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ものを見るっていうレベルじゃねえぞ

     ◇

 冒険者ギルドに戻った儂たちを待っていたのは、他の冒険者たちの出迎えだった。


「よう、おかえり。早かったな」


「どうだった、初めての冒険は?」


「ドグマさんに迷惑かけなかったか?」


 にこやかに寄って来る冒険者たち。きっと初心者の初冒険話を酒の肴にでもしようと思ったのだろう。しかしそんな彼らの間を、ドグマは険しい顔でかき分けて進んだ。


「どいてくれ。話は後だ」


 らしからぬ様子に冒険者たちは気圧され、戸惑いながら道を開ける。人の波が割れてできた道を、ドグマはまっすぐカウンターの方へと歩いていった。


「おい、どういうことだよ」


「ドグマさんえらい血相変えてたな」


 周囲がひそひそと囁き合う間にも、ドグマとギルド職員との話は続いている。その間儂らと言えば、遠巻きに眺められているだけで何となく居心地が悪い。


 五分ほどすると、ドグマが小さな革の袋を手に戻ってきた。


「待たせたな。とりあえず、これが今回の依頼の報酬だ」


 渡された革袋の中身を確かめると、百円玉みたいな銀貨が数十枚入っていた。だがこの世界の貨幣価値がさっぱりわからないから、多いのか少ないのか判断がつかない。


「五万マニーだ。俺の分はいらんから、全額持ってけ」


「そんな。さすがに全部いただくのは悪いですよ」


「構わん。今回俺は道案内しただけだからな」


 ドグマの言葉に、周囲の冒険者たちがはやし立てる。


「さすがドグマさん。貧乏初心者のために報酬全額渡すとか、マジ半端ねえ」


「きっとゴブリンも全部ドグマさんがやっつけたんだろうなあ」


「それなのに自分は道案内しかしてないだなんて、さすがとしか言いようがねえ」


 だが彼らの陽気な空気は、ドグマの押し殺したような声で固まる。


「今回、ほとんどの魔物を倒したのはライゾウだ」


「え……?」


「またまた、ご謙遜を……」


「本当だ。しかも一緒にいたゴブリンシャーマンやオークキングも、こいつが一人で倒したんだ」


 魔物の名前を聞いて、冒険者たちが一斉に息を呑む。


「ご、ゴブリンシャーマンにオークキングだと……」


「ちょっと待ってくれ。どうしてこんな都市部の廃坑に、そんな奴らがいるんだ」


「わからないが、原因はこれからギルドが調査するから大丈夫だろう」


「そうか。だったら安心だ」


 ギルドの調査が入ると聞いて、冒険者たちが安堵する。


 とそこへ、奥からギルドの職員がやって来た。


「ドグマさんから報告は受けました。しかしまだ半信半疑といったところ、というのが正直な感想です。なので申し訳ありませんがライゾウさん。よろしければ貴方のギルドカードを確認させてもらってもよろしいですか」


「ギルドカード? そんなもん確認してどうするんだ」


「ギルドカードにはそいつが倒した魔物が記録されるんだよ。ギルド職員はそれを確認して、そいつがちゃんと仕事したかどうかを判断して報酬を渡すんだ」


「なるほど。証拠というわけか」


 ドグマの説明に儂は感心する。確かに口で言うだけでは信用できないからな。それにしても、思ったより便利な機能があるんだなこのカード。


「ほれ、儂なら構わんぞ」


 そう言って自分のギルドカードをギルド職員に渡す。


「では拝見します」


 名刺を受け取るように押し頂くと、ギルド職員は儂のギルドカードを精査する。


 最初は不審そうだったギルド職員の顔が、みるみる驚愕に変わっていった。


「……ほ、本当にゴブリンシャーマンとオークキングを倒しています。し、失礼しました……」


 震える声でそう言って儂にギルドカードを返すと、ギルド職員はもの凄い速さでカウンターを乗り越えて建物の奥へと引っ込んでいった。


「本当にゴブリンシャーマンとオークキングがいたのか」


「いや、問題はその二匹をあいつが一人で倒したってことじゃねえか」


「嘘だろ……。だってあいつ、今日ギルドに登録したばかりのド新人だろ」


「何者なんだ、あいつ。絶対ただの下級冒険者じゃないだろ……」


「やめておけ。冒険者の過去を詮索するのはご法度だろ」


 ドグマが低い声で嗜めると、それまで色めき立っていた冒険者たちがしゅんとする。


 だがすぐに儂の方へ向き直ると、舌の根も乾かぬうちに言った。


「過去は詮索しない。だが俺もお前が何者なのかは気になる。だから良かったらで構わない。ステータスを見せてくれないか」


 お前も気になるのかよ。


「ステータスって何だ?」


「ギルドカードに記載されている、ライゾウさんの身体能力を数値化したものですよ。でもギルドカードには所有スキルとかも記載されて個人情報バリバリなので、普通は他人には見せないものなんですよ」


 マリンがすぐさま耳打ちしてくれるが、やはりよくわからない。


「数値なんか見てどうするんだ」


「そりゃあ自分の身体能力が数字で見られるのはわかりやすくて便利でしょう」


「自分の身体なのに数字で見なけりゃわからないのか。不便や奴らだ」


「みんながライゾウさんみたいにデタラメなわけではありませんからねえ」


 何だろう。褒められているのか馬鹿にされているのかわからない。けどまあ儂の個人情報などたかが知れてるし、とにかくギルドカードを見せれば良いのか。


「見たけりゃ見てもいいぞ。別に減るものでもなし」


 儂がドグマに自分のギルドカードを渡すと、彼の周囲に冒険者たちが一斉に集まってきた。その姿はさながら米兵に群がってチョコをねだる子供たちのようだ。


「おいお前ら、ちょっと離れろ! 近い近い!」


「いいから早く見せろ!」


「こっち見えないぞ!」


「押すな押すな!」


「ものを見るっていうレベルじゃねえぞ!」


 たかがステータスとやらを見るために、大の大人が押し合いへし合いする。


 そうこうしているとドグマを始め、皆が次々に呻くように言った。


「何だこれ……」


「おかしいだろこの筋力値。ドワーフかよ」


「どう見ても新米冒険者のステータスじゃねえ」


「俺、勝ってるの年齢しかねえ……」


 具体的にどの数値がどうおかしいのかはよくわからんが、褒められていないというのだけはわかった。


 見る前は祭のようだった冒険者たちのテンションが、次第にお通夜ムードになっていく。やがて誰かの大きな溜息と共に、一斉に解散となった。


 ぞろぞろと人が離れていき、ぽつんと残ったドグマが疲れた顔でギルドカードを返してきた。


「……うん、何かもう色々とすご過ぎて参考にならんわコレ」


 どんよりとした目でそう言うと、ドグマは儂の肩に片手を置く。


「とにかく、今日は色々と助かった。その金でゆっくり休んでくれ」


「おう。お前さんもお疲れさん」


 精根尽き果てたように足を引きずるドグマを見送る。他の冒険者たちも妙に疲れた顔をして、飲んでいた酒を切り上げて帰っていく。


「ダメですよライゾウさん。皆さんの気を滅入らせちゃ」


「儂は何もしとらんがな」


 勝手に滅入っとる連中は置いといて、儂らはこれからどうしようか。


「とりあえず当面の生活費は手に入ったので、今夜は宿を取って休みましょう」


 マリンの提案により、今日は宿を取って休むことにした。


 さて、明日はどうなることやら。

明日も投稿します。

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