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26 婚約者候補

 レイジーナがすげなく立ち去ろうとしたことに実兄公爵は慌てた。十年前までの全てのことに頷き人形のようであったレイジーナの面影はない。まさか自分が無視されるように立ち上がるとは思わなかった。


『くっそ! 王家に嫁いだからといってここまで傲慢になるとはな。もっと会いに行って己の立場を理解させればよかった』


 奥歯を噛み悔しさを紛らわし、目だけは垂らしてレイジーナのご機嫌伺いをする。


「まあ、お待ち下さい。妃殿下。父や母の話ではなく、王子殿下のお話をしたいのですよ」


 ようやく下手(したて)に出てヘラヘラと笑う実兄公爵に(さげす)む瞳を隠さないレイジーナははあとわざと大きく嘆息してもう一度座った。


「身内の内々の話をしたいのですがね」


 媚を売るように言うと周りをチラチラと見る。


「ガレンとソフィアナ以外は廊下で待機してちょうだい」


「「「かしこまりました」」」


 実兄公爵はレイジーナの後ろに立つ二人も退室してほしそうな顔をする。


「二人はわたくしに古くから仕える侍女なので問題ございません。それに、わたくしは身分の問題で例え家族であっても殿方と二人になることは許されません。お帰りになられますか?」


 レイジーナの(かたく)なな態度に実兄公爵はゴクリと喉を鳴らして二人のことは諦めた。


「王室のしきたりはわかりました」


 他の者達が話の聞こえないところまで行ったことを視認すると前のめりになる。


「妃殿下はお忙しいようですので、率直にお話します。我が娘フローエラを王子殿下の婚約者にしていただきたいのです」


 予想できていた話にレイジーナが動揺することはなかったが、それに慌てた実兄公爵はまくし立てるように「公爵家にとって大事なことで王家にも損はない」という話をするが、レイジーナの表情は全く変わらず、全く返事もせず、お茶を飲むことさえしなかった。


『ちきしょう。結局人形じゃないか。だが冷めた目の人形だ。どうせ人形なら頷き人形になりやがれ』


 これまでレイジーナを小馬鹿にしていたということではあるのだが、さすがに百戦錬磨のたぬきたちと様々なパーティーで戦っているだけあって、相手を舐めていなければ感情を隠すことに長けている。特に王城での役職を持つつもりのない公爵家は社交だけで世渡りしていると言っても過言ではない。女を王族に捧げるのも社交の一つだと思っていて、過去には次女や三女は王宮の高級侍女にしてきた。


「妃殿下はフローエラを婚約者にすることに反対なのですか? ご心配には及びませんよ。フローエラはとても従順で控えめで、おとなしく温厚で、感情をむき出しにするようなはしたないことはしませんし、マナーなどは学ばせておりますから社交の場でも邪魔になりません。王族に従うべく育てて参りましたのでまさに相応しい王妃になると確信しております」


 フローエラを育てた自分に酔いしれ、舞台役者を思わせるほど雄弁に鼻高々に踏ん反り返って語る実兄公爵はレイジーナの手が真っ白になるほど握られていることに目がいかない。

 レイジーナは実兄公爵にわからないくらいに鼻でゆっくりと息を吐いて自分を落ち着かせる。

 レイジーナは「従順」とか「邪魔にならない」とかと聞くたびに眉間を微妙にピクリとさせていた。そこ以外を動かさずに無表情で口を開く。


「しかし、王家の決まりで王子が十七歳になるまでは婚約者を決めないことになっています」


 傀儡(かいらい)王家であるため王妃教育など必要ではなく王子が十七歳で婚約、十八歳で婚姻という流れになっている。

 

「ええ、ええ、もちろん存じております」


 やっと反応を示したレイジーナに興奮して前のめりになった実兄公爵は手を揉みしだいていて口角を思いっ切り上げている。


「ですが、妃殿下から推薦だと公言していただければそれだけでも牽制になります!」


「そう……。だけど……他の公爵家侯爵家との繋がりを求めているわ」


 さも国王の意見だと示唆させるような口ぶりであるレイジーナであるが、そのような話を国王としたことなどあるわけがないし、国王の意見だと明言していない。だが、自分の公爵家が代々女児を従順な人形にしてきていることを理解している実兄公爵は『レイジーナ人形は国王の意見をただ口にしていて、自分の意見のはずがない』と解釈する。


「なんとかならんものですかねぇ……」


 レイジーナがさも考えていそうな雰囲気だったので実兄公爵はその様子を見て待った。


『何も考えられぬくせに、なんとも姑息にはなったものだ。魔窟王宮は人形にも多少の知恵を与えるようだ。だが、タイミングを見てもう一度押せば俺のいうことは聞くだろう』


 ほくそ笑む姿を侍女たちに冷たく見られていることに気が付かない実兄公爵にとって、使用人とは壁や窓と同等の扱いなのであった。

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