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第75話「覇王、迷宮を探索する」

 旅商人のメネスは、辺境とキトル太守領の地図を見せてくれた。

 雑な地図だ。はっきり書かれているのは街道だけで、その他は適当な印がついているだけ。

 その印をいくつか指さして、旅商人のメネスは「ここが旅商人の休憩所(きゅうけいじょ)です」と言った。


「『旅商人の休憩所(きゅうけいじょ)』は、辺境に1カ所。キトル太守領に2カ所あります。もっとも、自分たちが使うのは入り口だけで、奥には行ったことがありません」

「魔物が出るからか」

「はい。入り口近くなら魔物は来ません。火を焚いていれば、警戒して出てこないようです」

「そこが遺跡だと?」

「そうですね。奥の方に柱が見えましたから」

「魔物がいなくなれば、旅商人はそこを拠点(きょてん)にできるわけだ」


 俺の言葉に、旅商人のメネスはうなずいた。


「我々が求めているのは、安心して休める場所です。それを与えてくださるのであれば、旅商人一同は、『辺境の王』のための情報源ともなりましょう」

「わかった。情報にあった場所について、こちらでも調べてみよう」


 俺はその場で『旅商人の休憩所(きゅうけいじょ)』の場所をメモした。

 旅商人メネスには、次回から交易所にスペースを確保することを約束して、別れた。






 夕方。

 村に戻った俺たちは打ち合わせをすることにした。


「兄さまはこうなることを予想していたんですね!」

「だから交易所を作ったんだね。兄上さま!」


 リゼットとハルカは興奮した声をあげた。


「乱世ならば、各地をめぐる旅商人がいるはず。しかし彼らは町で差別されている。だから交易所を作れば、彼らを味方につけることができて、その情報網を我々の助けにすることができる。ショーマ兄さまが、そこまで考えていたなんて……」

「ないない」

「……わかりました。そういうことにしておきます」


 それより重要なのは、この場所に竜帝の遺跡があるかどうかだ。

 これは実際に行って確認するしかない。


「俺は近場の『休憩所』の調査に行くつもりだ。その間は留守にするから、リゼットに留守番を頼みたい」

「リゼットはご一緒できないんですか!?」

「俺の代理として残ってくれ。リゼットなら大抵のことには対応できるだろ」

「……わかりました。そういうことでしたら、お役目を果たします」

「頼む」


 この中ではリゼットが一番の常識人だ。

 彼女なら、シルヴィア姫から使いが来ても対応できると思う。


「『旅商人の休憩所』には魔物がいるはずだ。だから、ハルカとユキノには戦闘要員としてつきあってもらう。プリムは知識を活かして、俺たちをサポートしてくれ」 

「うん。ボクは兄上さまについていくよ」

「洞窟……つまり、ダンジョン攻略ですね! あたしに任せてください!!」


 ハルカとユキノはうなずいた。

 プリムは少し考えてから、


「目標の『休憩所』は結界の外です。『意思の兵』も長時間は使えません。王は、どのような作戦をお考えですか?」

「考えてある。軍師の意見を聞かせてくれ」

「うれしいことをおっしゃいますね。王はわたくしの使い方が上手すぎませんか?」


 にやりと笑うプリムに、俺は作戦を伝えた。

 プリムがそれに賛成し、アレンジを加える。

 さらにリゼット、ハルカ、ユキノの意見も取り入れて、作戦は決まった。


 作戦開始は、数日後。

 それまでに準備を整えておこう。







 数日後。

 俺たちは旅商人メネスが教えてくれた『旅商人の休憩所(きゅうけいじょ)』に来ていた。

 場所は、辺境とキトル太守領の境界付近。

 森に隠れた、小さな洞窟だった。


 地図を頼りにやってくると、岩壁に空いた横穴を見つけた。

 木々に覆われた岩壁の一部に、人が数人並んで通れるような横穴が空いていた。中に入ると、たき火の跡が残っていた。交易所に来る前にメネスが泊まったのだろう。


「奥には柱があるよ。たぶん、これは人が作ったものだね……」

「おそらくは遺跡で間違いございません。壁も、(こけ)むしてはいますが、人工物です」


 先に進んだハルカとプリムは、興味深そうにまわりを見ていた。

 自然の洞窟なのは入り口だけで、数メートル進むと人工的な通路に変わる。

 天上の高さは3メートル弱。柱はボロボロだけど、きれいな装飾がまだ残っている。


「柱のかたちは、初代竜帝時代のもので間違いなさそうですね。柱の下を丸く装飾するのが、当時の流行でしたから。それでいて盗掘された形跡がございません。魔物が中で巣を作ったことが、逆に遺跡を守ることにも繋がったのですね」

