言わないのは、いったいどういうことだろう。


「勇者の情報は国家機密ですからね。なので国が公開するならまだしも、魔物の口から出た情報なんて信憑性がなくて誰も信じなかったのかもしれませんね」


「なるほど」


 だからオーサも何も訊かなかったのか。てっきりパニックになるかと思ったが、みんな魔物のたわ言だと思って流したようだ。


 敵の情報を鵜呑みにしないのは立派なことだが、国の大本営発表だけを信じるのも危険なことなんだがなあ……。


「良かったですね。大事おおごとにならないで」


「そうだな」


 それから二人してしばらく並んで歩いていると、ふと思い出したようにマリンが言った。


「でも、どうして魔物が勇者の存在を知ってたんでしょうね」


「!?」


 それだ。


 そこは儂もおかしいと思っておった。


 勇者の出現は秘密だ。なのにアラドラコは勇者の存在を知っていた。


 しかもあいつは何と言っていたか


『勇者のおらんようになったこの街を――』


 勇者がいなくなった。


 “勇者が現れた”、ではなく“いなくなった”。


 勇者の存在のみならず、それがいなくなったことを知っている。


 いなくなったとは、アレルギーで死んだということか。


 おかしい。


 この事を知っているのはマリンだけだ。


 ではマリンが情報を漏らした?


 その可能性も無きにしもあらずだが、彼女が魔王軍と繋がっていると考える根拠が見当たらない。……今のところは。


 では他の可能性は。


 誰か他の奴が魔王軍と繋がっている。


 だとすると、カイトが死んだのは単純にアレルギーではないかもしれないな。


 まさか、暗殺……。


 マリン以外の勇者の存在を知っている者が、勇者を暗殺した。


 そう考えると色々と辻褄が合うのではないか。


「ライゾウさん?」


 黙考していた儂の顔を、心配そうな顔をしたマリンが覗き込んでいた。


 儂は咳払いを一つし、彼女の反応を確かめるように静かに言う。


「奴らに情報が漏れている可能性があるな」


「え!?」


 マリンが数歩後退る。


「そんな。いったいどこから……」


「儂ら以外に、秘密を知っている者の中だろうな」


「まさか、城内に……!?」


 察しが良い。さすがは宮廷魔術師といったところか。


「誰か内通者がいるか、もしくは――」


 すでに魔物が入り込んでいるか。


 どちらも考えたくはないが、疑惑は晴らさなければならない。このままでは寝覚めが悪いからな。


「勇者について知っている者は、城内にどれぐらいいるんだ?」


「えっと……国王は当然として、宰相と大臣。あと文官や宮廷魔術師たちを入れても全部で二十人はいないはずです」


「なるほど。ではちょっと調べるか」


「え? 調べるって、どうやって」


「わからんが、とりあえず城に行くぞ」


 そう言うと儂はマリンの肩を片手でしっかりと掴む。


「どうしてわたしまで……」


「城への道がわからんからな。案内せい」


「嫌ですよ! ライゾウさん絶対何か良からぬことするでしょ。 そういうのは一人でやってくださいよ」


「そうつれないことを言うな。旅は道連れ世は情けと言うではないか」


「知りませんよそんな言葉! ちょっと、引っ張らないで……誰か、助けて! 人さらいです! 連れ去られる! 男の人呼んでー!」


 喚き立てるマリンを引きずって、儂らは王城へと向かった。


明日も投稿します。

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