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56 ヤキモチ

 王妃宮に戻ったレイジーナは自室で(あたた)かいお茶を飲んでいた。


『前世の記憶が役に立ってよかったわ。これならアランディルスもフローエラも安心でしょう』


 メリンダの男爵家をいずれ侯爵にする知識は前世の記憶を使った作戦である。


 それの中では、アランディルスとメリンダはすぐには結婚は認められず、アランディルスの正妃選びが始まった。メリンダは側妃になるための勉強を王城ですることになり、そこでとある資料を目にし、数年前の流行り病の薬は運輸大臣たちが手配したことになっていることに気が付いたため、アランディルスに相談した。運輸大臣たちはメリンダとアランディルスの活躍により様々な悪事が暴露され失脚した。法務大臣はメリンダの存在に危険を感じメリンダ殺害を企て、それが露見して失脚する。

 メリンダが優秀であるのは、一族が薬師(くすし)という家系であるからだ。

 アランディルスはメリンダの父親を伯爵にするために王家直轄領を報奨(ほうしょう)として割譲(かつじょう)する。その土地は飢饉(ききん)での貧困によって爵位を返上した数家の男爵の土地である。男爵たちは当然無一文で平民になった。


 レイジーナはその男爵たちから通常の倍の値段でその領地を買い取り男爵たちに感謝をされながら土地を取得していった。飢饉(ききん)は自然災害であるし、元々男爵領は裕福ではないことが多いので備蓄もできず、貧困を避けることはできなかった。

 土地の名義はニルネスの子爵家で、本当は領地の広さから伯爵位になれるのだが、目立ちたくないニルネスは子爵位のままにした。


 だが、レイジーナの予想よりずっと早くにメリンダの父親が伯爵から侯爵に陞爵(しょうしゃく)することになる。アランディルスが王位に就くよりも前に薬務局ができたのは国王の力があってこそだ。こういう形でも国王は「アランディルスを守る」という約束を守っていくのであった。


 男爵に土地を譲渡する以前、侯爵子息というだけでなく裕福な子爵であるニルネスは書類上の妻がいることは内密にされていた。にも関わらず、縁談が来なくなっていたのは「男色家」という噂が立っていたためである。


「ニルネスの性癖が国王と同じだとは気が付かなかったわ。そっとしておいてあげましょう」


 まさかその噂はニルネス本人が流したものだとレイジーナが知るよしもない。またしても斜め上の恋愛脳を発揮したレイジーナにガレンは困り顔で微笑んだ。


 さて時系列を戻し、レイジーナがメリンダの父親を呼んだ夜、王妃宮の中庭から人影が現れた。涼し気な笑顔は今日はどことなく淋しそうに見える。


「ルネ。何かあった?」


 レイジーナが気がついてくれたことが嬉しくて、顔を(ほころ)ばせて(かぶり)を振り、飄々(ひょうひょう)とした態度でレイジーナの反対側に座った。気を利かせたガレンが赤ワインの入ったワイングラスを置く。それをツッと手前に引いた。


「特には。そういえば今日は随分と(たく)ましい男前の方と会談であったそうですね」


「ええ。彼がアランディルスの義父になるために手助けしたの」


「義父!? それってもしやっ! そのための土地購入だったのですか?」


 冷静に見せていた態度を急変させ、レイジーナは驚いていた。


「そうよ。人命を救うために薬学は大切なことなの。その後押しをしたいって言ったら賛成してくれたでしょう?」


「ですが、レジー様とその者との婚姻は聞いておりません!」


「婚姻!? わたくしが? 馬鹿なこと言わないで。ディとメリンダが将来結婚するかもしれないって話よ。もし、しなかったとしても薬師(くすし)一族に土地を持たせるのはいいことなの」


「え? 王子殿下の?」


「そう説明したでしょう」


「すみません。土地の取得は随分と前だったので忘れていました。王子殿下には学園で出会いがあるかもしれないというお話でしたね」


「ええ。その出会いがあったの。それより、そんな情報も得ていないなんて、最近、本当に忙しいみたいね」


「王子殿下とローラ様のことはレジー様にお任せしておけば心配はありませんでしたので。それより、その出会いがあったということは、レジー様とローラ様が国外へ行かれる計画になりそうなのですか?」


「ええ。その時にはわたくしの預金を使うけど許してね」


「そうか。なんとかギリギリ間に合ったかな」


 ニルネスはレイジーナの話を聞かずに(うつむ)いてブツブツと口にする。



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