「すげぇなプリム」

「いえいえ。王がいなければ役にも立たない知識です」


 プリムは照れたように頭を()いた。


「魔物が外に出てこないということは、他に出口があるのかもしれません。横穴に注意して進みましょう」

「わかった」


 通路を先に進むと、両開きの扉があった。重い。俺とハルカの2人がかりでやっと開いた。

 扉の先は階段。1フロア分降りると、その先は人工的な通路だった。


「本格的な地下遺跡って感じだな」

「王はこの施設について、どのようにお考えですか?」

「『竜脈』を地上に引っ張り出すためのもの、ってのはどうだ?」


 初代竜帝は、土地を流れる魔力を利用して『結界(けっかい)』を張っていた。

 だけど、それが常に地上近くを流れているとは限らない。


「たとえば岩山の下や、地下深くを流れている魔力を引っ張り出すために、この地下通路を造ったという可能性はどうだろう?」

「魔力を掘り出すための井戸ということでしょうか?」


 プリムは考え込むように首をかしげた。


「ありえますね。この施設が忘れ去られていた説明もつきます。『竜脈』スキルを持たない者には、ここはなんの意味もないのですから」

「しっ。ふたりとも、魔物がいるよ」


 ハルカの指示で、俺たちは足を止めた。

 耳をすますと、右の通路から、(うな)り声のようなものが聞こえた。


「おります。王よ。この鼻息は、ダークバッファローかと思われます」

「よくわかるねプリムちゃん」

「風の流れを読むのはハーピーの必須技能です」


 そういえばプリムはハーピーだったっけ。


「プリム。敵の数はわかるか!?」

「2体です。すでにこちらに気づいております。ご注意を!」

「来るよ! 闇の猛牛。『ダークバッファロー』だよ!」


 T字路の通路の先に、漆黒(しっこく)の牛がいた。

 体毛はすべて黒。巨大な角があり、目が血のように赤い、口からは火炎まじりの息を吐いている。





挿絵(By みてみん)





『グゥオオオオオオオアアア!』

「来ました! 王よ。迎撃のご用意を!」

「ユキノ! 魔法の準備を! ハルカも武器を構えて!」

「詠唱は完了してます! ショーマさん!」

「ボクの方も大丈夫!」

了解(りょうかい)! 解放『王の器』!!」


 俺は『王の器』から『意思の兵』を取り出した。

 横に置いた。


 通路がふさがった。


『グォオオオオオオオァ!?』



 ドゴォオオオオオオン!!





挿絵(By みてみん)





 勢いよく突進してきた『ダークバッファロー』が『意思の兵』に激突した。


「ユキノ、魔法を!」

「凍りなさい……。『氷結万針フリージング・コフィン』」


 ユキノが塀に触れながら、魔法を発動させる。

 氷の線が、蜘蛛の糸のように広がっていく。それは壁を伝わり、反対側まで伸びて──



『ギィヤアアアアアア!!』



 壁にくっついている『ダークバッファロー』を凍らせた、らしい。

 俺たちは、そのまま20秒、待機。


「そろそろいいかな。『王の器』に戻れ『意思の兵』」

『ヘイッ』


 俺は(へい)を、収納スキルに戻した。

 塀の向こうにいた『ダークバッファロー』は……おお、見事に凍ってる。2体とも凍り付いて、毛皮と肉が貼り付いてる。一部だけ氷が剥がれてるのは、『意思の兵』にくっついてた部分だ。収納したときにむりやり剥がれたんだろうな。すげぇ痛そうだ。


『…………グルゥ……オォ』


「ハルカ、とどめを」

「必殺! 『無尽槌(むじんつい)』!!」


 ハルカの棍棒(こんぼう) (強化(エンチャント)済み)が『ダークバッファロー』を吹き飛ばした。

『意思の兵』を使ったことで王の魔力は……5%減っただけか。

 30%減ったら休憩しよう。


「……ショーマさん」

「どうした、ユキノ」

「あたしたちが転生したのが、迷宮都市とかだったら……一発クリアでしたね」

「そうか?」

「だってショーマさん、ダンジョンを支配しちゃってるじゃないですか」

「ボクもそう思うよ。兄上さま、通路のかたちを変えちゃってるもん。魔物だって困るよ……」

「そういう作戦だからな」


 それに基本のアイディアは俺だけど、リゼットとプリムのアレンジも入ってる。

 作戦はシンプルだ。

 魔物が来たら、ぎりぎりまで引きつけて『意思の兵』で通路をふさぐ。

 その後、ユキノの氷魔法で相手の動きを止めて、俺かハルカがとどめを刺す。

 それだけ。


「迷宮攻略はどうなるかと思いましたが、これなら上手くいきそうですね」

「マッピングは任せるよ、プリム」

承知(しょうち)いたしました」


 それから俺たちは、同じ手で魔物を撃退しながら先に進んだ。

 王の魔力が残り70%になったら休憩して、自然回復を待って──





 3時間くらい進んだところで、俺たちは迷宮の最奥にたどりついたのだった。

いつも「覇王さん」を読んでいただき、ありがとうございます。

もしも、このお話を気に入っていただけたら、ブックマークや評価をいただけるとうれしいです。



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