シュナクと25ノ姫 4
25ノ姫は呆然とシュナクを見上げた。
一体いつからそこにいたのだろう?
まさか、今まで寝室にこもっていた自分を叱りに来たのだろうか?
シュナクは言葉もなく自分を見ている。
もし彼が自分を叱りに来たのなら、これはチャンスだ。
25ノ姫は、そう思うと弾かれたように顔を上げた。
「あのっ、申し訳ありません、私は……あ、」
変に勢いをつけたのが悪かった。
身を乗り出した反動でシーツが引っ張られ、手首におかしな力が入る。そのまま勢いを殺せず、25ノ姫は肩からベッドの下に転げ落ちた。
(ぶつかる!)
受け身も取れず、目を瞑り衝撃に心構えた。
けれど、何時まで経っても痛くない。
「……?」
どうしたのだろう?
不思議に思い、25ノ姫はそっと目を開けた。
はじめに見えたのは、大きく見開かれたシュナクの瞳だった。何故か、自分がシュナクを見下ろしている。大きな腕で体が支えられているのを確認して、25ノ姫は合点がいった。
どうやら、自分はシュナクに助けられたようだ。
25ノ姫の止まった思考回路がとろとろと回り始める。
まず何をしなければいけなかったのか?
落ち込んだり、ベッドから転落したり、シュナクを見下ろしたり。様々なことが一度に起こり、混乱する。
けれど、混乱した頭に、一つの考えが浮かんでいた。
まず、何をすべきか。
まずは。
(まず、謝らなくてはいけない。誠心誠意謝り、許してもらえずとも気持ちだけでも伝えよう)
これは、きっとチャンスだ。
「シュナク様。昨夜の事、申し訳ありませんでした。私には、名乗る名がないのです。きちんと名乗って下さったあなたには、たいへん無礼なことかと思います。けれど、どうか、……」
お許し下さい。
しぼり出すような声は、シュナクに聞こえたのだろうか。
(いけない。きちんと最期まで謝らなくては……!)
25ノ姫は、心を奮い立たせ両手をついた。
深々と頭を下げ、……、そこでようやく、自分が柔らかい場所に座っていることに気がついた。
ぱっと顔を上げ、もう一度シュナクを見る。
25ノ姫は、丁寧な謝罪をシュナクの腹の上で行なっていたのだ。
ベッドから落ちた時、シュナクが下敷きになって自分を助けたのだとようやく思い至る。
「あ、あ、わわわ、私、ごめんなさ」
急いでシュナクの腹の上から降りようとすると、柔らかく腕を掴まれそっと抱き上げられた。
シュナクは25ノ姫の重みをまったく感じさせずに座り直し、正面に姫を座らせる。
シュナクに抱え上げられたこと。
力強い腕が自分を掴んだこと。
そして、羽毛をつかむような優しさがあったこと。
25ノ姫は自分がシュナクを下敷きにしたことなどすっかり忘れて、胸が高鳴るのをはっきりと感じた。
「あなたが……」
気まずい沈黙を破るように、突然シュナクが口を開いた。
「あなたが謝ることなど何もない」
「シュナク様?」
大きな体に、鋭い眼光。勇ましい傷跡。
古強者を思わせるシュナクの姿が、しかし25ノ姫には何故かとても儚げに感じた。震えて泣いてしまいそうだ、とも。
「名前のことを知らなかったのだ、すまない」
シュナクは、はっきりと25ノ姫に頭を下げた。
「昨日のように乱暴なことは二度としない。だからどうか、俺の妻になってくれないだろうか」
夢の様な申し出に、25ノ姫は震える手をシュナクの手に重ねた。
本編おしまい。
あと一つ、おまけ小話があります。




