第113話「辺境での会議と、結婚式の延期計画」
翌日。
俺たちは『ハザマ村』で、緊急の会議を開くことにした。
メンバーは俺とリゼット、ハルカとユキノ、プリム。
『捧竜帝』が近所に来た件について、話をするためだった。
「──というわけで『捧竜帝』クリスティアさまは、『キトル太守家』が保護することになりました」
司会役の軍師プリムは、説明を終えた。
リゼットとユキノは真剣な顔で聞いている。
ハルカはみんなのお茶を淹れ直してる。昨日一緒にいたハルカは、事情を知ってるからね。
「俺は今日、シルヴィアのところで話をすることになってる。その前に、みんなの意見を聞いておきたいんだ」
俺はみんなに向かって、そう言った。
「……竜帝の血を引く方が、すぐ近くに……」
リゼットはおどろいているようだ。
そりゃそうか。リゼットも『捧竜帝』と同じように、初代竜帝の血を引いている。
自分の親戚が近くにいるんだから、気になるよな。
「さすがショーマ兄さまです。シルヴィアさまやキャロル姫さまだけでなく、『捧竜帝』さまとも縁を結んでしまうなんて……」
「いや、今回のは俺のせいじゃないだろ?」
「いえいえ、ショーマ兄さまのお力だと思いますよ?」
「理由は?」
「だって『捧竜帝』さまが『キトル太守家』を頼ったのは、シルヴィアさまのご家族なら守ってくれると思ったからですよね? その『キトル太守家』の当主さまを、トニア=グルトラから救い出したのは兄さまです」
「……そうだけど」
「『キトル太守家』が安定したからこそ、『捧竜帝』さまは彼らを頼る気になったのですよね? つまりショーマ兄さまが『捧竜帝』さまを呼び寄せるきっかけになったと言っても過言ではないと思います」
「いや、それは過言だろ」
……過言だよな?
俺はシルヴィアの家族を助けただけだ。
結果、キャロル姫がお隣さんになり、俺はそれで満足してる。
『捧竜帝』には、一度話を聞きたいとは思っていたけど、それだけだ。
俺が彼女を呼び寄せたとか、まさか……。
「リゼットさまのお話には一理あります」
「プリムまで!?」
「『捧竜帝』さまは我が王を『始祖さまと同じ気配の方』と呼びました。あの方の身体を流れる初代竜帝の血が、同等の力を持つ我が王に反応したと考えることもできましょう」
「確かに、ボクが見たときも、あの子は兄上さまに反応してたもん」
「ハルカさまは『父親を求めるかのよう』とおっしゃってましたね」
「うん。こーやって手を伸ばして……迷子の子どもが、おとうさんを見つけたみたいだったよ」
話しながら、ハルカは俺の手を握った。
いや、力を入れる必要はないだろ。引っ張り寄せる必要もないよね?
でもまぁ、ハルカとプリムの言ってることは正しい。
『捧竜帝』クリスティアは、俺に向かって手を伸ばしてきた。
すがりつくような感じで。
あれがすごく、気になるんだが……。
「それは本人に会ってから、改めて確認しよう」
俺はみんなに向けて言った。
「それと、これから俺たちは『キトル太守領』の南方にある魔法陣を復活させることになる。『捧竜帝』を『十賢者』が取り返しに来たときのために、防御を固めておきたい。シルヴィアのところから戻って来たら、すぐに動けるようにしておいて欲しいんだ」
「わかりました兄さま」「お任せだよ」「ふふっ。真の主さまの領地が増えるのですね」「戦術を考えておきます」
リゼット、ハルカ、ユキノ、プリムがうなずいた。
「悪い。ハルカ、ユキノ。結婚式は少し延期させてくれ。魔法陣を復活させて俺の考える防御作戦が完成したら、すぐに式をあげるから」
「……しょうがないね。ボク、我慢するよ」
「あたしもわかりました。でも……」
ハルカは渋々と、ユキノは……なぜか不敵な笑みを浮かべながら、うなずいた。
「では、延期する分だけ、結婚式をアレンジしてもいいですか?」
「結婚式をアレンジ?」
「はい。時間ができましたから、異世界人である、あたしとショーマさんにふさわしい式にアレンジしたいんです」
「……うん。構わないけど」
「ありがとうございます!」
「ユキノさん、どんな感じにアレンジするの? ボクにも教えて!」
「はい。ではのちほど……こっそりと」
「いっそ合同結婚式にしようか?」
「そ、それは……式のあとのことを考えると恥ずかしいかな……」
「……? じゃあ、あとで相談しようよ」
ぼそぼそぼそっ。
額をくっつけて話し合うハルカとユキノ。
……なんだか不穏な感じがするけど……それはさておき。
「シルヴィアのところで、もしかしたら『捧竜帝』に会うかもしれない。リゼットもついてきてくれ」
「は、はい。ショーマ兄さま」
「同じ竜帝の血筋だからな。側にいれば、『捧竜帝』クリスティアも安心するかもしれない」
それから俺は、プリムの方を見た。
「今後についてだけど、俺は『十賢者』が『捧竜帝』を取り返すために軍を起こすと思ってる。プリムの意見は?」
「同意見です。ただ、向こうは陛下に逃げられたことを表沙汰にしたくはないはずです。自分たちを支える権威が失われたわけですからね。なので、少数精鋭で攻めてくると思われます」
「他の領主に呼びかけて連合軍で……ってことはないか」
「ですね。他の領主に弱みを見せることになりますから」
「逆に『キトル太守』の方は、『捧竜帝』クリスティアが逃げてきたことと、彼女を『十賢者』が迫害してたことを、他の領主に呼びかける、ってとこかな」
「はい。最終的には陛下を押し立て、王都の『十賢者』を排除することまで考えていると思います」
「問題は『捧竜帝』……クリスティアが、王都に戻ることを望むかどうか、か」
クリスティアは、小さな女の子だった。
その年齢で、皇帝としての権力もなく、『十賢者』に利用されてきたらしい。
味方といえば、彼女を守る宮女や女官さんたちだけ。
その人たちの助けを借りて、やっと出てきた王都だ。戻りたいと思うだろうか……?
もうひとつ気になるのは、女神ネメシスに遣わされた転生者がどう出るかだ。
女神ネメシスは『十賢者』を利用する方針らしいからな。
その計画がこわれたとき、どう出るか……これも予想ができない。
「まぁ、俺の方は『キトル太守領』……というか、シルヴィアを支援するだけだ。辺境のおとなりさんとしては、シルヴィアの実家以上の相手はいないからな」
「せっかく仲良くなったんですから、守らないと」
「『キトル太守領』のひとたちは、ボクたち亜人とも普通に接してくれるようになったからね」
「将軍ヒュルカさんとも、あたしはお友だちになりましたから」
「隣国が『十賢者』の支配地域になったら、辺境の平和も危なくなりましょう」
リゼット、ハルカ、ユキノ、プリムが同意する。
方針決定だ。
「それじゃ、シルヴィアのところに行ってくる」
「お供します。ショーマ兄さま」
俺とリゼットは席を立った。
お茶を飲みながら、隣の部屋の魔法陣の上へ。
湯飲みをハルカに渡してから、『魔法陣転移』を起動。
俺とリゼットは、そのままシルヴィアの寝室へと転移したのだった。
いつも「ゆるゆる領主ライフ」をお読みいただき、ありがとうございます!
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ユキノとシルヴィアも登場して、『辺境の王』の仲間はますます充実します。
新たに登場ヘイたちも、戦いに家事に大活躍です。
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