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希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―  作者: 篠宮 楓


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吟の帰還 1 【商店街夏祭り企画】

さー、醸の燃え尽き第一弾がゆるゆると迫ってきますwww


「母さん、午後から店頭の準備し始めるけど店の方任せて大丈夫?」

昼ごはんの素麺をずるずるとすすりながら、醸は台所に立つ雪に声をかけた。



昔ながらの作りが残る篠宮家は、居間の横に小さいながら土間の用もたせる地面むき出しの台所がある。

電化製品は湿気の関係で土間から上がった部分に置いてあるが、料理を作る雪はつっかけをかたかた鳴らしながら、これから戻ってくる燗の為に天ぷらを揚げていた。

「いいわよ。商店街の皆も準備に入ってるから、お店はそこまで忙しくないし。どちらかといえば、燗さんが忙しそうなのよねぇ」

大葉の天ぷらをキッチンペーパーに上げながら、雪はコンロの火を消した。


中央広場の目の前という好立地に立つ篠宮酒店には、酒屋の他にもう一つの顔を持つ。

商店街で実施するイベントの準備などに、倉庫の一つを貸し出しているのだ。

普段はキーボ君の集合出立場所として使用されることが多いが、祭りやイベント時の資材置きにもなっている。

お祭り好きの調子ノリDNAを受け継いでいる篠宮家先祖の誰かがそう決めたようなのだが、自ら志願したんだろうなということは燗を見ていてもうなづける。


「……」


醸は最後の素麺をすすりながら、思わず遠い目で倉庫の方を見つめた。


……俺、親父の後継ぐの……酒屋だけだからな。


性格の似ている吟ならば「姐御!」ていう感じで商店街に君臨しそうだけれど、いかんせんそこは大人し目の長男の醸。

燗のように、キーボ君に体アタックをかましたり情報集めに商店街を駆け回ったり、情報通の篠宮の名前はさすがに継げないだろうなと確信している。

そこらへんは、親父に死ぬまで現役でいてもらおうと気付かれないところで決心しているのであった。



その親父である燗は、夏祭りで使う資材なんかを倉庫から運び出して商店街の皆と準備にいそしんでいる。

向こうの方から、たまに燗の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

自分がいるのだから、そういう裏方は俺にやらせればいいのにと思う醸ではあるけれど……。


「まだお前には早いってぇの!」


歳も歳だし代わろうかと聞いたが、がははと笑いながら燗に拒否された。




「そういえば姉さん、今年も祭りに帰ってこないつもりかなぁ」



汁椀と箸を雪に渡そうと立ち上がった醸は、ぼんやりとそんなことを呟いた。

燗と喧嘩して出て行った姉は、ここ数年、夏祭りに戻ってきていない。

秋に向けてギャラリーの品物やレイアウトの変更など、お盆中が一番忙しいらしい。

墓参りには来ているけれど、うちには顔を出すかもしくは出さずに帰る。

溜息をついた醸を横目に、雪は黙ったまま目を細めていた。








「よいしょっ……と」

酒屋で使用している倉庫に入れてあった冷凍ショーケースを台車で運んできた醸は、何ともおっさんくさい掛け声を上げながらそれを店頭に据えた。

いつもならば休憩スペースになっている吟の作ったベンチの前に、冷凍ショーケースを置けばほとんど準備は終わったようなものだ。

あとは電源を入れてケースが冷えたら、店の冷凍庫で冷やしている冷凍酒を移していくだけ。

つり銭も簡単に済むようにほとんどのものがきりのいい価格にしてあるし、何よりも種類が少ない。

いつも店頭でイカ様を置いているテーブルといくつか椅子を表に出して、紙コップやスプーン、簡易的なレジスターを用意すれば営業開始。

他の店に比べれば、まったくと言っていいほど準備することはないに等しい。


配達に関しては商店街の皆が気を使って早めに発注をかけてくれるおかげで、前日駆けずり回る必要もないし。

普段もそうだけれど、こうやってイベントになるとこの商店街の皆がどれだけ温かいかよく分かる。

自分の店だけの事を考えるのではなく、商店街全体を思って行動しているのを感じることが多い気がする。


力仕事の一服にとベンチに座って汗を拭っていた醸は、感慨深くため息をついた。


ここで、これからずっと店をやってくんだよなぁ。


店先からは、中央広場に出来上がっていくイベント会場がよく見える。というよりど真ん前だ。

燗は昼飯を食べに一度戻って、すぐさままた設営に駆け出して行った。

見える範囲にはいないけれど、きっとどこかで笑いながら動いてるんだろう。




なんだかよく分からないけれど、唐突にこの先の事が目の前に突き付けられた気がした。



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