表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/42

倒せオークキング!

     ◇

 満を持しての大将の登場に、ゴブリンどもの興奮が最高潮に達する。剣を盾に打ちつけたり足で地面を踏む音が洞窟内に響いた。


 ゴブリンシャーマンが倒されてお通夜ムードだったのが嘘のような盛り上がりに、どれだけこいつが信頼されているのかがわかる。


 何しろ身長はドグマよりも高く、2メートルを軽く超える。体重はざっと200キロはありそうだ。だが決して肥満ではない。分厚い筋肉の上に脂肪が適度に乗った、戦うための肉体だ。相撲取りやプロレスラーだって、こいつとまともにぶつかったら跳ね返されるだろう。普通の人間など、多少武装したところで相手になるまい。冒険者とは、こんな奴らを相手にしなければならんのか。大変じゃのう。


「よし、ここは俺に任せろ」


 オークキングを観察している儂に向けて、ドグマが開いた手のひらを向ける。


「新米にばかりいい格好はさせられないからな」


 そう言ってにやりと笑うと、オークキングに向かって一歩前に出た。


「あ……」


 止める間もなく、ドグマはオークキングへと突っ込んで行った。


 雄叫びを上げながら、ドグマがオークキングへと走る。迎え撃つオークキングは、余裕の表情で戦斧を構えた。


 間合いに入り、両者が一斉に武器を振りかぶる。


 金属同士が激しくぶつかる音の後、軍配が上がったのはオークキングの方だった。


「ぐはあっ!」


 ドグマは見事に吹っ飛ばされ、儂の前に戻ってきた。


 そりゃそうだろう。ドグマは大きいとはいえ、体重はざっと100キロ程度。鎧や斧を入れても最大150キロといったところだろう。素で200キロはあるオークキングとは目方が違いすぎる。


「大丈夫か?」


「情けない……。せっかくお前がゴブリンシャーマンを倒してくれたというのに、俺ではオークキングには勝てそうにない」


「立てるか」


「ああ……」


 手を貸してドグマを立たせる。派手にぶっ飛ばされたものの、立派な鎧のおかげでドグマの傷は浅い。だが重量差をどうにかできない限り、ドグマがオークキングに勝つのは難しいだろう。


 それなら――


「儂は小さくて数が多いのは苦手なんだ。だからデカブツは儂に任せて、お前さんは周囲の雑魚を頼む」


「ふざけるな――と言いたいところだが、ゴブリンの相手なら慣れているから任せておけ」


「頼んだ。儂は自分よりデカい奴の相手は慣れておるからな。適材適所というやつだ」


「先輩として情けない限りだが、ここを生きて出られるかはお前にかかっている。頼んだぞ」


「礼なら今夜、一杯奢ってくれればいい」


「フ……、欲のない奴だ。いいだろう。一杯と言わず好きなだけ奢ってやろう」


「その言葉、しかと聞いたぞ」


 そう言って右手を差し出すと、ドグマが握り返してくる。そしてがっしりと組んだ手を支点にして、儂とドグマの位置が入れ替わる。


 儂はオークキングに向けて。


 ドグマは背後のゴブリンたちに向けて。


 それぞれが相手に向かって歩き出す。


 さあ、第二ラウンドだ。


 選手交代。


 今度は儂がオークキングと対峙する。


 近くで見ると本当にデカいのう。


 儂の今の身体が大体180センチ、体重が85キロといったところか。決して小兵というわけではないが、格闘技の世界では際立って大きくはない。儂が世界を渡り歩いていた頃は、2メートルを超える大男がゴロゴロいたものだ。


 それでも儂は、そいつらに遅れを取ったことは一度たりともない。むしろ身体の大きさしか取り柄がないウドの大木を倒すのが得意だった。


 目の前のオークキングも、恐らくそういった類の相手だろう。その証拠にドグマよりも小柄な儂が出てきたのを見て、あからさまに小馬鹿にしたような顔をしておる。


 油断した相手は与し易い。一気に間合いを詰めると、てっきり儂が攻めあぐねると思っていたオークキングは慌てて斧を構える。


 武器が届く距離に入った瞬間、頭上から唸りを上げて斧が襲い掛かってきた。


 それを左に避けて躱すと、ずどん、と豪快な音を立てて斧が地面に突き立った。あんなのをまともに食らったら、儂の頭など一発で木っ端微塵だろう。


 だが当たらなければどうということはない。


 オークキングの右側に回り込んだ儂は、踏み込んだ奴の足めがけて強烈な下段蹴りをお見舞いした。


 ダメージの蓄積を狙ったローキックではない。斜め上から膝の側面を狙った、一撃で相手の足を折るための蹴りだ。


 体重が乗っていた方の足に強烈な一撃を加えられ、オークキングの膝の骨が破壊される。これでこいつは一生まともに歩けなくなった。


 だが悲しむ必要はない。


 こいつの一生はここで終わるからだ。


 右膝を砕かれたオークキングが、苦痛の悲鳴を上げながら地面に片膝をつく。そうして低くなった奴の首に、必殺の手刀を叩き込んだ。


 首を刎ねるつもりで放った手刀は――


「あれ?」


 奴の脛骨を叩き折るに留まった。


 それでも、普通の生き物なら首の骨が折れたら死ぬ。


 だがオークキングは魔物だ。


 首の骨を折られてなお、奴は生きていた。


 だらしなく右に傾いた頭のまま、オークキングが立ち上がる。こんな姿になっても、まだ戦うというというのか。


「魔物はしぶといのう」


 呆れるというより感心する。


 しかし困った。


 ゴキブリ並に生命力の強い魔物を、どうやって殺そう。


 先のゴブリンの如く、頭を潰せばさすがに死ぬだろうか。


 しかし儂の手刀でも叩き斬れなかった首の骨から、オークキングの頭蓋骨は岩より硬いと思われる。これを潰すのは少々骨が折れそうだ。


 それ以外で手っ取り早く殺すには、心の臓を止めるに限る。となると、あの分厚い筋肉と脂肪に守られた心臓に一撃を与えねばならないのだが。


「どうやら少しばかり本気を出さねばならぬようだな」


 儂はこの世界に来て初めて構えを取る。


 呼吸を整え、気を体内に充実させる。


 そうしている間に、オークキングは右足を引きずりながらもこちらに向かってくる。首が折れ、右膝を砕かれた状態でありながら未だ衰えない闘志。魔物ながら天晴である。


 ではその闘志に報いるため、全身全霊をかけた一撃をお見舞いするとしよう。


 大きく息を吸い込み一度止める、と同時にオークキングに向かって駆け出した。


 傾いた頭でもちゃんと見えているのか、突進してきた儂に反応し斧を構えるオークキング。


 先は大上段の振り下ろしを避けられたので、今度は斧を左から右に向けて横薙ぎに払ってくる。


 儂はそれを大きく跳躍して躱すと、奴の背後に着地する。


 そして右のこぶしを大きく振りかぶると、奴の背中の中央めがけて正拳突きを叩き込んだ。


「せいやあッ!」


 渾身の一撃と共に膨大な気がオークキングの心臓へと伝わる。強制的に限界以上の鼓動をして通常の数倍の血液が血管を流れると、異常な血流に耐え切れず心臓が破裂。血管も次々に破裂し、体内で無数の内出血を生む。


 致命的な破壊が内部で起きたオークキングは、両目鼻両耳口から大量の血を流し絶命した。


 これぞ七孔噴血の一撃。血の通った生き物なら必ず一撃で殺す、まさに一撃必殺の技である。


 しかし余程の強敵でなければ使わなかったこの技を、異世界で早々と使うとは思いもしなかった。


 この世界の魔物とやらは、案外手強いのかもしれない。これは少しばかり褌を締めてかからねばならんかのう。


 ともあれ、この群れの大将は仕留めた。


 振り返ってドグマの方を見る。


 ゴブリンごときに遅れを取るとは思っていなかったが、それでも無事な姿を見て安心する。


 すでに半分以下にまで減っていたゴブリンたちは、ボスのオークキングが倒されるのを見た途端、一斉に散り散りになって逃げ始めた。


 さすがのドグマも、蜘蛛の子を散らすように広場の出口に向かうゴブリンにまで手は回らない。


 逃げるゴブリンなど放っておいても良かったが、今回はちと事情が違う。


 広場の出口には、土の壁に封じ込めたマリンがいるのだ。一匹たりともそちらに向かわせるわけにはいかない。


 儂はゴブリンシャーマンを倒した要領で、こぶしに溜めた気を地面に打ちつけて放つ。


 瞬間、槍状の隆起が残ったゴブリンたち全てを的確に貫いた。


明日も投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