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10/57

10 罰

「ナーシャリーの服、可愛らしいわ。新デザイン?」


 椅子に座ると早速おしゃべりに華が咲く。


「ええそうよ。デザイナーたちがナーシャリーをモデルにしてよく考えてくれるの」


「ええ。以前よりデザインが断然に可愛らしいわ。きっと実物を見て作ると違うのよ。事業が順調で喜ばしいことね」


「レジーのアイディアのおかげよ」


「九年でここまで大きくなったのはモリーの力でしょう。わたくしも出資者として恩恵をありがたく思っているわ」


「レジーに頼まれた時は不安だったけど、やってみてよかったって思っているわ」


「まあ! あれほど無料(ただ)だから気にするなって言ったのに不安だったの?」


「それはそうよ。事業を手掛けるなんてしたことなかったもの」


「わたくしはモリーはセンスがいいから大丈夫だって思っていたわ」


 ふふんと笑うレイジーナにモニエリーカは呆れたと笑いの含むため息を吐いた。


 ★★★


 レイジーナが南離宮に入ってから一ヶ月が過ぎた頃、監査局副局長ニルネスが荷馬車を引き連れてやってきた。荷馬車の荷物を降ろさせると少数の護衛を残して帰させる。


 玄関に山積みにされた荷物にレイジーナは眉を寄せ、挨拶もせずに口を出す。


「ニルネス卿。これは何です?」


「妃殿下。本日もたいへんに麗しく……」


 (ひざまず)き手に口付けするかのような仕草をする姿はまさに貴公子である。


「それより、これは何?」


 スッと立ち上がりレイジーナに並ぶように立つと両手を広げた。


「これらは妃殿下の財産です」


 絵画や家具や宝石箱が並んでいる。


「……は?」


「罪人たちは横領と横流し並びに窃盗として全員を強制労働所へ送還しました。任期はそれぞれの罪状金額によって異なります」


「なら、こうして物品で少しでも返却できた者はラッキーね。高級ワインも高級ステーキも返却不能ですものね」


 (てのひら)を上にしてパフォーマンスするレイジーナの姿を見てとても楽しげにクスクスと笑った。王妃宮でさも高官らしく憎たらしい笑いをしていた様子とは全く異なる姿を見せている。


『こんなに可愛らしい笑い方もできるのね』


 レイジーナはその姿に険のあった表情を緩めた。


「ですが、飲み食いだけでなく、売って現金にしたりもしていますので、送還を免れた者はいません」


「甘い汁を我慢なんてできなかったのね。ましてやそこにいる皆がやっているのだから」


「ええ。実際に横領を拒否した者たちは退職しています。させられた、と言うべきでしょうか」


「え! それは大変! その中で現状に不満を持っている者は全員ここで雇用するわ」


「かしこまりました。連絡してみます。私の紹介状を付けてこちらへ来るように手配いたします」


「それはわかりやすいわね。お願いするわ」


「ふふふふふ。ならば再雇用支度金も罪人たちに上乗せしておきましょう」


「ニルネス卿……。ものすごく悪い顔をして笑っているわよ」


「それはしかたありません。罪人は好みませんから」


 今度は優しげな笑顔だ。だが、コロコロと顔を変えるニルネスに悪い印象を持つことはなかった。

  

『強制労働所へ行き、出てきても紹介状がないとなると、ロクな仕事に就けないわね。少しでもレイの敵討ちになったかしら』


「あの革袋は現金? 彼らがそんなに持っていたとは思えないけど?」


 山のように積まれた革袋を呆れ顔で見つめる。


「強制労働所に入る際に前払いとして国から支出する形をとりました」


「それは保証人が必要でしょう?」


 返済途中で怪我や死亡もありえるため保証人無しでは使えない制度である。


「王妃宮で働いていたのですから、全員が貴族です、「元」ですけど。ですから保証人には困りません」


「それでも、即時離籍させて無関係と言う家もあったでしょう?」


「はっはっは! そのようなことは私が許しません。離縁と罪状に無関係は別問題です。無関係としたいなら保証の二倍金の支払いを命じました。それに応じた家もいくつかあります」


「なら、その者は労働を免れたのね?」


「いえ、家族に二倍請求されて労働所行きです」


「…………むごいわ。わたくしが言えた義理ではないけれど」


「いえいえ、妃殿下は実際に被害を受けたのですから当然の権利です。家族はまだ被害を受けていないのに、無理矢理なすりつけて増額ですから、本人もクズなら家族も鬼畜ですね」


 レイジーナはゴクリと喉を鳴らした。


『もし、わたくしが罪人の立場なら……、あの人たちはきっと二倍請求にしたわね……』


 公爵と小公爵がニタリと笑う姿を想像してブルリと震える。


「ちなみに、元メイド長は勤労三十年、元執事長は勤労五十年です」


「無理でしょう……」


「減額にしてそれですよ。二人が横領した金銭は二人の実家へ渡っていました。ですから、実家から取り立てることで減額したのです。そちらには無関係としたいなら保証金の三倍を請求しました。急いで保証人欄にサインしておりましたよ」


『彼らが横領した金額もさることながら、強制労働所の給与がそれほど低いということなのでしょうね。生きて出てこれるとは思えないわ』


 レイジーナは潤滑クリームを忌々しげに塗っていた元メイド長と鼻高々に横領していた元執事長を思い浮かべたが、同情する気持ちにはならなかった。

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