トレイン
意味もなく誰もいない無人の駅の、黄色いホームより後ろに立つ。
時間は23時、23:31、それがこの駅に電車が最後に現れる時間だ。
残り10分、自分のこれまでの人生を回想する。
ここに書くほどの生涯を送っていないというのが素直な本音だ。
あれこれ考えているうちに電車が現れた。乗客はやつれたサラリーマンやカップルのみ。イヤホンを耳につけ、黙々と電車に乗る。
流行りの曲なんかじゃない、悲劇をポップに乗せた電子音楽を黙々と聴く。
希死念慮を天使と悪魔が綱引きで引っ張り合う。死にたくないが生きたくもない。ただまったりと暮らしていたい。
「次は〜◯◯。◯◯〜」
駅員が次の駅へのアナウンスをする。関係ない。終電で降りる。そしてまた終電から家まで往復するのだ。
なんの意味もないこの謎の往復をするのが好きだ。少し冒険した気分になれるから。
普通の物語では、ここで恋の予兆が現れたりと運命的な何かが起きるのだろうが、現実だと生憎そうはいかない。
ただ意味もない時間の流れが残酷なほどに月日を巡って自分に突き刺さるだけだ。
「次は〜◯◯〜◯◯〜終電です」
30分の時間を経てようやく終電がおとずれる。
長く感じなかった。もう慣れた。だから何も感じなかった。
ガタ、ガタ、と音を立てて電車が走り出す。夜景をよそにスマホをじっと見てネットサーフィンをする。夜景を見るのが目的ではないのだから当然だ。
「◯◯、◯◯です。本日のご乗車誠にありがとうございました。ドアが開きます。ご注意ください」
ゆっくりと扉が開かれる。乗客は自分だけだ。腰を上げてゆっくりと下車する。
誰もいない寂れた駅を見て、自分は呟く。
「迷い込んじゃったかな」




