27 侍女見習い
実兄公爵が念を押そうと目を細めるとほぼ同時にレイジーナがパンと一つ手を打った。
「よい考えがございますわ。その子をわたくしの侍女見習いにいたします」
「っっ! は?」
「是非そうしましょう! 早速お部屋を準備してちょうだい」
レイジーナは自分の考えにさも大賛成だと大きく頷き満面の笑みを作る。
「「かしこまりました」」
実兄公爵が茫然としている間にレイジーナがにこやかに指示を出し、ガレンとソフィアナが笑顔で返事をし、ソフィアナが動き出す。
「まままま待て!」
ピタリと止まりゆっくりと振り向いたソフィアナの顔は笑顔が消えていて、それはレイジーナもガレンも同様である。それを見た実兄公爵はたじろいだ。
「待て? 妃殿下のご指示ですのに……?」
「ソフィアナ。落ち着きなさい」
「ガレン。わたくしなら大丈夫よ」
三人が無表情で言葉を交わすのでその場の空気はさらに冷ややかになる。
「し、失礼しました。お待ちください」
三人が強張らせていたのをほんの少しだけ緩めたので実兄公爵はホッと肩を撫で下ろす。
「公爵。何か問題でもありますか?」
「妃殿下。俺、いえ、私の娘を侍女にしたいわけではなく、王太子の嫁と考えているのです」
「ええ。わかっておりますわ。ですが、現時点でそれを確定させることは不可能であることは説明いたしましたわ」
「でしたら、なぜ侍女見習いなのですか?」
「あら? 公爵が申したのでしょう? わたくしが推している令嬢であると表明してほしいと」
「え?」
「わたくしの気に入る者しかわたくしのそばに置かないことはすでに南離宮の頃から有名だと聞いています。ならばこれは表明していることになるでしょう」
「な……るほど?」
「それにここにいればアランディルスとの接点を持つことも容易い。アランディルスと交友を深め、気に入られれば、最終的にアランディルスの気持ちを優先させるとなったら優位だと思いますけど?」
「なるほど!!」
実兄公爵は満面の笑みとなる。
「納得したのでしたら、本日の午後に連れてきなさい」
いつの間にか命令口調になっているレイジーナであったが今のレイジーナの佇まいや雰囲気と違和感がないので実兄公爵はその態度をすんなりと受け入れた。
「今日? ですか……。わかりました。早速支度をさせます」
「まずは数日分でいいわ。後日、残りの荷物を送ってちょうだい」
「はい! お持ちします」
「いえ、送ってちょうだい」
「は?」
「公爵が直接来ても会う時間はわたくしにはないわ。だから、公爵が直々に来ることは控えてちょうだいっ」
最後は語尾強く命令口調を際立たせて立ち上がり、実兄公爵の返事を待たずに裾を翻した。ガレンを伴い部屋を出ていく。
実兄公爵はそれを茫然と見送った。
「妃殿下は午後もお忙しいお体ですので、ご令嬢だけの参内で問題ございません。今後とも謁見はお控えください。申請されましても受理されることはないとお覚悟ください。では、わたくしも部屋の支度がございますので」
ソフィアナがわざとらしく頭を下げてくるりとドアへ向き出ていくと、ソフィアナに指示された護衛騎士が入室してきて呆けている実兄公爵を立たせて連れて行くと馬車へ押し込んだ。
「あれがレイジーナ? 父や俺の顔色をビクビクと窺っていた人形? 王宮生活があそこまで傲慢にさせるのか? いや、父が相手なら違っていただろう。チキショウ……。俺を舐めやがって。フローエラが王妃になったらすぐに追い出してやるっ!
何もしない人形王妃のくせにっ!」
我に返った実兄公爵は馬車内の椅子の背もたれをバンバン叩いて苛立ちを表していた。
『こりゃ、八つ当たりされたらたまらんぞ。とっとと離れよう』
『降りたら休憩に入ろう!』
御者と御者の脇に座る執事は公爵邸に着いた時の動きを決めている。館で待つ執事たちはそんなことを知らないため、まんまとはけ口にされてしまった。




