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「……アンバー男爵令嬢。私に何か用でも?」
「もうリリアナさんったら!私たちの仲なんですからユランって呼んでくださいよ~」
「結構よ。だからあなたも私のことはルーシェント公爵令嬢と呼びなさい」
「えっ?なんでそんな悲しいこと言うの?私たちお友達じゃない!」
「私はあなたと友達になった覚えはないわ」
「ひ、ひどい……。ぐすん」
「悪いけど急いでいるから失礼するわ。ラルフ様、行きましょう」
「あ、ああ」
今の内にここから離れようと彼の手を取り、図書室から出る。少しでも離れようと懸命に歩くも、後ろから彼女の大きな声が建物中に響き渡った。
「私とリリアナさんはシェザくんのお嫁さんになるんだから、絶対にお友達だもん!!」
(余計なことを……!)
私は彼女の言葉に振り返らず歩き続け、気づけば教室に戻ってきていた。クラスメイトはすでに全員帰っており、教室には誰もいない。
「はぁはぁ……」
「リリアナ嬢」
「……何かしら?」
「えっと、手が……」
「手……?っ!ご、ごめんさない!」
ラルフ様からの指摘に私は急いで手を放す。先ほどのことを聞かれるのかと思っていたが、まさかの発言に私はあわてふためいた。
(わ、私ったらずっと手を!?)
婚約者であるシェザート殿下とは当然手を繋いだことなど無く、人生で初めて男性と手を繋いだことになる。まさか無意識に図書室から教室までの長い距離を自分から手を繋いでいたと知り、恥ずかしさといたたまれない気持ちでいっぱいになった。それにどうしてか頬が熱い。
「大丈夫だよ」
「そ、そう?それならよかったわ」
「僕はもっと繋いでいてもよかったけどな」
「えっ!?」
「クスッ。冗談だよ。リリアナ嬢の顔、真っ赤だ」
「~~っ!!こ、これは夕日のせいよっ!」
「じゃあそういうことにしておこうか」
「本当だってば!」
「わかったよ。じゃあそろそろ帰ろうか。この時間ならもうみんな帰っちゃってるだろうね」
「あ……」
ここでようやく私は彼が冗談を言って、さっきのことにはあえて触れないでくれたということに気がついた。おそらくアンバー男爵令嬢の言葉は彼にも聞こえていたはずだ。それなのにこうして何事もなかったように接してくれる彼の気遣いがとてもありがたかった。
「……ありがとう」
「ん?どうかした?」
「ううん。なんでもないわ」
「そう?それじゃあ帰ろうか」
「ええ」
そうしていつもと変わらぬ挨拶を交わし、沈む夕日を眺めながら帰路に就いたのだった。
そしてこの後、私の元に一通の手紙が届くことになる。




