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シュナクと25ノ姫 3

 嫌われてしまったのかもしれない。

 いや、きっと嫌われたのだ。


 25ノ姫は自分の他には誰もいないベッドで、足を抱えて座り込んだ。



 昔の思い出に思いを馳せる。

 まだ両国が友好関係にあった頃の話。

 毎年タナトルアから武人を招いて剣舞を披露してもらっていたのだ。

 25ノ姫がはじめてシュナクを見たのは、その演武会で彼が剣を持ち舞う姿だった。

 当時、すでにシュナクは赤い死神と噂されており、他国との間で幾つもの戦に出て功績をあげていた。対して、25ノ姫ははじめて公の場に姫の立場で顔を出したのだ。

 戦場で、血に染まる死神。

 噂を聞いて震えなかったわけではない。けれど、剣の舞を披露するシュナクは強く美しかった。しなやかに伸びる腕も、力強く風を切る剣も、しっかりと大地を踏みつける足さえも、何一つ目が離せない。25ノ姫は、シュナクに見惚れた。


 剣舞が終わり、シュナクが自分の前に頭を垂れた。

「……、お名前を、お聞かせくださいますか?」

「タナトルア軍騎乗隊隊長補佐シュナクにございます」

 震える声で問いかけると、はっきりと太い声が返ってくる。

 ああ、素敵だ、と、25ノ姫は深く感動した。

 この人は、名乗りを上げることに責務と誇りを持っている、と。

 そして、数字の名前しかない自分が、少し恥ずかしかった。



(だから、私は、父王が戦で負け幽閉されても、母が追放になっても、この縁談の話を聞いて密かに喜んだんだ)

 ぎゅっと握る手に力を込めて、25ノ姫は目を閉じる。

 自分のあこがれの人に嫁げると思って、王族としての思いを切り捨てた。

(バチが当たったんだ)

 ぐっと腹に力を込めると、鈍い痛みが現実を思い知らす。

(例え嫁いだとしても、シュナク様は私を妻としては認めてくださらない)

(好きで結婚したんじゃない。あくまで国王の命令で仕方なく私を娶って下さったんだ……。まして、名前も名乗れないような女を、気に入ってくださるはずがない)

 25ノ姫は、今日ほど自分に名前がないことを辛く思ったことはなかった。

 シュナクに嫁げると知り、舞い上がった自分を恥じた。


 ぼんやりと、シーツの先を見ていると、遠くで何かを破壊する音が聞こえてきた。

 音は遠かったが、寝室も少し揺れる。

 何が起こっているんだろう。疑問に思ったが、それを確かめるすべはない。

 ふと、息を吐きだす。

 自分はこの家に嫁いできたけれど、何一つ分かることなどない。これから、どうやって生きていけば良いのか。何をすれば良いのか。シュナクに嫌われて、ここに居続けることはできないかもしれない。

「……っ」

 腹の下の不快な痛みに眉をしかめた。

 それとも、せめてシュナクの満足するように、昨夜のような行為を受け入れれば良いのか。

 辛い。

 25ノ姫は、愛情の欠片もない行為は辛いと思った。


「……、痛むのか?」

「えっ?!」

 突然、降ってきた声に、弾かれたように顔を上げる。

 いつの間に現れたのか、25ノ姫の目の前にシュナクが立っていた。

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