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 その日、謁見の間にウルボアール王国の全ての姫が集められた。

 鉱石の豊富な資源を持つウルボアール王国は、つい二日前、近隣諸国最強の武力を持つと謳われるタナトルア王国との戦闘に全面降伏を行ったばかりだ。


 ウルボアール国王は、王国に全面的に不利な従属条約を締結後生涯幽閉が決定した。

 国王の王妃、側妃24名は修道院へ生涯奉仕か国外追放。

 国王には、息子はいない。

 最後に、国王の血を引く姫たちの処遇が今まさに伝えられるところだった。


 普段は統率された近衛兵が守る、厳粛な謁見の間。

 しかし、今は姫たちのざわめきであふれている。

 それもそのはずで、何と国王は38名も姫を産ませたのだ。


「静粛にっ」

 真紅のマントを纏ったタナトルアの使者が声を張り上げた。

 途端、波を打ったように静寂が広がる。


「ここに集まりいただいた姫様達には、現時点をもって王族の権利を剥奪。我が国の未婚の軍属の者へと嫁いでもらう。あなた方と同じ数の軍人を用意している。誰に嫁ぐかは、あなた方で解決してもらいたい。これは、我が国王の寛大な配慮である」


 誰が身罷っても代わりはいくらでもいる、と、誰彼に揶揄されてきた姫達は、それでも王族としての教育を受けていたので、タナトルアの使者の言葉を一人一人が冷静に拝聴した。

 使者が壇上から消えても、数秒は静かに控えた。


 その後、自分達の夫となると言う軍人の名前やプロイールが書かれたリストが配布され……、謁見の間は騒然となった。


「なんですって? 我が国を蹂躙した輩に、嫁げと?!」

 一ノ姫はわなわなと口を震わせ、怒りをあらわにした。


「まぁ、でも、わたくし達はどうせ政略結婚しかなかったわけですし」

 二ノ姫は全てを諦めたように涙を流した。


「皆さん、例えこの国を離れても、ウルボアールの誇りを胸に抱き続けましょう」

 三ノ姫は両手を胸の前で組み神に祈りを捧げ続けた。


 ちなみに、この三人の姫は生まれた年も月も同じ。その次の月に生まれたのは三人の姫で、同じ年に生まれた姫は12人に上る。とにかく、王妃、側妃が懐妊し続けたので、姫達の名前もおざなりだ。生まれた順に、数字がふられているだけなのだ。一応、然るべき結婚相手が見つかれば改名、と言う形で、王から名前をもらうことになっていた。

 今となっては、名前を与えるはずの王はおらず、皆、数字の名前の姫になってしまった。


「あ、ところで、お相手の方は早い者勝ちですわね? 恨みっこなしですよ?」

 誰かが声を上げ、皆、はっと息を呑んだ。


「皆さん、落ち着きましょう? 平和的に話しあって、ね?」

「そうですわ、私達、仲睦まじい姉妹じゃないですか」

 皆、その意見に賛成するように頷いた。

 しかし、誰も笑っていない。

 むしろ、隣にいる者たちと少しずつ距離を取りながら、お互いを牽制し始める。


 どうせなら、少しでも条件の良い人が良い。

 どうせなら、少しでも自分好みの人がいい。


 お互いの心の中を探りあいながら、姫達は火花をちらし始めた。


 とはいえ、38名もいたら、中には変わり者の姫もいる。

 他の誰も指名しなかった軍人を、一人選んだ姫がいた。


「あ、あなたは、本当にその人でいいのね?」

「もちろんです、姉様方」

「そ、そう。まぁ、本人がそういうのなら、いいのよ」

「ありがとうございます、大満足です」

「……、そうね、よかったわね」

「はいっ」

 25ノ姫は、自分の選んだ軍人をたいそう気に入ったようだ。

 しかし、その場にいた姫達は、奇妙なものを見る目で25ノ姫を見たのだった。

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