53 愛の形
「ですが、母上。僕がローラを選ばなかったらローラはどうなるのですか? レイジーナの父親やレイジーナの兄がそれを赦すと思いますか? 僕はお二人に会うたびに「フローエラと婚姻を」と言われます。それを叶えなかった時に、僕ではなくローラに向かう悪意が怖い。それでローラが傷つけられることが怖い。ローラは可愛いくて愛おしい妹なのです!
ローラを家族を守れるなら、僕は恋心に蓋はできます」
「そうね。まるで売られるようにどこかに嫁がされるでしょう」
「そんなのダメだ!」
アランディルスは唇を噛み締める。
「ふぐっ……」
衝立の奥から涙声が漏れ聞こえアランディルスはびっくりして振り返った。
「出ておいで」
レイジーナが柔らかに声をかけるとエクアに両肩を支えられたフローエラが出てきた。アランディルスは慌てて駆け寄る。
「ごめんね。ローラ。君を嫌っているんじゃないんだ。大丈夫。僕とローラなら一緒に頑張れるよ」
アランディルスは「妹」と言われたことに泣いていると思い、懸命に言葉を紡いだ。
「違います。お兄様に「妹」と言っていただけて嬉しくて。わたくしのためにって思ってくださることが嬉しくて……」
涙が止まらないフローエラをアランディルスは優しく抱きしめた。
「そんなの当たり前だろう。だから、形を変えて家族になろう。もう誰にも何も言われないように」
アランディルスはフローエラが陰口の対象になっていることはわかっている。それは嫉妬も含まれたものではあるがフローエラが全く傷つかないわけではない。
だが、フローエラは頭を振った。
「それはできません」
「二人とも、とにかくお座りなさい。ガレン。冷たい紅茶をお願い」
「かしこまりました」
アランディルスはエクアに代わりフローエラを支えて歩きソファに並んで座った。ガレンとエクアが淹れてくれた紅茶を飲んで一息つく。
「ディ。貴方の考えはとても立派だわ。でも、貴方の心を捨てさせたことはローラの心にずっと残る。それでいいと思う?」
アランディルスが驚いて隣に座るフローエラを見るとレイジーナの言葉が本当であると示すようにしょぼくれていた。
「お兄様がメリンダを好きになってくれたことはとても嬉しいです。それなのにわたくしが足枷となり結ばれないなど……そんなお二人のお姿は見たくはございません。うっうっう」
フローエラはハンカチを握りしめて深く俯いた。
「ディ。ローラの気持ちはわかったわね」
「はい………………僕が浅はかでした。すみません」
「謝ることではないわ。わたくしは貴方が自分より周りの者たちを慮ることができる男になってくれてとっても嬉しい。その優しさはどのような立場になっても忘れてはだめよ」
アランディルスは目を伏せながらも首肯した。
「でもね、為政者になるためには優しさだけじゃだめ。何かを諦めたり、排除したりする覚悟も時には必要だわ。だから貴方が「自分の気持ちを捨てる」と判断したことはある意味では正解」
キョトンとしたアランディルスと目が合うとレイジーナは慈愛の溢れる笑顔を見せた。
「貴方にはわたくしとフローエラを捨ててもらいます」
ガタンとテーブルに手を突いて立ち上がった。
「そんなの無理です! いやです! なぜそうなるのですか?」
「落ち着きなさい」
アランディルスの乳母ソフィアナがアランディルスの膝下に跪きと目が合うとレイジーナは慈愛の宥めるとやっと腰を置いた。
「簡単なことよ。貴方もわかっているでしょう? ローラはこの国にいてはどんな形であっても幸せになれないの」
「レジー様。わたくしは大丈夫です。どんな殿方に嫁ごうともそれでお兄様をお支えする一つになれるのでしたら頑張れます」
「ローラ。君がそこまで苦労する必要はないんだ。公爵夫妻が君にまともな縁談を用意するとは思えない。特に夫人は弟たちより貶たいと思っているに違いない。だから僕と結婚しよう。王家なら公爵家からも守れる。メリンダが幸せになれるよう取り計らうと約束する。僕と君で国の中枢の再建をしていこう」
「お金を使って地位を使って腐食させているのは我が公爵家も同じ。わたくしが王都を離れる時には少しは力を削いでいきます。そうすれば、お兄様に余計な親族の邪魔はありません」
国王の傍系はすでに力を失い小さな領地を守る男爵家ばかりになっている。レイジーナの公爵家傍系は公爵家に頼りっぱなしで公爵家が衰退すれば共に落ちることは必定である。
「そういうことではないんだ……」
泣きそうな顔のアランディルスはフローエラの膝に手を置いた。




