25
――翌日。
私の隣の席に彼はいない。何やら用事があるらしく、遅れて学園に来ると教師が言っていた。もうすぐ留学期間が終わるので、手続きなどで何かと忙しくなると以前話していたからおそらくそうなのだろう。彼が隣の席にいないことに少しの寂しさを覚えながら、私は授業に耳を傾けていた。
―――バタバタバタ
(なんだか廊下が騒がしいわね)
授業が中盤に差し掛かった頃、突然廊下が騒がしくなった。今は授業中なので廊下には誰もいないはずなのに、なぜか足音が聞こえてきたのだ。その足音はこの教室に近づいているようでだんだんと大きくなり、足音が止まった瞬間教室の扉が大きな音を立てて開かれた。
―――バンッ!
「リリアナ・ルーシェント!」
私の名前を叫び、扉から現れたのはシェザート殿下だ。私はこの光景に既視感を覚えずにはいられなかった。
(お花畑の次は馬鹿が来るなんて……!絶対にろくなことじゃないわ!)
おそらく昨日のことで私に文句を言いにきたのだろう。アンバー男爵令嬢はあの後シェザート殿下に泣きつき、それに怒ったシェザート殿下が何も考えずにここまでやって来た、というのが私の予想だ。そして猛烈に嫌な予感しかしない。私はため息をつきたい衝動を抑え、返事をした。
「王太子殿下。一体何事ですか」
「はっ!何事かだと?よくもそんなことが言えるな!」
「落ち着いてください。今は授業中ですので後に……」
「授業など知ったことか!お前、昨日ユランをいじめたそうだな!」
「いじめてなど」
―――バシッ!
シェザート殿下相手に正論を言っても無駄なのはわかっているが、人の目がある以上黙ったままではいられない。いじめてなどいないと言おうとした瞬間、頬に熱が走った。




